1552 閑話:冒険者たちの締め括り
「行ってしまったか……」
私の名はシルバーウルフ。
かつては冒険者最強の称号……S級冒険者の座にあった者。
S級冒険者は、すべての冒険者が目指す目標であり、栄光の頂点。
だからこそ冒険者ギルドの顔でもある。
冒険者が彩る各時代の特色は、その時それぞれのS級冒険者の性格そのものと言ってもいい。
それほどにS級冒険者は、あらゆる面から見て重要な存在だった。
そんなS級冒険者が新旧の世代問わず全員集合する。
なんて事態を引き起こすのも、ここ『聖なる白乙女の山』に訪れた彼の存在ゆえだろうが……。
「ギルドマスター、お疲れ様でした」
私の現在の肩書きを呼ぶのは、かつての同輩にして現S級冒険者のブラウン・カトウくんだった。
冷静沈着、いかなるときにも公正さを失わない判断力をもった彼には、今もって助けてもらうことが多い。
「……いや、年寄りの冷や水だな。引退した分を弁えずに、今回は随分とヤンチャをしてしまった」
「そうしたくなるほど、彼がピチピチだったということでしょう。未知への挑戦に心躍らなければ、S級にまで上がれませんよ」
カトウくんの言う通りではある。
聖者の息子、ジュニアくん。
彼が『聖なる白乙女の山』へ登ると知って、どんなことが起こるのかと興味を惹かれ、居ても立ってもいられなくなった。
そうやって引き寄せられたS級冒険者がなんと全員。
我らの期待にジュニアくんは応えてなんと一発での試練合格。
「普通なら最低一回は、どこかで敗退するものですからねえ」
たしかに。
実際、ここにいるS級冒険者は全員『聖なる白乙女の山』の試練をクリアしているが、漏れなく全員、周辺エリアのどこかで敗退して態勢立て直しを余儀なくされる。
あっちにいるモモコくんなどは全エリアでの敗退を経験済みだ。
「煩いわね! いいじゃない最終的には勝ったんだから!」
それに対してジュニアくんは速攻八連勝の快挙。
聖者様の色濃い血筋を感じさせる。
彼が本格的に冒険者活動に身を入れれば、きっと数多くの新しい伝説が生まれることなんだろうな。
「でもそれは見果てない夢で終わるでしょう。ジュニアくんにはもっと重大なお仕事があるんですから」
そうだな。
ジュニアくんにはお父上の治める国を継承するという、壮大かつ重大な使命がある。
冒険者活動は、お父上の後継者として相応しい力を身につけるための修行の一環。
彼が生涯かけて冒険者活動に没頭することは、恐らくない。
それを惜しいと思うことは、私がこの全生涯を懸けて冒険者の道を進み続けてきた、その魂があるからか。
しかし仕方のないことでもある。
我々冒険者も、彼の父親……聖者様には散々世話になってきた。
その恩を返すためには、ご子息の成長を助けることぐらい何の手間になろうか。
今でも鮮明に思い出せる。
聖者様との出会いは……我が人生の重要な転機の一つであった。
「聖者くんとの出会いにも、アレキサンダー様が関わっているんだってね」
そうだ。
超越者としてのアレキサンダー様からご依頼を受けて、農場へと案内された。
農場が指導している若者たちに、冒険者の活動を教えてやってほしい……という依頼だった。
思い出せば懐かしい。
あの生徒たちの中に、今の人間国の代表者リテセウスもいたのだったな。
しかし驚かされたのは私の方でもあった。
何しろ聖者様の農場には、ここ『聖なる白乙女の山』にも迫る、評価五つ星は確実の優良ダンジョンがあったのだから。
「五つ星クラスの未発見ダンジョンなんて、数百年に一度ぐらいの希少さですからね。それが一度に二つもなんて、それこそ大事件ですよ」
カトウくんの言う通り。
ノーライフキングの先生のダンジョンに、ヴィール様のダンジョン。
それぞれ洞窟ダンジョンと山ダンジョンでバラエティも豊か。『世界のすべてをそこに置いてきた』と言われそうな豪華さでもあった。
初めて農場を訪れた私は、そのダンジョンの素晴らしさに攻略の許可を乞うたものだ。
冒険者の血の騒ぎを抑えきれなかったな。
「それで、数ヶ月もかけて聖者様のところのダンジョンを堪能しまくったわけでしょう?」
そうだ。
「あの頃は聖者くんと農場のことは完全トップシークレットだったから、シルバーウルフさんの行方も自然と秘密になってたんだよね。お陰で農場にいる間の動向がまったく伝わってこなかったから死亡説が流れたぐらいだよ」
その節はお騒がせして面目ない……!
S級冒険者シルバーウルフ、ダンジョンに死す!
まあそれも冒険者としてなら悔いなき大往生でもあったがな。
「冗談じゃないにゃん!」
妻ブラックキャットが憤慨した。
「あんなところでダーリンに死なれたら、うちの人生設計が丸ごと狂わされるところだったにゃーん! もっと自分を大切にしてもらわないと困るにゃーん!!」
お前、その時点から私のことをギルドマスターに担ぎ上げる算段だったのか?
恐ろしいな……!
まあ、それも過去のことで現在は、キッチリとギルドマスターであるシルバーウルフの体制が確立されているんだからいいではないか。
しかし、……その聖者様との出会いをきっかけに、我ら冒険者ギルドも巻き込まれてどんどん様相を変えていった。
私以外のS級冒険者も聖者様との邂逅を果たし、農場を訪れ……。
カトウくんは、同じ異世界召喚者である聖者様と意気投合していたし。
ゴールデンバットの野郎も独自に聖者様と親交をもって、気づけばベストセラー作家になっていた。
「そういえば、うちとダーリンが結ばれたのも聖者絡みだったにゃーん」
そうだな。
聖者様が主催するオークボ城で、いきなりお前と結婚することになったんだよな。
……そういう意味では、私とコイツの縁を繋いだキューピッドは、聖者様ということになるのか?
そして次世代……コーリーとムルシェラは、聖者様の下で修行を積んで先代である私たちを越える強さを手に入れた。
あっちのモモコくんは当初から勇者として、聖者様を探し続けていたという。
誰もが、聖者様に関わり、聖者様に振り回されてきた。
それこそが、今の時代に生きる者の宿命なのかもしれない。
「その宿命の最後を飾りそうなのが、ジュニアくんってことだね」
そうだな。
ジュニアくんこそ新しい世代の切り拓きし者。
彼より先の世代は、直接的に聖者様と関わることは極端に少なくなるだろう。
何故なら、新しい時代の担い手こそジュニアくんになるのだから。
そういう意味で、これから時代は大きな転換期を迎えることになる。
我ら冒険者ギルドも、その荒波に無関係ではいられない。
私もギルドマスターとして、波に沈むことなくギルドを引っ張っていけるかどうか大きな責任が伴っている。
フッ……。
結局のところ、現役冒険者を引退しても第一線で戦わなければいけない、ということか。
よかろう、一兵卒だとしても指揮官だとしても。
生涯激闘最前線、それがこの私シルバーウルフ。
人生こそが冒険だ!!
ブラックキャット、我が人生の伴侶よ。
お前には最後まで付き合ってもらうぞ、私の人生という冒険に。お前が望んだ結婚なんだから文句は言わせない。
「当然にゃーん、死が二人を分かつまでもにゃーん」
ゴールデンバットよ。
お前はギルドの問題児だが、それでも多くの貢献をしてくれたことは事実。
これからも多少はギルドのことを考えて動いてくれると助かる。
「いやもっと言うことあるだろう!? お前の、生涯最大のライバルだぞ、オレは!?」
ブラウン・カトウくんとピンクトントン。
キミたちは現役で最年長のS級冒険者。
現役だからこその視点で、後輩を気遣えることがあるだろう。夫婦で導いてやってほしい。
「もちろん! 異世界に飛ばされて、冒険者ギルドがなかったらきっとどこかで野垂れ死んでいたことでしょう。恩返しは必ず致しますよ!」
「旦那様と共に生きられるなら本望です!」
コーリーとムルシェラ。
逆にキミたちは新世代の星だ。
キミたちが突き進むことで新しい時代が拓けるのだ。迷わず進め!
「シルバーウルフさんの……ギルドマスターの期待に応えられるように頑張ります!」
「私は別に役割を果たしているだけですし」
そして最強のS級冒険者モモコよ!
……。
まあ、頑張って。
「私にはなんかコメントないんかい!?」
頼もしい仲間たちと一緒に、冒険者ギルドは今日も新しい時代へと向かって進んでいく。
いつの時代もそうであったように。
こうして冒険者ギルドは続いていく。
その時期その時代の担い手の冒険によって。
今日も冒険者ギルドは続いていく。






