773 参列者の視線3:令嬢の結末
魔族令嬢のネヘラよ。
まさか『ファーム』ブランドのデザイナーが実在していたなんて!!
……いや、そりゃ実在してないと服もできないんだけど。
しかもそのデザイナー本人がオルバ様の婚約者だなんて!
それじゃあどうすればいいの!?
オルバ様のハートを射止めるには『ファーム』のドレスが必要不可欠なのに、その製作を恋のライバルに依頼するなんて不可能じゃない!?
これがデッドロック状態……!?
むうううッ! だからって私は諦めないわ!
こうなったらギリギリまであの二人を監視し、付け入る隙を窺ってやる!!
* * *
ということで結婚式当日に潜入することができたわ!!
オルバ様とも、平民女な『ファーム』のデザイナー様とも直接縁故のない私ですが、上位魔族としてのコネクションを最大限活用してねじ込み大成功!
やはり持つべきものは権力ということね!
やはり権力! 権力はすべてを解決してくれる!
まあ権力をもってしてもオルバ様との結婚は叶わなかったからここにこうしているわけですけれども……。
しかし思った以上に大きな会場ですわ。
人もたくさん。
何年か前に行われた魔王様の結婚式ですらこんなに大規模であったでしょうか?
……と噂をしたら実際に魔王様を発見してしまったわ!?
魔王様まで出席なさるの、このお式!?
いかにオルバ様が貴族でエリートとは言っても、さすがに魔王様を招待できるような格式あるお式にはできないんじゃないかしら?
じゃあどうして!?
これもただの平民女にすぎないデザイナー様の名声からなの!?
さらには人魚王様まで!?
そして魔王様と人魚王様に挟まれている人族の御仁は誰かしら!?
二人の王とあんなに気さくに話せるなんてきっと位の高い貴族に違いないわ!
何とかお近づきになれないものかしら!?
……くッ、そうしているうちに花嫁花婿の入場が始まるわ。
こうなってはもう望みは断たれる……!
こうなったら……私にできることは……!
「新郎新婦たちの入場です」
きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!
あれが『ファーム』デザイナー様が作り上げたウェディングドレスッッ!!
しかも自分自身のために作り上げたアルティメット・ウェディングドレスぅううううううううッ!?
素敵ぃいいいいいいいいッッ!?
美麗ぃいいいいいいいいいッッ!?
可愛いぃいいいいいいいいいいいッッ!?
純白ぅうううううううううううううううッッ!?
そうよ! この局面で私にできる最後のこと!
それは『ファーム』製のウェディングドレスをこの目に焼き付けて感動することしかないわ!
すべての女の子の憧れウェディングドレス!
いつか私もあれを着て、人生最高の晴れ舞台に立つのよぉおおおおおおおおおッッ!!
そんな妄想に浸ってもいいじゃない!
私以外にも、それを目的として今日の結婚式に参列した女子も多いはずよ!!
「よき……!」
「最の高……!!」
「尊み……ッッ!!」
「妄想が捗る……!!」
ほらやっぱり!
ああ、あの美しいドレス姿を見れただけでも今日やってきた甲斐があったわ。
……よし。
帰ろう。
目的は果たしたんだから次の恋を早く探さなければ!
今度こそ私がウェディングドレスを着るために。そして私も絶対に『ファーム』製のドレスを着るわ!
今のうちから予約注文しておかないと! きっと出来上がるのは何年も先になってしまうわ!!
そうしてレースよろしく一斉に出口へ向かわんとする令嬢たちへ、衝撃の事実が伝わってくるのですわ!
ええええええええええッッ!!
合同結婚式ですってぇえええええええッッ!?
オルバ様とデザイナー様カップルの他にも今日愛を誓い合う夫婦が!?
つまり他にも『ファーム』製の素敵なドレスを拝見できるってこと!?
なんてことなのかしら!?
そんなの見てから帰るに決まっているわ!
見ないと一生後悔するわ!
きゃああああああああああああああッッ!?
あのドレスもこのドレスも素敵ぃいいいいいッッ!?
着ている花嫁がちょっぴりお年を召しているのが気になるけれど、でもそれを差し引いて余りある素敵さだわ!!
何より最後に現れた花嫁の輝かしさと言ったら!!
えッ? ドラゴンの花嫁?
よくわからないけどドラゴンならあの美しさも納得ね!!
四人の花嫁、どれをとっても素敵すぎるわ!!
ウェディングドレスではあるけどそれぞれちゃんと特徴が分かれていて、しかも着る人の個性に合わさってマッチしているわ。
これは予想するまでもなく、着る人に合わせて仕立てられたオーダーメイド品!
ブランドの拘りがわかるわね!
私も、結婚したら『ファーム』に注文して自分の体格と個性にピッタリマッチした、それでいてデザイン性の高いウェディングドレスが着られるのね!
なんて素敵なの!!
想像するだけで鼻血が噴き出しちゃうわ!
一刻も早く! 一刻も早く結婚したい!!
問題は相手がいないこと!!
* * *
……そうして式自体が終わり、披露宴に移っても私はその場に残った。
だって披露宴に出された食事が美味しくて……!
何なのこの料理!?
ほとんどが見たことのないご馳走なんですけれど!?
珍味!?
こういうのを珍味というのかしら!?
トロリとした甘辛ソースをかけられた柔らかいお肉!!
高級そうなお魚をふっくら蒸し焼きにしたもの!
何故か生ハムを載せられた果物!!
そして何より何種類もあるスィーツが最高ですわあああああッッ!!
いくらでもパクパクできますわ!!
美味しすぎて手が止まりませんわ!!
ううぅ……! できることなら今すぐにでも帰宅して、私自身の婚活のために戦略を練りたいところですのに……!
私の脚が、ここから去ることを拒否していますわ!
輝くような花嫁衣裳!
美味しいご馳走!
それに披露宴会場は、魔王様のお城のように豪華で美しく飾り立てされていますわ!!
こんな素敵な会場で……素敵なドレスを着て……結婚式を挙げられるなんて……!!
さらにはこんな美味しいご馳走を食べてお祝いできるなんて……!!
完敗だわ……!
私がそのうち結婚できたとして、こんな夢のようなお式を挙げられるなんて到底思いませんわ!!
こんな極上の結婚式……!
王様だって実現不可能よ!
敗北感……!
決定的敗北感……!?
ただの平民女の結婚式が、貴族である私よりも遥かに上回っているというの……!?
いいえ……途中から気づいていたわ……!
彼女が究極ファッションブランド『ファーム』の代表デザイナーだと知った時点で、彼女を卑下する気持ちよりも尊敬する気持ちの方が勝っていたって。
綺麗な衣装は、すべての女の子の夢。
その夢を作り出してくれる服屋さんこそすべての女の子の味方よ。
そのデザイナーさん自身が素敵な夢を見れなくて、どうして他の女の子の夢を作り出せるというの?
今日の結婚式は、彼女の中にある夢の大きさを他の皆が確認できる日でもあったわね。
彼女の夢を覗き込めただけで私は満足よ。
貴族令嬢はクールに去るわ。
と思って一歩踏み出したら足がもつれて倒れた!?
きゃあッ!
こんな公衆の集う場所ですっ転ぶなんて淑女じゃないわ!!
と思ったら地面に激突する寸前、誰かから支えられた!?
何やら逞しい触感……!?
あッ、男の人だわ。
この人に支えられて倒れ込まずに済んだのね!?
「ご無事ですか?」
「あ、ハイ失礼いたしましたわ……!?」
まあ、間近で見たらとてもいい男性ではありませんの!?
そうだわ、この合同結婚式には、魔族人魚族の双方から高名な方々が招待されている。
絶好の出会いの場でもあるんだわ!!
帰るなんてとんでもない!
私もここで未来の旦那様を見つけ出すのよ!
『ファーム』のデザイナー様は本当に私たちに夢を与えてくれるんだわ!!







