1566 ジュニアの冒険:農場の種馬男
僕ジュニア。
我が旅、最後の試練となる天空オークボ城に、僕以外にも馳せ参じた挑戦者たち。
次男ノリト。
三男ショウタロウ。
ここに農場三兄弟が集結する!
他にも兄弟たくさんいるけれど!
「わぁ、これがパパダンジョンだね!」
三男ショウタロウがキラキラした目で言う。
久々に会う弟だが、幼い風貌ながら母さん譲りの整った顔立ちの美少年であった。
さらには純真無垢な風貌から唱えられる煩悩まみれな戯言。
「こんな豪華な空中要塞で誘えば女の子もイチコロだね! 絶対にパパをブッ倒して丸ごといただくんだい!」
「ポ○シェでナンパすれば百発百中みたいに言うな」
ノリトが苦々しい顔で言っていた。
うーん……ウチの弟ってこんなキャラだったっけ?
いや次弟にしろ三弟にしろ。
ショウタロウにもしばらく会っていなかったから、多感な時期だし目まぐるしい変化もあるんだろうけれど。
しかし予想を遥かに外した方向へ急速進化を遂げたように見受けられて、僕としても驚愕と困惑を禁じ得ない。
「ショウタロウは、最近ずっとこんなだよ……!」
次男ノリトが、くたびれた様子で言う。
「どこから影響を受けてきたのか、すっかり女好きのナンパヤローに育ちやがって。『ナンパなら任せてくれよ、三にも四にも押しが肝心』てな感じよ」
タマネギ食べれる!?
「総じてオヤジから引き継いだ陰キャ属性の高いオレたち兄弟の中でショウタロウだけが特異点なんだよ。恋愛信者のオフクロもカンカンでことあるごとにゲンコツくらわすのにさ」
「世界中のカワイ子ちゃんがボクのことを呼んでいる! 目指せ女の子マスター!」
「叱られる分だけショウタロウも情熱アップして、もはや手がつけられねー」
ウチの弟がこんなことになっていたなんて……!?
ショウタロウは、幼児の頃から美形の顔で、農場の女性たちから人気だったが、それがまさかこんな女性好きにランクアップしていたとは!?
血を分けた兄弟のことながら、人間わからないものだ。
「それで? 女にしか興味ないはずのオメーが一体何しにここまで来てんだよ?」
ノリトが率直に聞く。
反抗期気質でありながら同時に親分気質でもあるという非常に難解な次弟は、放っておくとすぐ場を仕切りだすので要注意だ。
「ここはオヤジが作り上げた極上の試練の場だぜ。ハンパな覚悟のヤツは踏み込んだ傍から弾きだされんのがオチだ。お前みたいなナンパヤローじゃ特に耐え切れねえんじゃねーの?」
「はぁー? 不良気取りのノリト兄ちゃんに言われたくないんですけどー?」
「んだとテメー!?」
不良&ナンパ男。
時代がかった二人だ。
「兄ちゃんたちから何を言われようとボクの決意は固いんだい! ボクは必ず、パパからこのダンジョンを奪い取るんだい! そしてモテモテになる!」
プロセスが飛躍した。
何故ダンジョンを奪ってモテモテになる?
ダンジョン所有してモテるというなら誰だってダンジョンマスターになるだろうぞ?
「チチチチチ乳チチ……、ジュニア兄ちゃんはわかってないね。今、ダンジョンがどれだけホットなスポットか」
幼いナンパ男な弟から『わかってない』と言われた!?
なんか無性に腹が立つ!?
「今『チ』の中に何か混ざってなかった?」
「内向きな趣味に没頭しがちな兄ちゃんたちにはわからないかもしれないけれど……」
「今、前オタクを敵に回した?」
「冒険者は今も昔もトレンドなんだよ! ワイルドな女性冒険者だって当然多い! そんな女性冒険者たちがこぞって集まってくるダンジョンなんて、手に入れておいて損はないじゃないか! あとオタクなんてどれだけ敵に回しても実害ないでしょ?」
「重ねてケンカ売ってきた!?」
オタクに厳しい三弟であった。
「それにこんなにドデカい浮遊物のオーナーとわかったら、奢られ目的のいただき女子もたくさん寄ってくるだろうしね! シンボライズはデカければデカいほどいいんだよ!」
それでいいのか弟よ?
「まあ、いつもだったら『ダンジョンちょーだい』なんて、いくらボクが可愛くてもそこまでワガママ言えないんだけれど、これって兄ちゃんたちへの試練で拵えたんでしょ? 兄弟なら参加OKなんでしょ? だったらボクも名乗りを上げて、ダンジョン丸ごと貰っちゃおーかなって!」
弟の、矮小な欲望から発したドデカい願望。
いやそもそもダンジョンをナンパツールに使うな。モテたいならギターでも習っておけばいいのに。
「本当になんで三男だけこんな明け透けな女好きに育ったのやら……。母ちゃんもそれを悩んで一時期人魚国に修行に出したんだけれど、それでも矯正できなかったし……」
ああ、それで僕も旅立ち前後にショウタロウの姿を見なかったのか。
しかししばらく見ないうちに、こんな悩ましい性格の子に育っていたなんて。
「ボクから言わせればパパや兄ちゃんたちがムッツリ過ぎるんだい!」
「ムッツリ!?」
「そんな趣味にボットーしていたら女の子が向こうから寄ってくるなんて、そんなラノベみたいなことが起きるのはパパとママぐらいだってことを肝に銘じていた方がいいよ! 自分から捕まえに行かなきゃ女の子はゲットできない! それがボクの人生哲学さ!!」
子どもが人生を語るな。
「だからねえねえジュニア兄ちゃんにノリト兄ちゃん! ボクもこのダンジョンにチャレンジしていいでしょう!? 大丈夫、『試練にクリアした』という栄誉は譲ってあげるからさ! ボクは名を捨て実を取るタイプなんだよ!」
「自分で言うな」
「いやー、やっぱこれから女の子にモテるためにはダンジョンの高層階を一室持っておいた方がいいよねー断然! その事実だけで高収入アピールできるからねー」
「ダンジョンをマンションみたいに言うな」
乾ききった表情で事務的にツッコミを入れるノリト。
コイツもこれで律儀なところのあるヤツだが、それに輪をかけて農場兄弟の中で異質さを放っているノリトだった。
「いやー、さっきもオークボ城でマブいお姉ちゃんを見つけてさー! 脊髄反射でナンパしちゃったんだよねー! このダンジョン使って誘いかければイチコロだと思うんだよねー! どう思う? いや、そういうところの機微は陰キャでオタクな兄ちゃんたちにはわかんないかー、わかんないだろうなー」
え?
まさかショウタロウ、今日のオークボ城(地上)の方でもナンパしてたの?
それってマズくない?
「え? 何が?」
だってオークボ城にはあの人もいるんだよ。
もしショウタロウのご乱行があの人の目に留まっていたら……。
「ショウちゃん……!!」
「あッ」
終わった。
やっぱり見咎められていた。
オークボ城の出店に参加していた……我らが母さんに。
「ママッ!? 何故ここに!?」
唐突な母親登場に、もっともビビり倒しているのは当然ショウタロウだった。
「ゲッ、オフクロ!?」
次男ノリトも多少は慌てている。
「母さんんんんんんんッッ!?」
僕も慌てた。
結局全員慌てた。
「会場から邪な気が漂っていると思ったら、アンタが来ていたのねショウタロウ? また悪い気が出たのかしら?」
「マッ、ママママママママママーマ……? どうしてこちらに?」
「アタシがオークボ城の出店に参加しているのが恒例行事だと知らないのかしら? だったら安全管理ができていないわねショウちゃん……!」
なんだろう、母さんの全身からフツフツと沸き上がっている熱気は?
静かだが、触れる者の身を焦がす苛烈さが伝わってくる。
「あれは……怒りだ」
なんだと!?
どういうことだノリト!?
「ナンパとか自由恋愛とか、母ちゃんが大嫌いだってわかるだろ。母ちゃんは人魚だぜ」
なるほどたしかに。
『人魚だぜ』の一言でわかる母さんの恋愛観。
何しろ人魚族は……女性人魚は特に、恋愛に命を懸ける種族だからな。
シーラおばあちゃんしかり、パッファおばさんしかり、一人を想って一途に尽くすのはもはや女性人魚の特性と言っても過言ではない。
ウチの母さんに至っては、愛する父さんとの暮らしのために生活の場を、海中から地上へと移した猛者。
そんな生粋の女人魚である母さんにとって、ショウタロウのような『手あたり次第』な恋愛観は耐えがたいものであるにちがいない。
「ショウちゃん本当にアンタは……、どれだけ厳しく躾けてやっても性根が直らないらしいわね? その不埒なところは誰に似たのかしら?」
「ボボボボボボボーボボ……ボクは間違ってないもんね……! すべての花を愛でるのが、男に生まれたボクの使命さ!」
「まだほざくのね、いいわ……!」
むんずと首根っこを掴まれるショウタロウ。
「この母が改めて、アンタを一から“教育”しなおしてあげる! このまま農場へ直行よ!」
「うわぁあん! 嫌だい! ボクはこのダンジョンをゲットして世界中のカワイ子ちゃんをナンパしまくるんだぁああああッ!!」
「まだほざくかアンタは! それに“カワイ子ちゃん”!? もはや死語!」
ショウタロウのことをズルズル引きずる母さんは、そのままドラゴン化したヴィールの頭上に飛び移る。
……そうやって天空オークボ城まで上がってきたのか。
「……」
母さんは、一拍間をおいてからこちらを振り返った。
「……ジュニア、ノリト」
「「ははいぃッ!?」」
揃って震え上がる僕たち。
「これから向かう先に旦那様が待ち受けているわ。二人とも死力を振り絞ってぶつかっていきなさい。死力を振り絞るのよ」
そう言って、風のように去っていく母さんだった。






