1571 ジュニアの冒険:やっぱり犬が好き
押すな押すな……は、押せ。
という風潮に一石を投じたい僕です。
離すなって言ったのに!
『離すな』は『離すな』ってことなんですよ! 他に意味なんかねえよ!
何の話かは前回参照!
「いや、前の試練を終えた時に、『残れ』って言われて薄々感じてはいたんだよ。次の試練はオレと兄貴、二人合わせてでないとクリアできないんだって。そのヒントから導き出された攻略法が……」
……アレってこと!?
じゃあ咥える方の役柄がお前でもよかったじゃん!
何故しんどい方を僕にやらせた!?
「率先して苦難に立ち向かっていくのが兄の役目だろう?」
都合のいい時だけ兄弟設定出すな!
兄と思っているなら少しは尊敬しろ! 反抗期弟が!
「それに、痛いのが嫌なら兄貴の方から口を離すこともできただろう」
あ。
「なるほど、そういうお笑いのパターンもアリね」
「兄貴は真面目だから、離すなと言われたら最後まで離さないんだよなー。こんな素直な性格じゃ、将来為政者として不安があるなー?」
素直で何が悪い!?
しかし、大変な目に遭ったおかげで金剛カイコのご機嫌も取れて、これから上手くやってけそうだ。
試練は無事クリアし、次へ進むことができるだろう。
「ジュニアくん、ノリトくん。ここから先、聖者様の下へとたどり着くまでにも多くの試練が、アナタたちを待ち受けています。そしてこの最初に試練でわかったと思いますが、試練を担うのは……!」
農場の住人たち。
農場で暮らし、父さんの下で働く人々は、何故か当然のように外界から隔絶した能力を秘めている。
そんな人たちが僕たちを待ち受けてるというのか。
僕の修行の旅の、総仕上げとして。
「望むところです……!」
僕は震えながら言った。
「旅で得た経験を、成長を、皆に見てもらえるいい機会です! 父さんへたどり着くまでにたくさんの人たちに見てもらおうと思います!」
「たくましくなったわねジュニアくん。それだけでも旅の成果を感じさせるわ」
二人のうち、バティさんが涙をにじませ言った。
「歳をとると涙もろくなるわね。生まれた時から知っているジュニアくんが、こんなにも立派に成長したなんて……!」
「本当に赤ちゃんの時から知ってるものねー」
「では、役目も終わったことだし私は帰るわね。そろそろ子どもたちのおやつの時間だし」
そう言って金剛カイコたちの入った虫かごを抱え上げるバティさん。
籠の中からカイコたちが『歯磨けよ!』『また来週!』と手(体?)を振っていた。
転移魔法で一瞬のうちに去るバティさん。
それを見送り『まったくこれだから家庭持ちは』と独り言ちるベレナさんであった。
「さあ、次の間では既に番人が待ちかまえているわ! 恐れず進みなさい若者よ!」
「応よ!」
意気揚々と進むのはノリト。
「この場の主役は兄貴だけじゃねえ! 兄貴に用意された見せ場を全部オレがかっさらってやらぁーッ!!」
何おう!?
僕だって、弟ごときに後れを取ってなるものか!
突き進め僕、今日までの研鑽を示すために……!
* * *
そうして階段を駆け上がると、大きく広がった空間へたどり着いた。
「ここが次の部屋か」
ここは天空オークボ城の内部。
逆ピラミッド型の浮遊要塞は、上がっていくほどに広大になっていく構造だ。
この部屋で、今度はどんな相手が待ちかまえているのか?
「フッフッフッフ、よくここまでたどり着いたわね……!」
そ、その声は……!?
ベレナさん!
「またアンタかい!?」
ノリトも、唐突なる天丼にツッコミの声を張り上げる。
いやベレナさん。
アナタのパートは全開で終わったでしょう。
相棒のバティさんは潔く帰られたのに、何故アナタだけしつこく残っていらっしゃる。
「煩いですね。いいじゃないですか、私はバティと違って家庭がないから他人様の子どもを世話する余裕があるんですよ」
「独身は暇なのか」
「煩いなあ!!」
ノリトよ、その率直さはあまりにも。
「もちろん今回、私はただのサポート役なのでお気になさらず。では、この階のメインにご登場いただきましょう!」
ベレナさんの掛け声に呼応して、室内の壁がゴゴゴゴゴゴゴ……と音立て開いていく。
あれは壁じゃない。
壁のように大きな扉だった。
自動開閉機能付きの。
その開かれた扉から駆け出してくるモノたちは……。
「犬ううううううううううううッ!?」
イッヌぅううううううううううううううううッッ!?
現れし四足の獣たち。
全身毛で覆われて、つぶらな瞳、口を半開きにして『ヘッヘッヘッヘ……』と呼吸音モドキを鳴らす。その仕草は何だか笑っているよう。
紛れもなく犬であった。
犬の群れ、一頭ならず十数頭、数を為してこっちへ迫ってくる!?
「うおヤバぁあああああああッ!?」
犬たちは一心不乱に僕目掛けて迫ってくる!?
まさしく獲物を追うかのごとく!
しかもそれが複数なんだから、突進力は数倍にも及ぶ。
案の上、ぶつかった瞬間踏ん張りも効かずに押し倒される僕!
「うぎゃああああああああッ!?」
ドッテーンと倒れた僕の周囲に集まり群がる犬たち。
ヤツらは僕へと鼻を擦り付けてフンスフンスと匂いを嗅ぎ、中には舐めまくるヤツすらいた。
いずれも犬の習性。
匂いですべてを判断するヤツら。
犬といえばそれこそ人のあるところ何処にでもいるが、現在僕のことを取り囲むコイツらには覚えがある。
「ポチ……!」
一番僕の顔に鼻先をこすりつけてくる一頭へ、僕はその名を呼ぶ。
さらに他の数頭にも……。
「ペス、ハナ、タロ、ジョン……!」
名前を知っているのも当然のこと。
この子らは農場に住む犬だからだ。
そう農場では、何頭もの犬が共に住み暮らしていた。
よくあることではあった。
何故なら犬という生物は、太古の昔から人間と共に生きて、人間の仕事を手伝ってきたのだから。
狩りに同行して獲物を追い、仕留める手伝いをする。
門前に繋がれては侵入者に吠え掛かる番犬となる。
様々なシーンで犬は人の役に立ち、その報酬として食べ物を貰い、寝床を貰って、数万年と共生関係を続けてきた、それが犬。
人類のパートナー、それが犬だった。
農場でも、そうした理に従って数多くの犬と一緒に暮らしてきた。
田畑を耕し自然と共に生きる農場のような環境でこそ、イッヌの能力は十二分に発揮できるのだから。
僕が生まれた時には、彼ら犬たちは既に農場にいて内外を駆け回っていた。
人と同じぐらい大切な、僕らの仲間だ。
そんなポチたちが僕のことを取り囲み、押し倒しながら体の各所を嗅ぎまわっている。
フガフガ、フスフスと性急に。
「まあ約一年ぶりの再会だから、溜め込んでた感情が爆発したんじゃねーの。犬ってそういうところあるから」
などと言うノリトのところにも犬たちはやってきてか前脚を上げて、寄りかかる。
そしてひとしきり匂いを嗅いでから、ハッと僕のことを思い出したように僕の所へと駆け寄ってきて、また匂いを嗅いだあとハッと思い出したようにノリトの方へ行く。
恐らく記憶容量が一人分の情報しか留め置けないのだろう。
「……アホだなあ、犬って」
言ってやるなノリトよ、そこが可愛いんじゃないか。
そうやって無条件に慕い寄ってくる犬たちが、次なる試練の担当だというのか。
さっきのカイコたちといい……アニマル系列が進んでいないか?






