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[二部八章]あの頃の記憶(前編)

要少年の記憶です。未希姉自体は、天上から落っことされてからずっと各国の病院を転々としていたので、本来ならかわしろ病院もその一環になるはずだったんですけど、途中で葵さんに出会ってからこの辺に住んでるんなら~みたいな感じで居座ってるような感じです。


その少女は自分より少しだけ身長の高いだけの人物だった。

ある日突然両親の元を訪れて、病院の仕事を手伝いたいとか言い出したらしい。

たまたまその場に居合わせた、というかその話を盗み聞いてしまったのが、初めて彼女を見た時だった。


(‥‥‥‥‥お綺麗な貴族みたいだ。)


見た目はちょっと高貴な感じがしたけれど、初めて感じたのはそれだけ。

だから、全く彼女に興味はなかった。

あったとすれば、その数日後から彼女が病院の一室を借り切って何かをしていることを知って、一体何をしているんだろうかと思ったことくらいだった。


(病院はホテルなんかじゃねぇのに。)


必死に、両親の期待に応えたくって勉強をした。

学校へ行くことよりも、患者たちの様子を両親の代わりに見て回るのが日課になった。


「小さいのにえらいねぇ。」


患者たちはそろって俺にそう言うけれど、病状についての説明なんかはしてくれなかった。

なのに。


「佐藤さん、今日の体調どうですか?昨日の手術でちょっと体力削られてるはずなので、無理しないで少しでも異変を感じたら教えてくださいね。」


「えぇ、未希ちゃんだったかしら。貴女に手を握られるとなんだか体調がよくなる気がするの。いっつも見回りありがとうねぇ。先生に言いづらくても、未希ちゃんみたいに私達の一番近くにいてくれるお医者さんがいるから安心していられるわ。」


「ふふ、言いすぎですよ、でも、そうですね。そう言ってくださってありがとうございます。」


医者にしか許されないはずの白衣を、何度も袖をまくって、裾を引きずらないように裾をあげた彼女がぱたぱたと院内を駆け回ると、一斉に患者たちは彼女へと声をかけて、感謝の言葉やねぎらいの言葉、時に病状についての相談事、それ以外の相談事をし始める。


(なんで、俺と年変わらないくらいだろ‥‥‥‥‥?)


不思議に思って両親に問うと、彼女はあれでも成人済みで、とても優秀な医者だということを教えてもらった。

それに、彼女は医者としてだけでなく、個人としての悩みもしっかりと聞いてくれるから患者からの信用も厚く、とても重要な人材なのだと話された。

最初は、少し。いや、大分嫉妬したかもしれない。

けれど、いつの日だったか。

街で車の大きな事故が発生したとかで、多くの重症患者たちが運び込まれた日があった。

誰もかれもが血まみれで、息をしているのが奇跡に見えるような人だっていた。

患者を見慣れていると思っていた俺でも、少々吐き気がするくらいの血と臓物と死の臭い。

その中で、いつもの柔和な笑みをかなぐり捨てて駆け回る彼女を見た。


「重傷者から順に診ます!もっとも重篤な患者は私のところへ回してください!今すぐに!全員救います。諦めないで!」


そう叫びながらも、患者たちへ必死に声をかける彼女を見た。

看護師たちへ指示を飛ばす瞬間は真面目な顔、必死な顔をするのに、患者たちへとむける表情はずっと笑顔だった。


「大丈夫。安心して。もう怖くない、痛くないから。会いたい人の事、考えて。」


ふわりと、空気中に雪のような光が舞ったような気がした。

目をこすってもう一度見るとその光は見えなくなっていたけれど、患者たちの様子は明らかに変わっていたし、濃かった死の臭いはどこかへと消えさったかのように薄くなっていた。


「要、これからちょっと忙しくなるから部屋にいなさい。」


親にそう言われて、大人しく部屋に戻った。

きっと、あんな風に俺は患者へ笑いかけることはできないだろう。

元々目つきが悪いと言われているし、学校へ行っても簡単な内容ばかりでつまらなかったし、それが表に出ていたのか、俺の事をみんな嫌煙して遠巻きにされていたから。

でも。


(名前、何だったっけ。)


彼女が必死に駆け回る姿を見かけたのはあの時が初めてで。

あの時は、死亡者は結局出なかったとか、彼女が何日も寝ないで患者たちの様子を見続けていたらしいことを聞いた。


「あれ、要君だ。今日も学校はさぼり?」


高校入学目前になったころだったか、昼間院内をうろついていたら、ここに来た時と外見の一切変わっていない彼女に声をかけられた。


『別に。中学までは出席日数なんか関係ないって言うし、行きたいとこも受かるだろうからって暇だからちゃんと勉強になりそうなこと探してるだけだ。』


「んー、それはいいんだけどさ、夜中寝る時間削ってまで勉強するのは良くないなぁ。」


『は。』


ぽん、と肩に手を置かれた瞬間、慢性的に睡眠不足と化していた身体が軽くなるような感覚があった。

それはそれとして気にはなったが、聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。


『俺が勉強してるの、いつ見たんだよ』


「ん?ずっと。だって、ほら、患者さんたちの様子窺いに行ってたり、たまに夜中にカルテ漁って症例の勉強してたでしょ。」


ちょっと言葉が出てこなくなった。

カルテを漁っているのがバレたから怖くなったとかじゃなくって、その時間活動しているのを知っているってことは


『見てたのか?今までずっと』


「そうだねー‥‥‥‥‥や、悪い事じゃないから止めなかったけど、ほら、こう、高校生になったら流石に病院に入り浸りできないでしょ?だからと思ってちょっとした医学書をそろえてみたんだけどどうでしょーか。」


『?』


言っていることの意味が分からず、首をかしげる。

すると、スッと何冊かの医学書と、多分最近の物であろう医学の論文をまとめた冊子を手渡された。

‥‥‥‥読みたかったけれど両親の書斎に無かったものと、研究会などに参加しないと手に入らないであろう論文の数々。彼女はいつこれらを探して、手に入れて、論文を冊子にまとめたのだろうか。





感情の自覚って難しいですよね。

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