[二部八章]フラグって怖いよね。
何だか久しぶりな気がする主人公回です。
カタン。
物音がして、ふと目が覚めた。
とても、とても長い間眠っていたような気がする。
「葵?起きたの?おはよう。」
『んぅ‥‥‥‥』
長い間電車に揺られていたからか、それとも、転移なんて久しぶりに魔術らしい魔術を使ったからかは分からないけれど、少々意識がふわふわとする。
『あれ‥‥‥‥なにしてたんだっけ‥‥‥‥‥』
目をこすりながら欠伸をかみ殺して辺りを見渡すと、人気のない電車内でどうやらことぶ‥‥‥。
‥‥‥‥‥文人の肩を借りて眠ってしまったようではあった。
けれど。
『長い夢、見てた気がする。』
「夢?まぁいいんじゃないかな。妖刀も手に入ったし、後は帰るだけなんだから。」
ふ、とその言葉に引っ掛かりを覚える。
『文人。』
内亜と旅をしていく中で学んだこと。その中の一つに引っ掛かる。
「ん?」
『そう言うフラグって建てるとろくなことに』
そう言いかけた瞬間。固有結界に閉じ込められた時の感覚が全身を襲う。
辺りが急に暗くなり、人気が無くなる。どうやらほかの乗員に被害は行かなかったようだけれど。
「‥‥‥‥‥‥」
気まずそうな顔をして目を逸らす文人。
『‥‥‥‥‥言霊って、分かる?』
「はい。」
『特に、私と文人なんか神格とか色々混ざってたりとかで“そういうもの”を寄せ付けやすい性質があるの。』
「はい。」
『でね?さっきの文人の発言はフラグ、って言ってね。』
「はい。」
『‥‥‥‥‥‥こんっの馬鹿ぁぁぁぁああ!!』
「ごめーんっ!!!!!!」
あぁもう。説明をしていなかった私も悪い。気を張ることを忘れていたのも悪い。でも。
『何でよりによって帰りにこんなのに巻き込まれるわけ‥‥‥‥‥』
そう呟いた瞬間。けたけたけたと、耳障りな嗤い声のような鳴き声が聞こえる。
この特徴的な音を発する神話生物は一種類しかいない。あの醜いカエルのような、
そこまで考えて、ふと何かを思い出しかけた。
泣き笑いながらバールを振りかざす、誰かを見た気がした。
(誰、だっけ。)
大事なきっかけになった人物の気がした。
けれど、そんなことを考えている余裕はなくって。
隣で座る文人は少々不安そうな顔をして辺りを見渡す。
「え、と‥‥‥‥なんか聞こえてくる気がするんだけど‥‥‥‥」
『うん、聞こえるね。』
あぁ、そう言えばムーンビーストはそんなに強敵じゃなかったはず。
だったら、ここは彼に任せよう。
「聞こえるね、って葵‥‥‥‥‥」
『それじゃあ、今から課外授業。この鳴き声が聞こえたら、周囲の警戒を怠らないこと。この鳴き声の主は“ムーンビースト”。クトゥルフ神話における異形で、大きくて醜いカエルのような姿が特徴。』
「え、何それどうするの?」
『基本的に殺意、悪意、邪気しか持たない存在だから駆除対象。たまに魔術を使う個体もいるから気を付けないといけない。』
“あの時は”そんな個体いなかったけど。そう思いだしかけて、思考が止まる。
‥‥‥‥‥私は、いつの事を思い出そうとしているんだろうか。
駄目だ。思い出して良いものなのかもしれないけれど、敵がいる中、そんなことを考えている余裕はない。あったとしてもそれは慢心にしかならない。
「魔術が使えるカエル‥‥‥‥想像がつかないなぁ」
そう呟く文人。さて、ならばご対面と行こうじゃないか。
私は黒い方のジェミニを取り出して、天井へと銃口を向ける。
「葵さ—————」
『見れば早い。』
なにかを言われる前に引き金を引く。
その瞬間、けたけたと嗤っていた声が、怒ったようなそれに変わる。
「Oh‥‥‥」
思わずと言った感じで漏れた声を気にせず、解説を続ける。
『覚悟してね、多分複数個体いるから。』
そう言った瞬間。真っ暗闇しか見えなかった窓を、大きな音を立てて割りながら巨大な醜いカエルの異形が姿を現した。
こちらをしっかりと視認(?)しており、多分敵視されていることも確定。
数は三匹。だけど、狭いこの列車の通路の中じゃみっちみち。
「うっわきっも」
一瞬青ざめる文人。
まぁ、私も初めての時は確か悲鳴を上げかけた、ような気がする。
‥‥‥‥‥‥‥思い出せない、それがすごく、悔しい。
(でも、後悔はしないって決めたはずなのに。)
それなのに、どうしても思い出そうとしてしまう。思い出を求めてしまう。
何故だろうか。思い出せない、あげてしまったものはもう取り戻しようがないものなのに、どうしてかもやもやとした感情のようなものが胸のうちで固まってどうにもならない。
これじゃ、ちょっと戦闘には参加しない方がよさそうだ。‥‥‥‥‥文人に流れ弾が当たってしまいそうな気がする。だから、平静を装ってそのまま解説を続ける。
『うん。あれ、鉄柱みたいなの生成して投げてくるからこう、避ける。』
そう言いつつ、さっそく投げつけてきた鉄柱をプリズム片で防ぎつつ解説する。
残念、避けるつもりが、反射的に防いでしまった。
「それ受け止めてるっていうんじゃないかな!?」
そう突っ込みつつも、きちんと二射目を回避する文人。
やればできるものだ。‥‥‥‥‥あんまりやりすぎると結界の外に影響が出てしまいそうなのでさっさと決着をつけようと思う。
『そうとも言う。ま、連中装甲あるけどその妖刀なら問題ないでしょ、ほらほら、早く斬って処理してきて。見てるから。』
そう言いつつ、空中に簡素なプリズム片を造り出して座って見物を決め込むことにする。
さて、どうなることやら。




