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言わなかった事。

二部七章の後のお話です。


落下が始まって、誰の目にも補足されないようになってから、ボクは大きく“翼”を広げてなるべく人気のない、静かな場所へと降り立つ。

何故って、この深紅の翼も、髪も、“角と尻尾”も、見られるべきじゃないと分かっていたから。


多分だけれど。“本性”をさらけ出していたら、ボクらはもっと多くの神々を殺すことができたんだと思う。けれど、それをしなかったのは、一重に、人間の住む地上への影響が大きくなりすぎるのを危惧したからだった。

人類に対する終末装置として創られた“ボクら”は、人格が分かれるだけの理由があった。

それは、本当の名前と、力の強大さ。それらを隠すため。

天音 六花という名前は、その本性をさらけ出さないようにするための、いわば封印だ。

ボクは終末装置として創られる際、“二つ”の生き物をもとに創られた。

一つは勿論、人間達へ溶け込むため、人間としての見た目、そして名前。

もう一つは、幻想の生き物と地上では呼ばれているらしい、“ドラゴン”としてのボク。

だから、若狭という人物にはとても興味が湧いた。自分と同じような存在に出会えるとは夢にも思わなかったから。

彼はドラゴンと人間のハーフらしいけれど、ボクはドラゴンが人間の皮を被って生活しているようなものだ。だからこそ、ドラゴンとしてのボクの方がいつも内側に籠って生活をしている。

人間としてのボクの方が性格的に難があるというのはちょっと皮肉な話だけれど、人間というのはそもそも神々に創られた存在そのものだ、何がある方がそれらしいとボクは思う。

けれども、そうだね。

ドラゴンとしてのボクっていうのは、というよりも、ドラゴンという存在そのものが神に近い存在だ。それを模倣して作る際に、どうしても模倣しきれなかった部分をボクという人間の部分で補ったと言った方が正しいのだろうか。

だから、と言う訳ではないけれど、うん。ボクを創った神はきっと分かっていてこの名前を与えたんじゃないかな。


“すべてを終わらせる終末装置 ラグナロク”


それが、ボクの本当の名前だ。

北欧神話は知っているだろうか。

その中で最後に語られる、“すべての滅亡”という意味だ。

この全てというものは勿論神々の事も含まれている。

じゃなかったら、神々が管理しているはずのボクが“神殺し”の力を持つわけがないじゃないか。

ボクを創りだした神が考えていたボクの役割は、そのラグナロクとして、万一の時、“神を含めたすべて”を終わらせること。

けれど、他の神々はそのことを知らない。ボクの事は、人間に対する終末装置だとしか知らされていない。

でも、それで良いとも思う。だからこそ、あの時神々への誅を下せたのだから。


それにしても、まぁ、ボクの勘というものは実際にドラゴンとしての性能というか、神に近い存在だからこそできた予言のようなものというか。コントロールできるわけではないけれど、いくらか先の未来を視ることもできなくはない。とはいえ、それはちょっとしたものであって、いつどこで起きるとか、そう言った細かい情報は分からない。


『分かればいいんだけどねぇ。』


ぽつりとつぶやく。

返ってくる声は何もない。

当然の事だけれど、少々胸のあたりがスッとしすぎるような気がする。


『言わなくってよかったの?来てほしいって。』


ドラゴンとしてのボクが問いかける。


『‥‥‥迷惑になるだけでしょ、お互いに。』


人間としてのボクが答える。


すこし、白状しよう。

あのバビロンという少年は、一緒にいてすごく心地が良かった。

初めて出会った時にはただの生意気な小僧程度にしか思っていなかったけれど。

色んな彼の表情を、いつの間にか目で追っている自分がいた。

辞書で調べたそこには、一つの文字が書かれていたけれど。


『ナイナイ。あれは絶対に無い。』


そう言ってあははと笑って見せる。誰もいないのに。

あの時、別れの時、ボクは笑えていただろうか。

ちゃんと、皮肉を言えていただろうか。

憎まれ口をたたいて、彼に呆れられていただろうか。

そう在ってほしいと、願う。

そうなってほしいと思う。


だって、この気持ちは隠して生きていくつもりだから。

そうじゃないと、いざって時に戦えないと困る。


『よし、誰もいないことだし、鍛錬でもするかぁ。』


『えー、結界張らないと流石に誰かに見つかっちゃうんじゃ‥‥‥‥‥』


‥‥‥‥‥それもそうだ。

じゃあやることもないや、と、その辺の地面に寝転がる。

大地の鼓動、生物の奏でる音。

‥‥‥‥‥こんなにも世界は美しいのに、ボクはそれを壊すために生まれてきた。

どうしてだろうか。

けれど、決めたんだ。ボクは。


『使命なんかに従ってすべてを壊すくらいなら、それを行おうとする相手にぶつければいいじゃないか。』


何処まで抗える?


そう問いかける自分の声に、今は自信をもってこう言える。


『自分ができる限り。できなくなったら、誰かに助けてもらおう。』


そうだね。そうしよう。


そう同意する声に耳を傾けて、少し、目を瞑ってみる。

意識が深くまで落ちてゆくのが分かる。


『みんな、ありがとうね。何にもなかったボクに、たくさんの物をくれて。』


言えなかった言葉を、ここで口に出す。

きっと、届かないと分かっていても。

さて、少し休んだらきちんと自分の仕事を果たそう。





ちょっとした心残りを敢えて残したまま、地上へと降り立つ六花さん。

さて、次の出番まではお休みですね。

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