755 ステップアップへの道
私の名はシャランテア。
いずれ神の衣装を作り出す、布地のマエストロと呼ばれるであろう女。
今はまだ呼ばれてない。
しかし才能に溢れかえっているのは間違いない!
だって魔国一の有名ファッションブランド『ミックスパイダー』への加入を許されたんだから!
この道に入ってたった一年という早さで!
これこそ才能の証明じゃない!
きっと美を見分けることのできる有名ブランドの人たちは、人に眠る才能の原石を見分けることもできるのよ!
今はまだ雑用ばかりやらされているけれど、そのうち針を持たせてもらい布を持たせてもらい……。
独創性をふんだんに叩きつけて、私にしか創れないオリジナリティ一万パーセントの最強ドレスを作り上げて見せる!!
そう、あの……!
今魔都を大席巻しているもっとも生きのいいファッションブランド……『ファーム』のように!
私が仕立て師を志すようになった頃には、既に『ファーム』ブランドの服は魔都ファッション界の頂点に君臨していた。
斬新なデザイン、堅実な機能性。
人の手で縫ったものとは思えない、あまりにも緊密で規則正しい縫い目はどうやって縫ったものかと激論飛び交ったものだった。
今、服飾を生業にしながら『ファーム』の衣服に憧れを持たない者はいない。
当然『ファーム』に属してその技を勉強したいと思う人は掃き捨てるほどにいるけれど、その希望通りに『ファーム』で働けるようになったものは一人もいない。
まずもって『ファーム』が人員募集を掛けていないし、そもそもあのブランドが様々な謎に包まれて、詳しいことがまったくわからないし。
主宰者が何者か?
どこに本拠地があるのか?
規模はどれぐらいか?
まったく不明。
衣服に散りばめられた、他に類のない技術や素材も謎の中。
これほど謎に満ち、神秘のヴェールで覆われたファッションブランドも他になくて珍しい。
だからこそ皆『ファーム』に所属したいと念願するが、そもそも謎に包まれて、どこに願い出ればいいかすら謎。
唯一取引を一手にまとめているパンデモニウム商会に直接聞きに行った猛者もいたとのことだが、案の定『お答えできません』の一言で追い返された。
そう、つまり私のこと。
八方手を尽くした末に、もうどうやっても無理と悟ったので仕方なく第二希望の『ミックスパイダー』に所属しました。
……。
いや、仕方なくなくないよ?
私は一度籍を置いたからにはこの『ミックスパイダー』で学べることを統べて学び、一流のデザイナーとなって組織に貢献する所存!
そうなったら『ファーム』はもはやライバル!
敵たるものを叩き潰すつもりで奮っていくわよ!
聞くところによればかつて『ミックスパイダー』と『ファーム』が直接対決を行ったという話もあるけれど、その時私はまだ加入してなかったから結果がどうなったか知る由もないわ!
しかしそういう話もあったというぐらいに両ブランドはライバル関係であることが窺える!
たしかに人気ではダントツの『ファーム』だけれど、生産能力に難があるのか仕立て上げられる衣服は月に数着程度。
そんなローペースだから却ってプレミアもつくし、そうした生産性の弱さを突いて『ミックスパイダー』他のブランドも需要を確保できいている。
逆転の目は残っている!
いくぞ『ミックスパイダー』! 倒せ『ファーム』を!
いずれ成長し、天才デザイナーとなるこの私の手で!!
* * *
そうして日々の仕事に追われて日々が過ぎていった……。
……そんなある日。
私たちは呼び出しを受けた。
『ミックスパイダー』で見習いをしている若手たちが招集されて……。
その集まりを主催しているのがフルレティさんだった。
フルレティさんは『ミックスパイダー』のトップデザイナーで、さらにはブランドを商業的にまとめる組合長の愛娘でもあった。
まだまだ若いのに様々な傑作を手掛けて、私たち若手には憧れの存在だった。
そのフルレティさん直々に招集を受けるなんて!
一体なんだろう?
もしや……、この中からフルレティさん専属の助手を選抜するとか!?
もし選ばれたらステップアップ&コネづくりの大チャンスじゃない!
これはしがみつくしかないわね!!
「はいはいはいはいッ!! 私、立候補します! 私にやらせてください!」
「シャランティア座りなさい。まだ何も言ってない」
窘められて座り直す私。
しまったわ、気持ちが先行しすぎてつい……!!
「まったくアンタは、いつも勢いだけで行動するんだから。そういう速度重視なところ誰かさんを思い起こさせるわ……!」
フルレティさん!?
私が原因で遠い目をしないで!?
「まあ、それは置いといて招集の用件をいいます。まあ今シャランティアがしたような希望を募る話なんだけど……」
「はいはいはいはいはいはいはいはいッ!!」
「だから話を全部聞いてから挙手してね?」
わかりました!
ハイ、やります!
しかしそんな私のやる気とは裏腹に……。
「実はね、あるところから人員の補充を依頼されててね」
「ハイハイハイ行きます!」
「だから最後まで話を聞きなさい」
フルレティさん私のやる気を見てください!
そして評価して!
集合している若手の中で、私とは別の有象無象のどうでもいい一人が挙手した。
「その人員を募集しているところって、どこなんですか?」
「詳しいことは言えない……ただそう、当たり障りのないところで一言で言うと……私の親戚が運営しているところよ」
へッ?
「『ミックスパイダー』とは直接関係のないところだけど無下にもできない相手でね。この中から出向という形で誰か行ってほしいのよ。希望者いない?」
挙げられた手がスススス……と下がる。
フルレティさんの親戚の運営してるところって、何?
しかも『ミックスパイダー』とは関係ないんですよね?
「あくまで別組織よ」
そんなところに行って何のステップアップになるんですか?
私の成長……さらには実績作りへのプラスは?
明らかに何のメリットもない貧乏くじ!
私はそんな離島送りみたいな処置死んでもゴメンよ!
誰か他の人が行ってきて!!
「シャランティアさっき手を挙げていたわよね?」
「ひぇッ!?」
先走りのツケがこんなところで!?
「あの、あああああ……ッ!? あくまで過去は過去のことで今この瞬間だけを見てほしいというか……!?」
「そうは言っても誰も手を挙げない現状、数秒前でも挙手した人に期待がかかるのは当然だと思わない?」
「全然当然だとは思いません!!」
「そうは言っても他にいないから……」
くぁあああああッッ!?
希望者がいないことで自然生贄投票の様相を呈してきた!
そして私が生贄第一号に決定しつつある!?
深く考えず軽挙妄動した結果がこんな形で出るとはああああッ!?
やはり深くも考えず即行動はよくない!
どんな罠が待ち受けているかわからない!
これから何をするにも一旦立ち止まって様子を見るようにしようと心に誓う私だった!!
* * *
そしてそして。
結局抗いようもなくフルレティさんの要望に従い、その親戚とやらの待つ場所へとやって来た。
転移魔法で。
そして絶望した。
「…………僻地じゃん」
魔都から遠く離れた、山とか森とかしかない農場。
建物はほとんど見当たらず、文化の匂いは欠片もない。
……こんなところに連れてこられてどうしろというのよ……!?
仕立て師のやるべき仕事なんてなさそうじゃないの!?
まさかここで私たちに野良仕事でもせよというんじゃあるまいでしょうね!?
私の仕立て師としての修行時間が! 成長に当てるべき貴重な時間が!
僻地での野良仕事に浪費されるぅううううううッッ!!
「よっし、約束通りやってきたわね! 子ネズミども!!」
そこへ突然現れる誰?
「私はバティ! 貴様ら一人前にもならない子ネズミどもを一流の殺戮者に鍛え上げる教官よ! 私に口答えする時は、語尾の前と後ろにサーをつけなさい!」
「語尾の!?」
一体何なのよこの人!?
もう帰りたい!







