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[二部八章]未希と要


最近ちょっと困ったことがある。

何が困るって、まぁ相手の事を思うと良くないなぁ、程度の物ではあるんだけれど。


『要くーん。自室籠るのに何で君がついてくるのかなぁ。』


初めて出会った時にはあんなに小さかった少年は、今では私の身長なんかとっくに抜かして私の方が彼を見上げないといけなくなってしまっている。


「俺の病院だからだが?」


しれっとした答えが返ってくるけれど、そもそも要君が若くして院長になる前から、私の研究室には私以外誰も来ないようにするというのが約束というか契約だったはずなのだ。

だってほら、人外の解剖とかちょっと普通の人が見たらダメな奴じゃない?


『それはそうでも、昔も今も変わらず駄目なんだけど。危険だって何度も言い含めたはずなんだけど。それに私の自室でもあるし、あの部屋。』


あまり良くないのは分かっているのだけれど、ソファで練るくらいの事は時折しているので実質病院内に自分の私室兼研究室を持っているようなものだ。

まぁ、私がこの病院に来てから、私の受けている、というか垂れ流し状態になっている加護のおかげでこの病院内の患者の死亡率は異常な程に低い。だから、要君の両親である二人も私が院内に部屋を持つことを了承してくれたわけなんだけれども。


「駄目じゃない。誰が貸してると思ってるんだ、その部屋。」


『かわしろ家だけど。でも契約の際にちゃんと書いたもんね。不必要に他人が私の自室に入るのは厳禁だって。』


かわしろ家。このアカイム街でというかこの辺りで一番大きな病院。

色んな科がある病院だけれど、名前は敢えてひらがな表記。というのも、かわしろ、って“鈹死路”って書くんだよね。いや、病院でその漢字は言ってるのだめでしょ、というかそもそも要君のご先祖様は何を思ってそんな感じを苗字にしたんだろうか。

まぁそんなことはどうでも‥‥‥いいことにして、問題は跡取りになった要君が最近ずっと私の部屋に入ろうとあの手この手で付きまとってくるのが困る。

要君も確か成人してるはずだし、銀髪金目のいわゆるいけめんとやらの彼は院内でも人気が高いため、あんまり一緒にいるとおかしな噂が立つ‥‥‥‥‥かもしれない。いや、私の身長が伸びてないから立たないかもしれないけど。


「じゃあ、用事があるから入るぞ。」


『何の御用でしょーかー』


「お前に用がある。」


『はぇ?何かあった?』


「良いから良いから。」


いや、良くないのである。丁度今日は色々な。そう、色々なアイテムを広げているから一般人が入るとこう、SAN値ピンチ、というやつになるのでダメなのです。


『話なら別の部屋で聞くから!だーめーでーすー!』


「知らん。入るぞ。」


そう言って、非力ながらも扉を閉めようとしたのにずかずかと部屋に入り込んできて、私を小脇に抱えたかと思ったら膝の上にのせて椅子に座る要君。


『????????なんで?????』


「用があるって言っただろ。」


いや、それは分かった。もういい、一応やばいものはそう見え無くする魔術をかけてあるのでちょっとやばい人の部屋程度にしか見えないはずだからもうそこは諦めるしかない。男の人には流石に敵わないし、と思っていたらなんでか膝の上にのせられた。しかも逃げられないようにしっかりと抱きしめられている。


『何だろうこれは。』


「用があるって言っただろ。」


『うん、その用事って?そしてこの体制は何故?』


「お前の部屋を見る用事。そしてこれは安心するから。」


『それ用事って言わない。後安心って私抱き枕じゃないよ?』


そう言いつつも無駄だと分かっていながら抵抗を試みてみる。

案の定抑え込まれた。困る。なんというか、こう、他人の体温を感じる距離ってとても困る。

見た目は小さい(もう認めるけどさ‥‥‥‥)けどこれでも中身は大人なのである。なんなら年上なのである。


「まぁまぁ。」


そう言いつつ私を離さない要君。

よし、こうなったら強行突破だとばかりにジタバタと暴れてみる。無駄だった。


『もー‥‥‥‥見てても面白い事なんかないんだから自室で研究してればいいのに。ほら、なんかこの間書かないといけない論文がーとか言われてなかったっけ』


「面白くなかったら来ない。あとそれはとっくに終わった。」


‥‥‥‥‥このハイスペックめ!と文句を言いたくなるけれどそれは文句じゃないと返ってきそうなのであきらめる。


『はいはい、じゃああれとあれ取って。この体制じゃ自分でとれない。』


そう文句を言うと、何も文句を言わずに言ったものを取ってくれる要君。

‥‥‥‥‥本気で実験を見に来ただけっぽい。

それならと私は人に見られても平気そうな実験を始める。


‥‥‥‥‥

暫くしても、無言の時間が続く。


『面白いの?見てて。』


「じゃ無かったら見ない。あとお前それ普段からやってる事か?」


『うん、そうだけど。』


ちょっと違う気もするけれどまぁ誤差の範囲内だと思う。うん。誤差だよ誤差。


「ふーん。」


そう言いながら、静かに部屋を見渡す要君。


『‥‥‥‥‥‥流石にあんまり見ちゃだめだよ。いろいろ危険なのもあるし。』


「へぇ?どれだ?」


教えるかー!!と言いたくなるのを堪えて私は実験を続ける。





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