[二部七章]さよならは言わない
戦闘から帰ってきて暫くの間、ちょっとボクはいろんな人に囲まれて大変だった。
どうやらボクが助けた人間が、ボクらの戦闘を遠くからぼんやりと見てその話を色んな人にしたかららしかった。
『あはは、ボクは大したことはしてないよ。バビロンがいろいろ教えてくれたからできたことだからね。』
嘘ではない。嘘ではないけれどちょっといろいろ付け加えたせいか吐き気がする。
けれどもまぁ、ボクと一緒になってバビロンまで囲まれていて、彼が囲まれているのはこう、ざまぁみろって思う。
ふと目が合ったので、口パクで
『ざ・ま・あ・み・ろ』
って言ったらめちゃくちゃ怒ったようにこちらへ来ようとするので自室へとさっさと逃げ込む。
(‥‥‥‥‥学びは、少なくなかった。)
実際、結構いろいろなことを知れた。それに、ボクの知識も役に立ったみたいだった。
結局のところあの星にシャンタク鳥が多かったのは、よその星にノーデンスでも出て夜鬼でも出ていたんじゃないかと思う。ま、夜鬼くらいなら彼らの戦闘力でも問題は無いだろう。
この星での唯一の戦闘。浄化作戦。‥‥‥‥正直なところ、楽しかった。
けれど。
『やっぱり、一人での戦闘の方が、気が楽だなぁ。』
誰かがけがをするんじゃないかとか、いろいろと心配になることが多かった。
だから、ボクは多分これからも、あまり変わることは無いのだと思う。
色々考えていると、どうやら意識がだいぶ深くまで落ちていたようだ。
(今、どれくらい経っただろうか。)
そう思って時計を確認すると、2時間程が経過していた。
『あー、呼び出されるならそろそろかな。』
そう思いつつ、部屋を出た瞬間にバビロンがボクの部屋の前に立っていて驚いた。
「お、丁度良かった。主様からの呼び出し。」
‥‥‥‥‥やっぱりか。丁度確認したいこともあったし、まぁいいや。
『分かった。バビロンも?』
「一応な。」
『そっか。』
そう言って謁見室まで無言で彼の隣を歩く。
‥‥‥‥‥‥思えば、彼にはいろいろと世話になったというか、面倒をかけたというか。
辞書でいろいろ調べているうちに、どれだけ自分が世間知らずだったのかくらいは把握できるようになった。
ま、謝れと言われて謝るような性分じゃないのでその辺りはどうでも良いのだけれど。
「着いたぞ。」
一瞬、ドアを蹴飛ばそうかと考えた。
けれど、それを名目にまた滞在時間を延ばされても困る。
だから、静かに扉を開く。
すると、ここに来た時と同じような姿で、アース=プラネットは立っていた。
「お疲れ様、大分落ち着いたみたいだね。」
『好き放題喧嘩したからじゃないかな。』
「あはは、そなたが来た当初は僕も腸が久々に蒸し焼きにされるところだったけれど、一応君の事を思ってさ。バビロンにはいろいろ教えてもらえただろう?」
そう言われてにっこりと微笑む。
『あっはっはっは、そんな面白いことした人誰だろうねぇ!ま、バビロンは色々と教えてくれたよ。』
「狂犬状態のそなただが?まぁ、それならばよかろう。下へと降りるがいい。ここで学んだ事、ゆめ忘れないように。」
その言葉は黙って肯定も否定もしないでおく。
でもきっと忘れないんじゃないかな。その言葉は心の内に秘めて。
『分かった。さっさと降りるよ。けどさ、ちょっと確認したいんだけど。』
「何を?」
『ここは上と下の狭間。つまり天上からも地上からも補足されない場所。そして、“神々の目が届かない場所”。あってる?』
「‥‥‥‥‥そなたの言いたいことは分かった。それは正解だ、と答えておこう。」
『それじゃあ、余計なおせっかいで守ってくれててありがとうね。』
「そなたの減らず口はいつになったら治るんだい?」
『ちょっと無理かなぁ。』
そう言ってクスクス笑ってから、バビロンの方を見て一つ、尋ねてみる。
『バビロン。君は‥‥‥‥‥一緒に来ないの?』
決して来ることを望んでいるわけではないけれど。
少し。ほんの少しだけ、気になって聞いてみた。
「‥‥‥‥‥」
バビロンはしばらくの沈黙の後、首を横に振った。
「行かない。俺はそっちへ行くべきじゃねぇと思う。若狭の野郎もどっかへ行った状態でここを手薄にしたくねぇからな。」
『そっか。』
そう言って私が微笑むと、バビロンは付け加えるように言った。
「でも。必要がある時は、そっちに行くぜ。‥‥‥‥‥それくらいだな。」
あぁ、全く。
ちょっとだけあの辞書に恨みができてしまったじゃないか。
『バビロン。ボクは君を認めるよ。だからボクからキミへ、最高の祝福を。』
そう、勝手に御守りになるくらいの、初めての、祝福を授けて。
祝福を受けた当の本人は怪訝な顔をするわでちょっと腹が立ったけれど。
そう。腹が立った。だから。
『君が必要になる時なんか来るもんかバーカ』
そう言って、舌を出す。
一瞬呆けたような顔を射てからバビロンは、
「何なんだよお前、最後まで減らず口だなお前!」
そう言って舌を出し返してきた。
『その方がいいでしょ。じゃあね。バビロン。』
「全く、二度と見たくねぇ顔だぜ。」
その言葉を聞いてすぐさまアース=プラネットの方へと向き直る。
「話は終わりかね?」
私は一瞬だけ黙ってから、頷いた。
『うん。お終い。』
「ではそなたを地上へと降ろそう。しかし覚悟すればいい。そなたが思っているほど、地上は穏やかだ。神々の決戦に比べればな。」
そう言うアース=プラネット。けれど、ボクは首をかしげておく。
『これはさ、ボクの勘なんだけど。地上で、そのうち大きな争いが起きる。そんな気がするんだ。
だから、そうだね。本当は、真っすぐにあの子達に会いに行きたいけれど。暫くは情報収集に徹することにする。』
「その辺りは好きにしたまえ。で、すぐに降りるのかい?」
その問いへはすぐに頷く。
だって。‥‥‥‥‥まぁ、いいや。もう、お終いにしたことだから。
『じゃ、さっさと降ろしてよ。』
「言われずとも。」
そう言って、ホログラムのアース=プラネットが指を鳴らすと、足元が急に開いて自由落下が始まる。
『‥‥‥‥‥‥‥バイバイ。』
ふたりに聞こえないくらいまで落下してから、そう呟く。




