1563 閑話:遊びを尽くす者
レディース&ジェントルミート!
ボクの名はディアブロくんだよ!
え? 知らない?
このディアブロくんを知らないとはさてはモグリかな?
生まれは魔族、育ちは魔国……その中心の魔都で青春を過ごしたチャッキチャキの都会っ子さ!
ヒトは僕をこう呼ぶ……『遊びのエキスパート』と。
幼い頃から楽しいことに目がなく、流行モノには一通り食らいついてきた。
博覧会(384話)。
喫茶店(579話)。
ゴッド・フィギュアバトル(724話他)。
すべて流行り始めに触ってきた、その所業はまさしくイノヴェーター!
ヒトはボクを『魔族のニューウェーブ』と呼んだものだよ!
そんなボクも、十数年の時が経ってすっかり大人さ。
パパとママからも『いい歳なんだから一人暮らししたら?』と言われて、半ば強制的に家から追い出されたよ。
しかしそのお陰で今は気ままな一人暮らしを満喫中さ!
食事もお風呂もトイレも、いつでも好きな時に好きなだけできるからね!
翌日がお休みなら夜更かしだっていくらでもできるし! そして起きてみたら休日の夕方で呆然とするし……!
そして好きな時に、好きなタイミングで旅行にも行ける!
一人旅ならどこにだって!
こうしてボクが今日やってきたのは人間国、ワルキア辺境領。
ここで毎年行われているイベントは、世界中が注目されているんだい。
その名も風雲オークボ城!
様々な罠を突破してゴールを目指すという運動系のイベントであり、かつては有名人がこぞって参加したという由緒あるイベントなんだ!
何年か前に運営が変わってからピークの勢いはなくなったけれど、それでもヘビーなユーザーが毎年欠かさず参加するという愛されイベントでもある。
ボクは、社会人一年目からオークボ城の常連なんだよね。
さすがに養われる身じゃ、毎年旅行に連れてってなどとパパ&母に要求するのは気が引けるし。
しかし話題は国境を越えて伝わってくるオークボ城にはずっと行ってみたかった。
だから社会人となって独立したらいかない理由はないさ。
金銭面なら心配ないよ!
これでもヴァルプルギス商会の営業担当だからね、お給料も高いよ!
そうして独身の財力と機動力をフル活用して毎年の海外旅行などお手の物!
他にも人魚国へ行ったり、農場国へ行ったり、温泉に入ったり、不死山に上ったり、有名どころはあらかた行き尽くしたよ!
……おっと話が逸れたか。
今のトピックはオークボ城!
毎年重ねられるエンタメの歴史に、今回もボクの名を刻み込むのさ!
オークボ城に参戦する人たちは、開催当日ここスタート地点に集められる。
見慣れた常連や、見知らぬルーキーたちが一緒くたになって、戦いの始まりを今かと待ちわびている。
ボクもまたその一人。
数分後には、勝利に飢えた獣たちの怒号が飛び交うと思うと、ボクのキルマインドが昂るねえ!
しかも、うーん。
どこからか視線を感じるね!
さすがにボクも出場回数を重ねただけあって、常連として注目されるようになったのかな!?
「よ、ようディアブロのねえちゃん……!」
やッ、話しかけるは人族のジャングラッソ氏!
やはりアナタも出場されていたんですね!
「ま、まあな、オークボ城はオレの驕りを戒めてくれた人生の曲がり角だからな。初心を忘れないために毎年参加している、けど……!?」
うん、それはいい心がけだね!
ヒトの人生を自浄させる、それもまたオークボ城が素晴らしい証だろう!
「ディアブロさんも、出場回数重ねてすっかり常連……名物選手になっちまったよなあ……!」
名物選手!
素晴らしい響きだね!『魔都のインフルエンサー』を名乗るボクに相応しい称号だよ!
「まあ、名物になるのもそれ相応の理由があるというか……、あ? なんだお前らうるせえ! こっちだって必死に言葉を選んでるんだよ!」
ん? どうしたんだい?
他の常連選手が一歩引いたところから『もっと核心に迫って言え!』『遠回しにしていたら伝わらんぞ!』とよくわからないことを言っている?
「つ、つまりだなねえちゃん……! オークボ城に出場するのに動きやすい格好なのはわかる。オークボ城は体を動かすイベントだからな。しかしそれでも、アンタは薄着すぎるっつーか……!?」
ああ。
このボクのレオタード姿が気になっているというわけかい? へそ出しビキニ型のレオタードが!
はっはっは、これで外に出るのは刺激が強かったかもなあ。
ソーリーだね、ボクどうもこういうのに無頓着で。
何しろボク、十代前半ぐらいまでのっぺりした体格で男の子ボーイに間違えられるのが多かったから。
ボク自身、男の子と遊ぶことが多くて自分がガールだってことを忘れがちだったからね。
だって女の子たちの間ではゴッド・フィギュアバトルが流行らないから!!
それが、十七歳を過ぎた辺りからかなあ。
まさかの大成長期に突入。
おっぱいもお尻も大きくなるわ、逆に何故かウエストはキュッと引き締まるわ。
パパが『そんな、声まで変わって……!?』とドン引きしていたよ。
それまで一緒に遊んでいた友だちたちも、ボクがこの体形に実ってからなんか遠慮がちにしているし……。
弟分のゴティアくんも余所余所しくなって、周囲からは『未来の魔王子妃候補……?』とかなんとか呟き士郎なんだよ。
一体どういうことかなあ?
「そりゃあそうなるだろう。思春期も終わりだした頃に、こんな奇襲を受けるとは可哀想に……!?」
どういうことだい?
皆ボクと遊べたら嬉しいだろう?
「まあ、そうなんだけど、そうでもないという複雑な男子心があるんだよ」
それに、このレオタード姿は由緒正しい魔族の戦装束でもあるんだよ。
知ってるかい? 魔王妃アスタレス様は、このレオタード姿で戦場を駆け巡ったとか!
「マジでッ!?」
正気の沙汰じゃないよね!
でもこれが魔族の覚悟であり闘志!
今年もボクは、この体のラインきわきわであちこち揺らしながら駆け巡るとするよ!
オークボ城を!
「だからそれがマズいんだって!」
「もう一昨年ぐらい前からディアブロちゃんのたわわ目当てによからぬ自称紳士が詰めかけてきてるんだって! これじゃあオークボ城の趣旨が変わっちゃうよ!」
「アイツらは紳士じゃねえよ! 変態は紳士にはなれねえよ!!」
おやおや。
他の常連選手さんたちまで詰めかけてきてしまったよ。
しかし諸君。
物事には必ず変化が生まれるものなのだから、オークボ城にも新たなアピールポイントが生まれるのは喜ばしいことではないのかい。
オークボ城の新しい名物になれるなんて、ボクとしても光栄だね!
「ダメだ、このねえちゃん止まらねえ!」
「楽しいことがあれば突き進む! これが真の陽キャ!?」
さあ、オークボ城・本戦の開催さ!
今年こそ一位でゴールしてみせるよ!!
* * *
……ボクのオークボ城は終わった。
天守閣に到達して完走はできたものの、その順番は九位。
今年も一位にはなれなかったか……。
しかも今年一位をとったのは知らない名前。
初出場のルーキーか!?
まさか連覇記録継続中のA級冒険者シャベ氏が、トップを逃すとは。
やはりオークボ城は奥深い。こんな予想だにしないことが起きるなんて。
この世界はまだまだ、ボクの知らないことで溢れかえっている。
だからこそボクは楽しめるのさ。
だってボクは……。
すべてを遊び尽くすワンダーボーイなのだから!
「ねえねえ、そこのお姉さん!」
うん?
誰かな、ボクを呼ぶのは?
「お姉さん、すっごい綺麗ですね! おっぱいも大きいし太ももムチムチだし、是非ともボクとロマンティックなひと時を過ごしませんか!?」
と言ってくるのは十歳そこらと思しき少年だった。
うわぁボク、子どもからナンパされちゃったよ。
こういう時どう返すのが大人の対応なのかなあ。
「そうだ! お姉さん空飛ぶお城に乗ってみませんか? 今ならボクがサイコーの天空城を用意してあげますよ! 今すぐ用意してきますから、待っててくださいねー!」
ええ? あらあら?
よくわからないことを言って走り去っていく十歳前後の子ども。
ボクの少年時代だってあそこまでパッションではなかった気はする。
一体何なのだろう?






