[二部七章]背中を合わせて。
まずイゴーロナクとの戦闘において、重要なのはその巨体に対しての巨大な腕とその手の平だ。
その手の平に開く濡れた口は、傷つけた傷を癒すことができないどころか、筋力を永久に減退させる効果がある。
だからまずは
『そこを、斬る!』
しかし、装甲が分厚いせいか目標までに刃が通らない。
舌打ちをしつつ、二度、三度と斬りかかってようやく少量のダメージを与える。
(手首、切り落とすのは今の手持ちじゃ無理か‥‥‥‥)
『バビロン、君なんかいい武器持ってたら貸して!』
「壊したら後で請求するからな!!」
全く、そんなこと言われたら困る。
けれど、しっかりと要求に応じてくれるのは有り難い。
バビロンから渡された刀は、どうやら相当のレアものの様だ。感じる力が全く違う。
『これ、くすねてきてないよね?』
ピクリと彼の肩が一瞬反応した。あぁ、成程。
『一時的に借りてるだけと。事後報告になるだけで。』
「そういうこった!んで次は?!」
そう問われてまた指示を出す。
うん、先の剣よりよっぽど切れ味がいい。
『っ、!』
小さく呼吸をして弱点となる位置を探しながら、まんべんなく斬りつけていく。
『全く、耐久値も馬鹿にならないなぁコイツ!!』
「ほんとお前が何と戦ってるか分かんねーけど怪我すんなよ!信用してやってるんだからな!」
『信用って押し付けるものじゃないと思うなぁ!もうちょっと、なんだけど!』
弱点が見えてこない、しかもまずいことにイゴーロナクの視線がバビロンに向かう。
咄嗟に確認すると、急ごしらえで作った目隠しが外れかかっている。
それにボクが気が付くように仕向けたのか、一瞬、ほんの一瞬だけ反応が遅れて体を手の平が覆いつくしかける。
(けど、そういうのも想定済みでよかったよほんと!)
無理に身体を動かして、攻撃を防ぐ。
『っぐ、ぅ‥‥‥!!』
重い。
正直並みの力じゃ太刀打ちできなくなるところだった。
ボクがボクで良かった。
「おい!」
『問題ない!』
咄嗟にかけられた声に反射的に返す。
今はそんな話をするどころの時間じゃないからね!
『き、っつい!』
叫びを鼓舞にして、イゴーロナクの巨体を押しのける。
そろそろ疲労の色が見えてもおかしくないんだけど!
「あ、やべ、」
声に反応して振り返ると、バビロンの目隠しが外れたのが見えた。
ついでに彼がそのままこちらを見ようとするのも。
『馬鹿!』
咄嗟にバビロンの顔を隠す形でバビロンを抱きかかえて跳躍、イゴーロナクを蹴っ飛ばして踏み台にして一時戦線の離脱をする。
けれど長くは離れていられない。隠れてもらったほかの皆が危なくなってしまうから。
「ちょ、うわぁっ!?」
バビロンから手を放して、彼の目隠しを巻きなおそうとする。が、手で止められた。
「お前、その見ちゃいけないってやつの特徴は?」
『頭部のない、白熱する白い巨人。手の平に口が開いてて、それに触れると永久的に筋力を吸い取られる。で、名前を知ってると身体を乗っ取られる。』
「お前はなんで平気なわけ。」
『人間じゃないから。そういうのには馴れさせられた。けれど君が直視したら多分やばい。』
そう言うと、一瞬考え込むようなふりをしてから、バビロンが言った。
「じゃあ、お前のいる位置だけを教えてくれ。そして、その巨人の位置も。」
『?』
何を言っているのかと問おうとした。けれど、彼の表情は凄く真面目そのもので。
「俺の方はいい。ただ、お前が見ちゃいけないって言うならそれを信用する。だから、“お前の方を見なくていいように”教えてくれ。」
‥‥‥‥‥‥‥‥確かに、その手があったかと今更ながらに思う。
『やるじゃん、バビロン。それで行こう。』
「頼んだからな!流石に俺も身体乗っ取られたりとかそういうのは嫌だし!」
『おっけーおっけー、それなら心配いらない。じゃ、背後は任せた。』
「そうと決まれば戻るぞ、って大分離れたなお前!マジで身体能力化け物じゃねぇか‥‥‥」
『だーから、そうだってば。じゃ、行くよ』
そう言ってお互いに背中を預け合って、再戦と洒落込む。
けれど、先よりも大分戦いやすい。
あぁ、きっとこれが共闘ってやつなんじゃないかなと思うと
(存外、悪くない。)
(そうだね。ボク。)
全く、戦闘中に話しかけてこないでほしいけれど、まぁ、いいや。
いつもよりも体が動く。弾む。多分だけどこれがあの辞書に載っていた“楽しい”だ。
妹達と過ごす時間に感じていたものと似ている。
けれど、あの頃は神々への憎悪と復讐にすべてを費やしていたし、あの時のあの子達との会話は、楽しい、というよりも、次いつ彼女たちが呼び出されるのか、の恐怖心でいっぱいだった。
だから、きっと解き放たれた今が一番‥‥‥‥そう、楽しいんだと思う。
イゴーロナクとの戦闘中にわずかに微笑みを浮かべる。
不可思議なものを見るような目でイゴーロナクに見られたけれど、別に気にしない。
『ありがとう。いろいろと教えてくれて。』
そう口の中だけでつぶやいて、ボクはイゴーロナクへととどめを刺す。
とはいえ、イゴーロナクだって神格だ。完全に消滅することは無いので、身体だけが消えていく。退散したようだ。
『終わったよ、バビロン。』
「こっちもだ。見てももう大丈夫か?」
そう言われて肯定すると、こちらを見てから一瞬ホッとしたような顔をしてから烈火のごとく怒りだすバビロン。
「お前なぁ!無茶ぶりばっかりしやがって!信用しろってずっと言ってたの俺だったからずっと反論できなかったじゃねぇか!利用しやがって!」
『あっはっはっは、利用されたがったのは君だろう?‥‥‥‥‥さて、じゃあ帰ろう。これだけ数を減らせば、この辺りから浄化はできるだろうし、どんな戦闘が効くかは身をもって知ったでしょ。』
「まーな。‥‥‥‥ちなみにだけどさ」
『あぁ。神格ならもうこの星には来ないと思うよ。‥‥‥‥‥ノアの方船に見張られてる、そんな状態で、ちょっとした大物がいなくなったんだ、ここはきっと比較的安全に浄化できる筈だよ。』
そう答えると、ほっと胸をなでおろすバビロン。
「んー、あー、えっと?」
『あぁ、うん。ありがとう。』
「おー、‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ってお前お礼ちゃんと言えるんだな」
『あっはっはっはっはここで君殺しても証拠は残らないかな』
「悪かったってば!ほら、さっさと帰るぞ。」
そう言われてボクは素直に頷く。
‥‥‥‥‥さて、帰ろう。あの方船に




