1564 ジュニアの冒険:天空の城オークボ
アイムウィナー。
僕ことジュニアです。
優勝しましたオークボ城。
嬉しいなあ。オークボ城に出場して優勝するのが僕の幼い頃の夢だったんだ。
時過ぎて夢叶ったぜ!
「それでは優勝者には賞金と、副賞の記念品が贈られます」
ありがとうございますダルキッシュさん。
……って何だこの副賞!?
ダルキッシュさんとヴァーリーナさん夫妻が描かれた大皿!?
ちょっともらって困る感じの引き出物か!?
「エルフの工房に作ってもらった特注品です。秘蔵しておけば価値は上がりますぞ」
そうかなあ?
どうかなあ……?
こうしてオークボ城のプログラムは一様に完了し、僕もまた有意義な経験を詰めただろうと思う。
しかし、それでいいのか?
僕がここへ誘われてきた理由は何だっけ?
今一度しっかりと思いだしてみよう。
父さんに指定されたからだ。
僕の旅の成果、長い旅路の末に積み上げてきたものを見極めてやると、その舞台として導かれたはずの場所がここだった。
たしかにここではオークボ城という意義あるイベントが繰り広げられていた。
僕自身もいい経験になった。
しかし現状、それで終わりだ。
最後の試練は?
決闘は?
父さんとの約束はどこに行ってしまったんだい?
「一位おめでとうジュニア」
「さすがはジュニアなのだー、さすじゅに!」
あッ、母さんにヴィール!?
おつかれさま、それぞれカレーとラーメンの屋台は終わったの?
「ああ、無事完売よ!」
「ジュニアのカレーラーメンのお陰で瞬間的に売り上げ爆増したからな。むしろお客がはける前に在庫切れしそうで肝を冷やしたのだ」
「そうねえ、食いっぱぐれるお客さんが出ることだけは避けたいものねえ」
「至急農場から食材を補充したりして大変だったのだ」
やはり謎に職業意識が高い人たちだ。
別に屋台が本業じゃないだろうにな。
それよりも母さんやヴィールは聞いてない?
「ん? 何が?」
父さんは、僕が案内された先で旅の最後を飾る勝負が始まると言っていた。
その末にたどり着いたのがここオークボ城だが、いまだに最後の勝負が始まる気配がない。
まさか、あのオークボ城での競技が?
たしかにいい経験にはなったが、ここまでの旅の集大成とするにはオークボ城は……失礼ながら……。
そもそも父さんの影も形も見当たらないんだから、なおさら最終勝負とは捉えがたい。
一体、父さんは何を図っているのか?
「そうね……アナタはまだ旦那様の思惑を測りきることはできないでしょうね」
母さん……? 何を訳知り顔に……?
「でもアナタはもうすぐ思い知ることになるわ、自分の父親がどれほど偉大か、これから乗り越えていくべき障害がどれだけ高いか。アタシはそれを見守らせてもらうわ。母としてね」
母さん……?
いつになくシリアスな母さんに、さらなる真意を問いただそうとしたところ……。
「うわぁああああーッ!? 何だアレはぁーッ!?」
周囲が俄かに騒ぎ出した。
オークボ城の参加や観戦も終わって、そろそろ帰り支度をしようとしている皆さまだ。
そんな彼らの視線が、すべて上を向いていた。
そして一点に集中していた。
天空に浮かぶ、巨大物体に対して。
……なんだ、なんだなんだなんだなんだなんだなんだ?
なんだアレは!?
巨大な浮遊物? 浮遊する巨大物体?
いやどっちも同じだ。
とにかく、ここオークボ城の会場一帯を覆い尽くしてもまだ余りそうなほどの面積体積を持った巨大な物体が、恥じらいもなく堂々と空中に留まっている。
「おー、アレが?」
「そうよ、旦那様肝入りの空中要塞よ」
なんだって!?
今なんとおっしゃられましたか母さん!? ヴィール!?
「ドラゴンのおれでもちょっとビビる規模なのだ。ご主人様があれだけ本気こめてモノ作りするの随分久しぶりだな」
「旦那様は、元からこれぐらいできる人よ。まああの空中要塞はピラミッドを素材にリノベーションしたらしいけれど」
「居抜きかー。それならまあ短時間でここまで完成させたのもナットクなのだ」
ピラミッドってあの、農場の片隅にあった用途不明の建物!?
そういえばあの巨大浮遊物体、上下逆さにした四角推の形をしているじゃないかッ!?
ということはやっぱり……!
その壮大なものを浮かせてここまで運び込んできたのは、父さんの仕業!?
しかし行いがあまりにも派手すぎる。
僕らだけじゃなくてオークボ城の来場者たちまで巻き込んで。
父さんはこんな派手なことをする人だったか?
「甘いわねジュニア」
僕の戸惑いを見抜いてか、母さんはチッチッチと指を振った。
「旦那様はね、本人はいたって地味で大人しいつもりだけれど、無意識に死ぬほど派手なことをするのよ」
「ご主人様の何気ない思い付きで、いったい何度世界がひっくり返ってきたことか」
母さんとヴィールが何とも言えない遠い目になっていた。
きっと二人が父さんと一緒に積み上げてきた日々が甦っているに違いない。
しかし、そんな人々の混乱も困惑も、すべて置き去りにしたままズンズン進んでいく。
それが聖者というものだ。
『……あーあー、テステス。本日は聖天八極式』
この声は!?
父さん!?
当たり前のことだが巨大浮遊物体から鳴り響くのは父さんの声!
しかしながら、その事実に衝撃が走った。
『まずはオークボ城にお集まりの皆さん。お騒がせして申し訳ありません。……うわぁ、“オークボ城”って言うの久々だなあ』
『随分と離れていましたからな我が君』
その声はオークボさん!?
オークボさんまであの巨大浮遊物体にいるのか!?
『我々に敵対の意思はありません。あとこちらはオークボ城の追加イベントでもなく、ほぼ無関係のものです。それなのにお騒がせしてしまって申し訳ないですが……』
本当に申し訳なさそうな父さんの口調。
その声は頼りなげで、どこにでもいそうなオジサンにしか聞こえなかったが、しかしわかる者にはわかるらしく、アチコチから『聖者様……?』『いや声以前にこんな所業をしてのけるのは……?』とヒソヒソが上がっている。
『この「親・天空オークボ城」は、ある男の晴れ舞台として築き上げたものです。人生の節目として記念すべき舞台を用意したのです。そしてこの天空オークボ城光臨の地としてこの場所を選んだのは、俺たちにとって思い入れのある場所だからです』
そうここは……僕たち農場の住人が楽しみ続けた勝負の地。
最後の決戦として、ここまで相応しい場所はない!
『さあ、聞こえているかジュニア。この俺が用意した、お前の旅の終着点がこの天空オークボ城だ。お前の旅の成果をここで示すというのなら、ここがもっとも打ってつけだ。さあ挑んでくるがいい。このラストダンジョンの最深部に、俺がいる!』
ラストダンジョン……!
まさにそう表するのに差し支えないほどの威容だった……!
『どうしてラストダンジョンって無闇やたらに浮きたがるんだろうなー?』
いや、そんなこと独り言で呟かんでも。
もちろん僕は、この戦いに受けて立つ。
いや……父さんに受けて立ってもらう!
我が子のために、ここまで豪華な戦いの舞台を用意してくれる父親なんてそうそういない。
僕はその親心……その期待に応えなければ。
「母さん、僕、行ってきます」
「こんな時母親は、見守ることしかできないのね。いいわ、精一杯頑張りなさい。お父様に認めてもらえるように」
はい。
母さんの激励の言葉、胸がいっぱいになります。
父さんの熱い思い、母さんの眼差しを受けて。
僕は最後の戦いに乗り出す!
いざ行かん天空の城へ!
とうッ!
「えッ? ジュニア飛んだ?」
「アイツ飛べるようになったらしいぞ」






