1572 ジュニアの冒険:いりょく90
「さあ、始まりました犬の試練」
実況風に進行をしてくれるベレナさん。
こうなってくると彼女のサポートが有難い。
「このヒュペリカオンのポチたちも立派な農場の住人! 彼らにも認められてこそ農場の後継者と言えましょう!」
ヒュペリカオン……と言うのがポチたちの種族名だ。
シベリアンハスキーとか、プードルとか、ジャーマンシェパードとかそんな感じのヤツ?
当たらずも遠からず。
正確にはポチたちはヒュペリカオンという種族名の犬型モンスターであった。
本質的にはモンスターなんだ。
そういうところはオーク、ゴブリンたちと同様で、農場にはそうした経緯で住みつくモンスターが多くいる。
あの金剛カイコもそうだったしな。
そういう意味で、ポチたちは他の犬よりも圧倒的に強いのだった。
イヌ科としての特性も備えてコンビネーションも高く、数頭の群れで一国を攻め滅ぼすこともできるだろうと誰かが言っていた。
さすがは農場の番犬、頼もしい限りだ。
「そんなポチたちが認める主人にならなければいけません。ジュニアくん、ノリトくん。キミたちが聖者様の後継となりたければ、聖者様が認められているように、キミたちもポチたちから認められなければ。だって犬ってそういうところあるから」
「あー、聞いたことあるある」
犬とは、家族の中で順位をつけるとかなんとか。
それは群れを作って暮らしていた頃の名残とかで、家族の中で優劣のある者の順番をつけて、逆らってはいけないものをしっかり見定める。
そうすることで群れの中の地位を保つのであろう。
実際、ポチたちは農場と言う“群れ”におけるナンバーワンを、父さんだとしっかり見定めている。
普段母さんの尻に敷かれていたり、ヴィールの方が純粋に強かったりもするけれど。
最終的に父さんが一番上に立って取りまとめていることを、この犬たちは知っている。
だからこそ彼らは父さんのことを一番慕っているのだ。
対して僕は何番目だろうか……。
少なくとも母さんやヴィールよりは下認定受けていると思う。
ノリトよりは……上であってほしい。
「しかしポチたちはモンスターです。通常の犬よりも一段詳しく踏み込んで、群れの順位付けをできると聞いています。彼らの信頼を勝ち取って、彼らの認定する群れ順位を上げてください!」
これが試練の内容ってことか。
ポチたち認定、群れの中の順位を上げよう勝負!!
いいだろう受けて立つ!!
「フッ、だったらオレこそが兄貴より上だってことをポチたちに認めさせてやるぜ!」
煩いなあノリトは。
その言葉そっくりそのままお前に返す。
ポチたちは野生の感で、『弟はけっして兄を超えることができない』という自然の摂理を弁えているはずだ!
「自然の掟を乗り越えるのが人の叡智であることを教えてやりゃあああああ!!」
そしてフトコロより、何かしらを取り出すノリト。
「オレの秘密兵器を見ろ! 缶詰オープン!!」
取り出されたのは缶詰だった。
一体何が入っているのか?
もちろん缶詰は、そのままでは役立たない。
開けて中身を露出させるまでは。
ノリトは、さらに取り出した缶切りを素早くギコギコ走らせて、即座に缶詰の蓋を開けた。
同時に、封じ込められていたであろう匂いが周囲に充満する。
目には見えないが、微細な匂い成分がところかまわず漏れ散っているはずだ。
そして当然、人間の数千万倍と言われる嗅覚を持った犬たちの反応は覿面だった。
「バウバウバウバウバウバウバウ! バウゥ!!」
「よーしよしよしよしよし! 美味いだろう美味しいだろう! これこそヴァルプルギス商会からの依頼で開発した専用ドッグフード! ウェットタイプで栄養満点、かつ塩分控えめでカロリーも低い! シニア期に入ってダイエットが必要なワンちゃんにももオススメです!」
「バウッ!!」
多分犬たちは、そんなこと関係なしにガッついているんだと思うが……。
……いやいや。
それよりも卑怯だぞノリト!?
餌で釣ろうとするなんて!?
「たまたまコイツらが好きそうなものを持ち合わせていただけだしー。備えあれば憂いなしってだけだしー」
うぬぅ、白々しい!
しかしノリトめ、いつもながら示し合わせたようにピンポイントなアイテムを持ち合わせているヤツだ。
それだけヤツの発明力が高い、ということか……。
「さて、それではポチたちからの順位アップポイントは……やりました! 十五点以上です! 合格です!」
ええッ、そんなシステムなの!?
ううむマズい。このままではまた資格クイズの時のように押し切られてしまう。
兄としてこれ以上弟に負け続けるわけにはいかぬ。
したらば……!
「僕にぶつかってこい! 犬たちよ!」
僕は両腕を広げ、すべてを受け入れる者のポーズをとった。
「兄貴! まさかそれは!」
「お前たちがどんなにダッシュ&アタックしても、僕はお前たちを受け止めて見せる! それこそが群れの長の度量!」
僕はけっして吹っ飛ばされず、また倒れもしない。
犬たちは、飛び込んで触れ合うことを何よりの喜びとしている動物だ。
だからこそ、どれだけ全力を挙げてぶつかっていこうと崩れることなく、全身でイッヌたちを受け止め、ワシャワシャしてくれよう!
その宣言が通じたのか、犬たちの瞳にキラキラ輝きが宿った。
何しろノリトからのごはんでお腹いっぱいなのだ。空腹が満たされたら、次は遊ぶか寝るかと決まっている。
「バウバウバウゥフぅうううううううッッ!!」
複数いる中の一頭が、僕へ向かって突撃してきた。
ガスン!!
「ぐふぅッ!!」
鳩尾に抉り込んでくるかのような手応え。
衝撃を殺しきれず、踵が地面に埋まる。
しかし倒れ込むような不様を晒さずに済んだ。
僕はイヌゥの突進を受け止めきったのだ!
「ヘッヘッヘッヘッヘッヘ……!」
「よしよしよしよしよしよしよしよし……!」
僕は腕の中に収まった犬の頭や背を、ただひたすらに撫で回した。
それが我が務めだと言わんばかりに。
『よっしゃ満足した』とばかりに犬が下りると、またすぐに一頭が怒涛で迫ってくる。
「ごふぅッ!?」
また踵が地面に埋もれながら五センチ程度後退する。
しかし今度も受け止めきった。
ワシャワシャナデナデしてから、おろすとまたすぐ弾丸突撃。
「ぐぼふぉッ!?」
それでも僕は……耐える。
ここで倒れてはイッヌたちへの信頼が得られなくなる。
僕がすべてを受け止め、何者にも打ち倒すことのできない存在と、彼らから認められるんだぁあああああ!!
「がぶっふッ!?」
うおぉおおおお……!
さっき出店で食べたラーメンとカレーが逆噴射しそう……!?
「やめろ兄ちゃんそれ以上は! 肋骨が六本全部折れるぞ!」
弟よ……肋骨はもっとたくさんある。
しかしヤツが心配するとはよっぽどの、僕の様子はヤバいんだろうか。
しかし大丈夫!
残るイッヌは一頭! その子を受け止めて群れのリーダーの座を確立してみせる!
「バカ野郎! その最後の一頭が農場犬チームのトップのポチじゃねーか! ソイツはただのヒュペリカオンじゃねーぞ! 多段階進化したヒュペリカオンだぞ!」
多段階進化?
「モンスターの中には稀に進化する個体がいるんですけれど、その進化した状態からさらに進化した子のことですねー」
ベレナさんが説明を加えてくれる。
「ユリウス・カエサル・オークになったオークボさんとか、ハケハヤ・スサノオ・ゴブリンになったゴブ吉さんなどがそれです。そして我らがポチちゃんも、ハイリカオンから進化したヒュペリカオン、そこからさらに進化したイガラシリカオンへと究極進化しているのですよ!!」
な、なんだってぇ!?
進化したってことはつまり……。
「そう、普通にパワーもスピードも段違いってこと! そんなポチの突撃食らったら、内臓丸ごとゲロりかねないぜ! 命が惜しかったらやめろ兄ちゃんー!!」
そんなこと言われても、ポチはもう目をキラキラ輝かせて後ろ足を蹴っている。
『ダッコ! ダッコ! ワシャワシャ!』そんな感じだ!?
「行きなさいポチちゃん! とっしんよ!」
何を指示されておりますベレナさん!?
「え? すてみタックルのほうがよかった?」
さらにヤバそうな技名が!?
ああ、そうこうしている間にもポチが尻尾フリフリ迫ってくる!?
もう回避は不可能!?
ほいだりゃあああああああああッッ!?






