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[二部八章]あの頃の記憶(後編)

後編です。


『いつの間に。それにこれ、なんで俺に?』


「頑張る君へのご褒美って感じかな?一応ほら、私ここの病院で医者やらせてもらってるからさ、その跡取り君に何かしてあげたりしてもおかしくないでしょ?」


『いや、だからってこれ纏めるの時間かかっただろって‥‥‥‥』


「あぁ、私が勉強した後だから。私が必要なくなったんだったら、必要としてる人に渡すのが自然でしょ?」


‥‥‥‥明らかに新品の医学書を見て、嘘が下手だなと思う。

両親から少しだけ聞いた話だけれど、この医学書も、論文も、彼女が必要とするレベルの物とは到底思えない。だからこれは‥‥‥‥


(俺だけへの、贈り物‥‥‥‥‥)


『‥‥‥‥‥そう、か。』


「うんうん。だからほら、高校生になったらちゃんと出席点も取るんだよ?たまに私のお古で良ければこういう差し入れしてあげるから、ね?」


ふわりと微笑む彼女の笑顔。

なんとなく、お礼を言い忘れたことに気が付いたのにお礼が言えなくって、でも何かがこみあげてきてこれ以上は何も言えそうになかった。


「頑張ったらその分報われるよ。だから、高校も頑張れ~ってね。」


そう言って彼女はぱたぱたと仕事に向かって行った。


『‥‥‥‥‥‥』


部屋に戻り、無言で渡された医学書や論文を読む。

難しいと思ったところには図ったかのように解説のメモが挟んであった。


思えば、この頃から淡い想いは抱いていたのかもしれない。

ぎゅっとその医学書を抱きしめて、彼女のあの微笑みを思い返す。


『‥‥‥‥‥‥絶対、追いつく。』


ぽつりと零れた決心。

他意なく彼女の隣に立って仕事をしたいと思う、と同時に、別の意味でも隣に立ちたかった。

だから、必死に勉強した。

勉強しすぎた時には未希に怒られて、暫く勉強禁止!!などと言われたりもしたけれど。

高校も、大学もちゃんと出席して。

医者としての免許を取って、病院を継いだ。


(これで、やっと追いつけたか‥‥‥‥‥?)


そう思ったけれど、院長になってから一つ、気になることができた。

彼女は病院の一室を自室兼研究室として使用している。

それ自体はいいのだが、誰もその部屋に入れたがらないのだ。

外見は幼くても人柄の良さと愛嬌で人気もあったから、患者や他の医者から口説かれても気づかないくらいには自分に対する感情については鈍感だったけれど。

何があっても、自室には誰一人として入れたがらない。

両親に話を聞いても、それはこの病院に来た時からずっと変わっていないらしかった。

両親ですら入ったことがないというから驚きだ。


だから、ふとした瞬間に興味本位で、未希をからかうつもりで部屋に入った。

多少散らかってはいても清潔な空間で、まぁ、なんかの標本がやたらと多いなとは思ったけれど、その程度の認識でしかなくて。


でも、まずいなとは思った。

暴れるからと抱き上げた瞬間にふわりと彼女の香りがして。

気がついたら彼女を抱きかかえたまま彼女の作業を見守ることになっていた。


学校や病院でそう言った感情を向けられたことがないわけではない。

むしろそう言った感情を向けられやすい顔立ちをしていることは両親や従妹からして分かっていた。

けれど、まさか自分がそんな感情を抱いているとは思ってもみなかった。

抵抗をやめて作業をする彼女をぎゅっと抱きしめる。

出会った頃から変わらない、小さな身体はとても暖かくて、柔らかかった。

そして、自分の感情を自覚せざるを得なかった。

自覚したと思った時には言葉に出ていて。

拒絶されるかもしれないと思った言葉は、案外すんなりと受け入れられて。


(無防備‥‥‥‥)


そう思いながらも、嫌がるかもしれないと分かっていながら、自分の行動を止められなかった。

塞いだ唇を離した瞬間に、熱に浮かされたような瞳で見つめられて、それ以上の事をしでかしそうになったけれど、それを必死で抑え込んで。


『ほら、早く作業に戻れ。』


何でもないような顔をして、彼女の顔を自分から逸らした。

自分は感情が顔に出ない、赤面することもないと分かっていた。

けれど、見られたくなかった。

己の欲望を満たした瞬間の、思わず上がってしまう口角を見られたくなかった。

まだ、隠しておきたかった。


(こちとら十数年片思いしてたんだ。まだまだ困った顔を見せてもらわないと困る。)


少々(?)サディスティックな性格なのは自覚していたけれど。

今それがバレてしまったら、未希の事をめちゃくちゃにしてしまいそうな気がして。

それでもいいと思いつつも隠してしまったのはきっと、もっと悶々と自分の事を考えてほしいと思ってしまったからで。


(我ながら歪んでいるんだろうな。この性格は。)


そう理解しつつも、直す気はなかった。

反応からして初めてであろう唇を奪った後も抱きしめたままでいると、頭の中が真っ白になっていますと宣言しているかのように未希は先より集中力が格段に落ちた状態で、それでも俺の言うことを聞こうと必死になって作業を続けている。

歪む口許を隠すように抱きしめた体にすりついてみると、ぴくりと反応が返ってくる。

それがどうしようもなく愛おしくて、敢えて何も言わずに強く抱きしめる。

未だ暫くは、翻弄されていて欲しいものだ。

そして願わくば、いつかは俺だけの事を考えるようになればいいと、そう思う。



要さんは超絶ドSです。

作中で多分一番のドSです。

でもこう、なんででしょうね、ノーマルじゃない方が面白以下略

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