1561 ジュニアの冒険:くたばれコンプライアンス
衝撃。
クッションの代わりに投げられていたのは石。
危険度爆上がりだった。
頭部に激突するのがふかふかクッションとゴツゴツ石なら、一体どっちの方が殺意マシマシか子どもでもわかるというもの。
一体なんでこのような代用を!?
「農場出身のジュニア様にはおわかりになれないかもしれません。そもそも農場製のクッションそのものが、王宮のソファに載せられていてもおかしくないほどの超高級品だということを」
うっぐ。
それを言われると、その通りだとしか言えないんですが。
農場で育てた木綿のワタをふんだんに使い。金剛カイコから採った絹糸を織って作り上げたシルクのカバー。
手触りも弾力も超一級。
それを弾丸のようにして吹っ飛ばすなんて、あまりにも贅沢あまりにも豪快。
お金を手裏剣にしているようなもの。
「そんな高コストな運用、我が領ではとても真似できません。クッションを射出するためのカタパルトだって組み上げる技術は我が領にはありませんし……」
たしかに、そうですね……。
ウチの父さんは、そんな複雑な知識をどこから持ってきたんだろう。
「代替案を出すのには難渋しました。この第一関門、『イライラ平均台』は妨害がないと難易度が下がって、脱落者がほとんどいなくなってしまいますからね。妨害装置の撤去はあり得ませんでした」
企画会議で渋面するダルキッシュさんの表情が目に浮かんだ。
「カタパルトのような複雑な機構は作れない。かと言って人力ではクッションのような軽く柔らかいものを高速で飛ばせない。そこで代替物として白羽の矢が立ったのが……石です!」
石ダメだよ。
ローリングストーンズだよ。
「石ならばある程度の硬さと重さでもって、長距離まで飛ばすことができて命中した衝撃もそれなりに高く、参加者を平均台から叩き落すことも可能。効果大! コスト小! しかも石なんてそこら中になあるから供給も安定! いいことずくめの選択です!」
安全性!
安全性だけがひたすら犠牲になっている!
何のために父さんがクッションを用意したのか、その意図を斟酌ください。
参加者に怪我がないように、当たっても痛くない、打撲骨折等の怪我もしない。そういう理由から選ばれたのがクッションですよ。
それに対して石とは! 何ですか!
安全の対極にある投擲素材じゃないですか! 戦争にも使われる手段なんですよ、投石は!
「それでも、死者は出てないですしー」
怪我人は!?
死ななきゃオッケーじゃないんですよ!
うおおおッ!? こうしている間にも投石は次々、橋の上の参加者に命中して堀の底へと叩き落していく!?
命中率たっか!?
投石担当の方々にも年季が入った技術の蓄積を感じる!?
「凄いでしょう。第一関門の投石担当者たちは、この日のために肩を鍛え、毎日練習を欠かさないからコントロールも抜群! もっとも撃墜数が多いトップ当主は、アンダースローのマサと呼ばれています!」
マサさん!?
いや、そこはあまり掘り下げるところではないか……! 堀だけに……!
で、端から落ちた人たちのケアは大丈夫なんです?
たしか農場Verのオークボ城では、堀の底に魔法エリアが展開してあって、そこに触れただけで転移魔法が発動して安全な場所に運ばれるという仕掛けになっていた。
それが、引継ぎを受けた領地主催Verではどうなっているのか……!?
「普通に落ちてるぅうううううッ!?」
堀の底を覗くと、投石の直撃受けて橋から押し出された参加者さんは、当然のように重力のまま落ちていく。
そして堀の底まで墜落し、地面に叩きつけられて『ぐえッ』とか言っている。
無事なの!?
あれ無事なの!?
「大丈夫です。堀の底は湿気が高く、苔がびっしり敷き詰めていてクッション代わりになるんです。だから落ちても大丈夫ですよ」
大丈夫とは思えないんですよ!
クッション代わりがあるなら本当のクッションを用意していただけませんか!?
それに苔って!?
芝生ならともかく苔がクッションになるんですか!? 苔って岩肌に生すものでしょうに、むしろ硬くないですか!?
……あッ。
堀の底に落ちた人たちが……?
「ぐぅう……、うおおおおおおおおおおおおッ!!」
元気だッ!?
投石くらって高所から落ちたというのに、ダメージらしきものが全然窺えない!?
しかも……!
「まだまだぁあああああああッッ!!」
うわああッ!?
全力で堀から這い上がろうとしている!?
「そう、それこそ主催が移ってから新たに追加された新ルール! たとえ平均台から落ちたとしても、時間内に堀から這い上がって平均台を渡り直せば敗者復活できるのです!」
な、なんだってぇ!?
「あ、もちろんスタート地点側ではなく、城側の岸へ這い上がるのは禁止ですからね。それが認められたらわざと落ちて這い上がってくる方が確実なうえに速いですから。ゲームが崩壊します」
あくまでスタート側に上って再チャレンジするのが認められてるってことか。
それだけでもだいぶ大味になっているような。
「さて、そろそろ私たちも突入しませんと。主催者サイドが初戦脱落では笑いものですからな」
そうだな、僕も出場者としてここにいる以上、乗り越えていかなければ。
あの断崖絶壁に渡された細い橋を。
よぉし、行くぞ!
シュタタタタタタタタ……!
とうッ!
シュタッ!
よし、渡り切ったぞ。
こうして堀を渡った僕たちは次の難関へと入る。
オークボ城第二関門も、僕の幼き日のメモリーの中にしるしがあった。
第二関門は、たしか坂道から大極が転がり落ちてきて、それを避けながら登っていこうという趣旨の大騒動だったはずだ。
もちろん旧版には、それ相応の安全配慮がされていて、転がってくる大岩自体に魔法処理が施されて、人にぶつかる寸前に転移魔法で別の場所に移す……という仕掛けになっていた。
そのお陰で怪我人が出る恐れもなく安全だったのだが……。
ダルキッシュさんたちが陣頭に立った新版では、どういう形態になっているのか。
……。
あの坂から転がり落ちてくるのは?
丸い大岩ではなく……?
丸太だぁああああああああッッ!?
丸太!
木の幹を切り倒して、枝を落として限りなく円柱状にしたもの!
丸太!
皆丸太は持ったか!? 行くぞ!
……の丸太!
しかし今日の丸太は、坂の上から転がり落ちてくる災厄となっている!?
「見ましたかジュニア様! これこそ新しいオークボ城で採用された坂の上トラップです!」
ダルキッシュさんが得意げに言うが、どうして落下物が大岩から丸太に?
「管理の問題で」
そう。
「人間大の大岩を管理するのは大変なんですよ。転がり落として、もう一度坂の上まで押し上げるなど実質不可能ですし。オークボ城のない期間保管しておくのも労力が……」
言われてみればそうですね。
父さんたちは、あの見事なまでに球状の大岩をどこから調達してきたのやら。
「それなら丸太の方がまだ用意も管理もしやすいということで……。補充も容易ですし……」
まあ森に入って木を伐り倒せば丸太なんて無限に入手できますからね。
でも丸太には、緊急避難用の転移魔法は付加してあるんですか?
「してないですよ」
え? やっぱり?
だったら坂の上で激突したら……?
「普通に轢かれますが」
やっぱりぃいいいいいッ!?
たしかに現場では、坂から落ちてくる丸太の下敷きになったり吹っ飛ばされたりする人続出!
地獄絵図だぁあああああッ!?
「大丈夫です、この形式に変えてまだ死者が出たことは一度もありません!」
死ななきゃ大丈夫ってことでもないんですよ!
いや、それ以前に、この惨状を出しといてまだ死者ゼロ名!? それはそれで奇跡の状況ですが!
「オークボ城に参加している人たちは皆鍛えていますからな。丸太にぶつかった程度ではかすり傷にもなりません」
マジでッ!?
オークボ城で勝ち上がるためには、丸太も跳ね返さないといけないのかッ!?
しかし……主催者が替わるだけでこんなにも安全係数が下がるものなのか。
いや、逆だな。
農場サイドがあまりにも完璧に、安全に配慮しすぎていたんだ。
怪我をさせないように万全の配慮で。
それを実現させた父さんの気遣いには目を見張るものがある。
こんな形でも間接的に父さんの偉大さを垣間見せるのだった。






