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[二部八章]妖刀”童子斬”


見物を決め込むのはいいけれど、先程あっちを挑発したのが私だと認識しているのか、時折鉄柱がこちらに向かって飛んでくる。


(ほい、と。)


それをプリズム片で軽く方向転換させて避ける。

流石に生成して投げるという行為自体は同じでも、年季が違うのだ。

‥‥‥‥‥たとえそれの半分くらいを忘れてしまっているとしても、身体はやることを覚えている。

ぼぅっと考え事をしながら戦闘する文人を見守る。

流石というか、童子斬は連中の装甲をいともたやすく斬り裂く。

本来ならば群れを作って活動し、数でこちらに不利な場面を展開するムーンビースト達だけれど、この狭い電車内ではそんなに多くのムーンビーストが同時に活動できないことが仇となってさっくりと処理をされてゆく。


(‥‥‥‥‥‥結構、筋はいいんだよね。)


彼の剣筋を見ながら、思う。

無駄がないし、しっかりと相手の急所を発見したら最低限の動きできちんとその急所を狙う。

言わなくても、ムーンビースト達には斬る、よりも突く、方が効果的だと理解しているらしい。

まぁ、もしかしたら無意識なのかもしれないけれど。


(幽鬼は、多分、こういう風にならないようにと願ってはいたのだろうけれど。)


彼の。文人の父である幽鬼の、何とも言えない表情を思い出す。

人間として生きていてほしかった。そう言いながらも彼がここまでの剣の達人になるまで修行するのを止めなかった。

それはつまり暗黙の了解というか、なんというか。

お家の事情とやらがあるのかもしれないけれども、彼の剣の腕は“何かあったときのための自己防衛”の域をとっくに越している。

きっと、彼が望めば敵は意図も容易く処理できることだろう。


(‥‥‥‥‥巻き込んだ、と言いづらいのは、彼の実力があるからなのかもなぁ。)


そう思いつつ、ぼんやりとその背中を見守る。

普段はへらへらとしている彼だけれど、こういう時にはきちんと、というか、こう、真面目な顔をすればそこそこ整った顔立ちをしているなと思ったところで、頭を振ってその思考を閉ざす。


(何考えてるんだろう。戦闘中に。)


きっと、彼は今目の前にいる敵を相手取ることに必死になっているだろうに。

教えて(?)いるこちらがそんな気を抜いていては万が一の時に対応ができやしない。


(しっかり、しないと。)


けれど何故だろうか。頭が働かないのだ。

思考が鈍くなり、何も考えられない。

今まで、そんなことで悩んできたことなんかなかったはずなのに。

失ったものを、穴を埋めたがっているのだろうか。私が。

沢山の命を奪ってきた。様々な人間も、異形も、等しく敵となった存在は殺してきた。

神格だって殺してきたんだ。その時だって、何の感慨も抱かなかった。


『‥‥‥‥‥‥ぁ。』


ふ、と気が付いた。

私がずっと何も考えないでいた間。

私が、ただただやることに集中していた間。

ずっと、“彼”が傍にいてくれたことを思い出す。

内亜が、ずっと笑って、おどけて、ふざけて。


(私の、代わりに‥‥‥‥)


ずっとずっと、感情をあらわにしていてくれていた。

ティナに、感情をあげたことを話した時、一番静かだったのは、内亜だった。

あの時、彼は何を思っていたのだろうか。

長い、長い時間を一緒に過ごしてきた。

まるで、兄のような存在だと、無意識のうちにそう思っていた。

いつの間にか、頼りにしていた。そんな彼を。


(一人に、しちゃった。)


本人は修行だって言っていた。

けれど、私は知っていたはずだった。

彼が、どれだけ寂しがり屋なのかを。

彼に、どれだけ守られてきたのかを。


(内亜)


私を、好きだと言ってくれる文人、でも、内亜はそうじゃないけれど。

そうじゃなくても、それに等しい何かをずっとくれていた。


『‥‥‥‥‥‥あいたい』


ふと零れた言葉。

何かがこみあげて来そうになって、乱暴に目元をこすってこみ上げるそれを止める。


「終わったよ、葵。」


そう言ってふわりと笑いかけてくる文人。

私を、好きだって言ってくれる人。

内亜やネフィー、若狭、他の皆とは違う温かさをくれる青年。

けど、少しだけ顔を見たくなくて。


『お疲れ様。』


そう言いながら、頭を伏せさせてその柔らかな髪を撫でる。


「えへへ」


『‥‥‥‥‥』


気を紛らわしたくって、ふと結界の解けた、元の世界でスマホを確認する。


“二日経っている。”


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥私は八代になんて言って出てきたのだったか。

焦って着信を確認する。

不知火八代の文字が躍っている。うん。何百通?かの着信履歴がある。

咄嗟に折り返し、八代が出た瞬間に平謝りをする。


『や、八代ごめん!!結界に閉じ込められて連絡が』


「言い訳はええ。はよ帰ってきなはれや。‥‥‥‥‥仕事、山積みやで?」


『ひゃい!!』


こう、もっとぐわーっと怒られると思っていた。なのに思った百倍は冷静な声に、私は背筋の凍るような感覚に陥って、一瞬で文人の襟首をつかんで窓から飛び出す。


『帰るよ!!』


「ちょ、苦し、葵、わか、わかったから!」


一瞬で翼を生成して、襟首から手を放して手をしっかりと握ってから高速で飛んで学校へと帰る。

魔力の消費がとかそんな問題じゃない。鬼を怒らせたら怖いことは分かっているはずだったのに。


『どれもこれも、あのムーンビーストの群れのせいだぁぁぁああ!!!!』


とりあえず、早く、早く帰らないと!!





葵さんと内亜の関係性は凄く特殊だけれど、ありふれたものでもあるのです。

一番近いのは兄妹のような関係。誰よりも信用している相手は誰かと聞いたら二人とも即答するくらいには仲が良いです。

無論、旅の中で喧嘩をすることも一番多いですが、けんかするほどなんとやらってやつなのです。

けれど、どうあがいても恋仲とかそっちにはならないのも信用が誰より、何より厚いからでしょうね。

多分二人にその点聞いても、そんな関係性にはならないって即答すると思います。

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