1562 ジュニアの冒険:強豪たち
改めて凄さが窺い知れる。
豪快斬新なアトラクションの中にも、細心の注意で参加者の安全を守り抜いてきた農場サイドの気配り。
それと同時に、安全危険など知ったことかと違う意味で豪快極まりないダルキッシュさんたちの運営。
どちらも戦慄せざるを得ない。
「あの……本当に大丈夫なんですか?」
思わず聞かずにはおれなかった。
「大丈夫、とは?」
そんな『何を言われているかわからない』風を出さないでください。
色々あるでしょう?
ここまで安全に配慮していないとなったら怪我人とか……?
たくさん出るんじゃないですか?
「ハッハッハ、ジュニア様は心配性ですな」
いいや、僕の感性の方が常識寄りだと確信しております。
「オークボ城に挑戦する猛者たちは、この程度の障害ではビクともいたしません。そういったばかりではないですか。今日という日のために一年間の鍛錬を繰り返してきた者どもを、もっと信じてやりませんと!」
そ、そういうものですか……?
もう、このオークボ城関係者が恐ろしくなってきたんですが?
「十何年と繰り返されてきたオークボ城では、既に連続出場記録を打ち立てた常連たちがいます。そういう者たちにかかれば石も飴玉、丸太も麩菓子のようなもの。見てくださいジュニア様、今年も常連たちが縦横無尽に暴れていますぞ!」
ダルキッシュさんは誇らしげに、オークボ城戦いの様子を見まわす。
たしかに、落ちてくる丸太を華麗にかわし、身のこなしで目を見張る参加者たちが数人いた。
「さあ、ここからオークボ城常連のイカれた仲間たちを紹介しますぞ!」
――いつもは物静かな頼れるパパ、しかし年に一日だけは弾け散らすオークボ城の模範生。
ペステガロ。
――『芸術は体力』と公言するパワータイプの芸術家。
ピソッホ。
――一度どん底に落ちてから、後悔と反省を胸に這い上がってきた男。
サーベンホー。
――隣領からお越しの名物領主。
セボンテルト。
――魔国からの刺客、すべてのエンタメを味わい尽くすギャル。
ディアブロ。
――オークボ城によって人生が変わったと語る、若き俊才。
ネヨーテ。
――一度は鼻っ柱をへし折られた男、同じ過ちは繰り返さないと語る。
ジャングラッソ。
――退位してもまだまだ元気、今年も海を越えて参加してきた。
前人魚王ナーガス。
「……といった錚々たる面子の目白押しです!」
アレ? 今おじいちゃんいた?
いや目の錯覚か?
「しかし……、その中でも常連組を代表する最強の……そしてもっともドラマティックな参加者がいます」
物語を読むように言うダルキッシュさん。
どうしましたその雰囲気。
「冒険者ギルドが誇るA級冒険者の一人シャベ! 彼こそ現在のオークボ城を代表する選手と言っていい!」
シャベさん!?
A級冒険者の!?
A級と言えば、S級に次ぐ上級冒険者。実力者であることは疑いないはずだ。
そんな彼が、オークボ城を代表する参加者。
……その風体は、何やら不穏さが漂っている。
端がほつれたボロボロのマントに身を包み、ボサボサの蓬髪に手入れの行き届いてない無精ひげ。
その眼光は、ベテランの鋭さを感じさせながらどこか空虚だ。
冒険者もA級まで上り詰めれば、それ相応の覇気というか精悍さというか……そういうエネルギッシュさに満ち溢れているはずだ。
実際つい先日出会ったS級冒険者さんたちは大抵そうだったし。
しかし、今目の前にいるA級冒険者さんは、まるで空洞。底の見えない深い闇のような目の色をしていた。
それでいてやっぱり上級冒険者として実力は充分なのか、素早い身のこなしで丸太をよけて、坂の上へと進んでいく。
……ああッ、左右両面から一度に丸太が迫ってきて、あれではシャベさんとやらに逃げ場がない!?
するとシャベさんとやらはマントの中から得物を取り出して……?
あれはモーニングスター!?
柄と鉄球を鎖だ繋いだ打撃武器。
それを思い切りブン回しながら、たっぷり勢いつけて振り下ろすと左右の丸太がいっぺんに木っ端みじんになった。
「シャベ殿のモーニングスター使い、相変わらず冴えわたっておりますなあ」
ダルキッシュさんが感心声で言う。
「シャベ殿は一度、冒険者を引退しているのです。とある街で武器屋を開き、結婚して子どもにも恵まれ、穏やかでは充足した人生を送っていたそうです」
しかしそんなシャベさんを悲劇が襲う。
「発注数を間違えてしまい、本来十個仕入れるところのモーニングスターを千個仕入れてしまった。その代金で武器屋は倒産。……妻とも離婚して一人きりになってしまったという」
十が千……?
ゼロを二つも書き足している? 間違っても一つでは?
「しかし、シャベ殿の逆襲はそこから始まった。仕入れミスにてできた借金と、別れた妻に支払う養育費。それらの捻出のため再び冒険者に戻ったシャベ殿は修羅のごとき活躍でA級冒険者に上り詰めた。不良在庫のモーニングスターを縦横無尽に振るい、向かうところ敵なし!」
か、悲しい成り上がり。
「そして彼は今年もオークボ城へと参戦した! 優勝して多額の賞金を得るために、借金は返し終えても、会えない我が子どもたちの未来を守るために、養育費を稼がなければいけないんです!」
物悲しいこと言わないでください!
なるほど、農場が去ったあとのオークボ城にも様々なドラマがあったんだな。
その代表格がシャベさん。
山あり谷ありの人生を歩んできたってことか。
「おッ、そろそろ先頭が坂を上り切りますな、もちろんトップはシャベ殿ですが、我々も急がなければ置いて行かれてしまいます」
そうですな。
僕らは、半分見学を目的としていただけに遅れ気味であったが、ここまで来たら学びは終えて、シリアスに競技へと加わらせてもらおう。
ジュニア、バーストモード!
激流の勢いで追い上げていくぞ!!
「……ほう、活きのいいヤツが出てきたな」
一気にトップに躍り出て、シャベさんの隣に立つと彼は不敵にほほ笑んだ。
皮肉さと厭世観がたっぷりこもった笑みだった。
「若いな。人生の酸いも甘いもまだまだ知らない年齢だ。……酸っぱさなんて、味わうことなしに済めば、それが一番いいんだがな」
オークボ城、攻略ルートを駆け上がりながらシャベさんは言う。
「オレの人生は、失敗とトラブルの連続だった。だからお前みたいに若いヤツにはできるだけ失敗してほしくないと思う。嫌な思いなんて誰もしなければいい。しかし、オレにもこの戦い負けられない理由がある。優勝して賞金を貰い、家族へ送らなければ……オレの父親としてのメンツが立たない!」
シャベさんは突き進む、不良在庫のモーニングスターをブン回しながら。
鬼気迫るシャベさんに若僧の僕など弾き飛ばされそうなるが、ここで怯んでは僕も農場後継者としての資質を疑われてしまう。
負けるものか。たとえ負けるとしても、その瞬間まで気持ちは負けない。
どんな強大な相手にも、不屈の精神をもって立ち向かってやる!
* * *
そして天守閣に到達。
「負けた……!」
タッチの差だった。
かろうじて僕ことジュニアの方が早く天守閣に到達し一位、そのあと一瞬以下の差でシャベさんが二位に駆けこんだ。
シャベさんは両手でモーニングスターを振り回して、そのせいで力が分散した分前進速度が緩んだようだ。
……振り回して使うはずのモーニングスターに、とことん振り回される人だった。
「くう……、ここへ来て優勝を逃すとは……すまない妻よ、子どもたちよ……!」
「いや、二位でもけっこうな額の賞金出るから……!」
シレッと三位に滑り込んだダルキッシュさんが手際よく慰めに回る。
抜け目ない人だ。
「オレは……もう二度と家族に失望されたくなくて……! くだらないミスのせいで迷惑をかけてしまった家族に、せめて少しでも償わねばと……!」
「その必要はないわ、アナタ」
「えッ!?」
えッ、誰?
「シャベの妻です」
「お前たち……子どもらまで? 一体どうしてここへ?」
「アナタがA級冒険者になるまで頑張って、借金も無事返し終わったのに。意地を張って会いに来ないから、こっちから会いに来たのよ」
そう言ってシャベさんのことを抱きしめる女性。
その傍らには二人のお子さんが。
「アタシたちまで被害が来ないようにって強引に離婚までして。でも私たちは今でも家族でしょう。離れないといけない理由がなくなったんなら、一緒にいましょうよ」
「ああ……!」
泣き崩れるシャベさん。
まさに波乱万丈の人生だった。土砂降りの雨にあっても、いつかは必ず晴れになる。
様々な人間模様が渦巻くオークボ城だった。
「まあでも、また武器屋をやるとしても在庫管理だけは二度とやらせないけどね」
それはそうだ。






