1567 ジュニアの冒険:最初の二人
天空オークボ城の戦い。
初段から大混乱であった。
まさか弟のショウタロウがあのように育っていたとは。
内向きの父さんと、純愛至上主義の母さんの間からどうしてあのようなナンパ……もとい博愛主義者が誕生するのか。
これが遺伝子の不思議というヤツか。
「まあショウタロウのヤツも、アレはアレで大成するんじゃねーの? エロは最高のモチベーションともいうからな」
ノリトがまた何からも美点を見つけてくる。
コイツもコイツで、得難い気質を持つ者よ。
「アイツのお陰で引っ掻き回されたが……。改めて兄貴、ここはオレとアンタの勝負の場だ。オレはアンタを出し抜いて、この試練をクリアする。オヤジがアンタのために用意した試練をな」
ノリトが挑戦的な視線を向けてくる。
「それでオレはアンタを超える。長い間抱え続けてきたコンプレックスを捨てて。オレはオレとして独り立ちして見せる!!」
僕としてもお前の存在は大いに重苦しいのだが……!?
積み上げた努力と実績でカリスマ性まで備えるようになった弟。
僕が父さんのあとを継ぐためにはコイツこそが最大の障害となるだろう。
だからこそ僕もまたこの試練で、お前という障害を何としてでも乗り越える。
お前を倒して人間的に成長してやる!!
「さて、じゃあいい加減に進むとするか。じゃないとオヤジが待ちくたびれてしまうだろうからな」
たしかに。
では行くとしようか、ジュニア発進!!
……これから僕らが挑戦する天空オークボ城は、その名の通り空に浮かぶ巨大ダンジョンだ。
元々農場にあったピラミッドを素体にしているらしく、その外観は四角錐を逆さまにひっくり返したような感じで、まさしく逆ピラミッド型。
これはもしや、とかく社会の上下構造として用いられがちなピラミッドの形を逆にすることで『底辺などない』『人に上下関係など存在しない』という父さんなりのメッセージ性なのかもしれないと思った。
「オヤジそこまで考えていないと思うぞ」
真顔でなんてこと言うんだノリト。
とにかくそうした構造上、僕たちは頂点となっている最下部から、広がっていく上層部へと駆け上がっていかねばならない。
きっとその途上には様々な障害が待ちかまえていて、僕たちを迎え撃ってくることだろう。
隣にいるのは次弟ノリト。
ともに試練を乗り越えていく仲間ではなくて、競争相手。
前途は多難だ。
しかしだからこそ、この旅の集大成としてぶつかっていく価値がある。
きっと最上階で待ち受けている父さんに認めてもらうためにも。
僕は、この戦いを制してみせる!
行くぞ!
「じゃあ、お先に~」
ああッ、ノリトッ!?
抜け駆けするな! 僕が気合を入れ直している間に!?
「試練はもう始まってるんだぜ。そんな状況でボケっとしている兄貴が悪いんだよ。世の中早い者勝ちのやったもん勝ちだぜ!」
そう言って駆け抜けていくノリトの速いこと。
ちょっと走るの速くない?
また何か使ってない?
「はーっはっはっは、これこそオレの新特許出願品! 名付けてブーストシューズ! 靴底と地面の間にある空気を圧縮膨張させ、その反動で速力を補助してなおかつ膝や足首も痛めない!」
やっぱり使ってやがった!
ノリトめ、すっかり発明キャラとして定着しやがって!
ならばこちらも出し惜しみしない!
『究極の担い手』で速力ブーストだ!
地面を掴む足を通じて能力を発揮する!
「あッ、ズルい! そっちこそなん何でもアリじゃねえかよ!!」
煩い、兄の威信にかけて弟には負けられない!
進めダンジョンの中を……!
しかし、僕らの進撃は割と早い段階で止まった。
僕らを阻む者が現れたからだ。
入り口の階段を上ってすぐ、彼女らは現れた。
いや、僕らが来るのを待ち受けていたというべきか。
「うッ!?」
「初手はアンタらかよ……!?」
ノリトも戦慄に声が震える。
僕らの目の前にいるのは、二人。
双方女性で、肌の色は魔族特有の黒。
バティさんとベレナさん。
農場に勤める魔族女性の二人だった。
まずこの二人が、僕たちの前に立ちはだかるというのか。
彼女たちは農場最古参と言ってもいい二人だ。
僕たちが生まれるずっと前から農場に住んで、父さんの手伝いをしていた。
前職は魔族の軍人で、平和になってから魔王軍を除隊して農場で働き始めたとか?
とにかく侮れない二人だ。
今や父さん母さんですら、バティさんベレナさんの二人には一目置いているんだから。
「久しぶりねジュニアくん、魔都に訪ねてきてくれた時以来かしら?」
バティさんが静かに語り掛ける。
たしかに魔都在住の彼女を一度訪ねたりもしたが、その時とは打って変わって、今のバティさんは戦闘モードだ。
魔王軍時代の軍服の袖を通し、顔つきも戦時を思い出したかのように鋭い。
さらにもう一方、今も現役で農場に勤めておられるベレナさん。
「聖者様からのご指示です。ジュニアくんノリトくん、アナタたちの進行をここで阻みます」
「ちっ……!?」
ノリトが舌打ちする気持ちもわかる。
バティさんとベレナさん。
それぞれ『魔犬』バティ、『見透し』のベレナとあだ名される魔族の猛者だ。
戦時中も魔王軍のトップクラスに身を置いて、戦後は農場に長い間身を置き続けてきた。
農場にいること、それ自体に意味がある。
そこに暮らし続けるだけで凄まじくレベルアップする、それが農場の土地柄なんだ。
そんな農場の最古参である……ということが持つ意味。
僕もノリトも気迫だけで察知し、震えるのだった。
「……ノリト、もう『どっちが先か』とか『早い者勝ち』とか言ってる場合じゃないぞ」
ノリトも状況を理解してか、苦々しく歯ぎしりする。
バティさんの戦時中のあだ名は『魔犬』。
あの愛らしい外見とは裏腹に、それこそ獣のように獰猛な戦いぶりで恐れられたという。
今では優雅に服を作り続けるバティさんの、意外な二面性だった。
もう一方、ベレナさんだって侮りがたい、……いや侮ってはいけない。
途中結婚して非常勤となったバティさんとは違って、ベレナさんは今なお現役バリバリの農場勤めだ。
積み上げた経験値は抜きん出て、特に魔力に関する研鑽は抜きん出たもので、ノーライフキングの先生にも迫るという。
そんな二人が、僕たちの前に立ちはだかっているんだ。
若僧に過ぎない僕とノリトが甘く見積もっていい相手じゃない。
「いいな、僕らごときがいがみ合いながら突破できる相手じゃない。協力して戦うんだ。力を合わせないと」
「……くそッ」
ノリトの悪態がすべてだった。
そうだよな。反抗期真っ盛りではあるが、拘りで現実を見失えるほどバカではないのがノリトだ。
僕とノリト。バティさんとベレナさん。
二対二で、数の上では一応互角。
実力的にも上の相手から二人がかりで挟まれるより全然マシだ。
生意気な弟とはいえ、実力は認めている。
背中を預けるには充分だと。
あの恐ろしい強敵二人のうち一人をノリトに任せて、何とか各一対一の状況に持ち込めれば勝機はあるのではないか?
いや、ないか?
何を弱気になっている!?
僕はあらゆる苦難を乗り越えて父さんの下までたどり着かなきゃならないんだ!
こんなところで怖気づいてたら、いつまで経っても父さんへたどり着けない!
「いい面構えをするようになったわね、ジュニアくん」
「では、始めましょうか」
迫ってくるベテラン二人。
彼女たちを相手に、僕らは……。
……ミシンをかけていた。






