1551 ジュニアの冒険:甘き死よ、CATれ
先生ぇえええええええッッ!
お久しぶりです!!
『ジュニアくん、また少し見ぬうちに精悍になったのう。もうすっかり一人前の大人の顔じゃわい』
そッ、そうですか? エヘヘ……!
もし本当にそうなら『聖なる白乙女の山』の試練を潜り抜けた成果かな?
「やい死体モドキ、テメーがネコ野郎の言ってたお出迎えか?」
コラ、ヴィール!
そんな言い方はよしなされ!
『まあワシも、三賢と呼ばれる中ではもっとも若僧ゆえのう。先輩たる方々から頼まれたら使い走りもやむなしじゃわい』
「齢千年のノーライフキングが若僧……!?」「想像を絶する世界だ……!?」
周囲のS級冒険者さんたちが戦慄している。
『博士は、成り立ちから世界を見守ってきた、世界そのものの生き字引というべき御方。その博士が招くのですジュニアくん。そなたにも相応の覚悟が必要となりますぞ』
望むところです。
この旅路では、思いもよらぬところから招待を受けることがままあり、そのすべてを避けることなく飛び込んできた。
そのたびに得るものは様々ながら必ずあった。
今回も……避けて通ることはない。
行きます。『聖なる白乙女の山』関係者の方々。ここでお別れとなりますが皆さま末永くお元気で。
「さらば聖者の息子よ。そなたがこの頂上を踏んだことは我が誇りとして刻まれるであろう」
アレキサンダーさんから最大限の祝辞をもらって、僕らはたくさんの思い出の詰まった『聖なる白乙女の山』から出立した。
『ヴィールよ、お前も一緒に来るか?』
「うんにゃ、死体どもには死体どもの領分があろうから無闇に立ち入らないのだ。それよりもおれは一足先に戻って『ジュニアお帰りパーティー』の準備をしておくのだ!!」
もうヴィールの中では僕がもうすぐ農場に帰るものと固まっているようだ。
まあ、概ねそうだけれど。
それに先生は頷いて……。
『あいわかった、ではジュニアくん共に行こうぞ世界の果てへ』
えッ、先生一体どこへいらっしゃるつもりなんですか!?
字面が普通に怖いんですけれど!?
『なぁに、時間はかからんよ。何しろ転移魔法じゃから』
そうですか……ってもう飛んでるんですか!?
視界がグニャって……ゆわわわわぁあああああああーッ!?
* * *
着いた。
転移魔法で飛んだがゆえに経路などわかりようもない。
しかも見渡す限り異様な光景だった。
何やらくぼんだ地形で、地面がえぐられたようにお椀状にへこんでいる。
その周囲は森なのか、遠方に緑の陰がうっすら見えるが、しかし窪地の内側は土気色の荒れ地。いやうっすら苔が生えている程度で、何やらそれが不気味だった。
『ここは数千年前に隕石が激突した跡……こういう地形をクレーターと呼ぶそうですな』
暮れーたー?
そんな呼び名があるんだ勉強になるなあ。
『しかもこの地は、隕石と共に飛来してきたという細菌が繁殖し、一体に独自の生態系を形成しておるとのこと。ゆえに周囲の動植物も侵食できぬようです』
まさか、このクレーター一面にびっしり生えている苔が?
そんなところに足踏み入れて僕たち大丈夫なんですか!?
『大丈夫でしょう。クレーター内の環境はあの方が制御しているはずですから』
?
先生はそれ以上何も語らずズンズン進んでいく。
僕も慌ててあとを追う。
先生が向かう先は、どうやらクレーターの中心部のようだ。
『……ジュニア殿も薄々気づいているのではないでしょうか。我々が何処に向かっているかを』
まあ……。
僕らはノーライフキングの博士に招かれて来たんですよね。
そして訪れたのは、ここ。
あまりにも神秘的で幻想的、そして不気味。
この世のものとは思えない。
現世から隔絶されたような、この場所こそが……。
『そう、博士の本体が隠された場所です』
僕らはクレーターの中心へと到達した。
そこには一体の亡骸が安置されていた。
かなり古いものだとわかる。すっかり風化して、よほど注意して見分けねば土塊と勘違いしそうだ。
しかもその朽ちかけの亡骸は、クレーターの中心にうずもれる大きな岩の塊の中に抱かれるように安置されていた。
いや、岩塊と半ば融合するように……?
『あれは隕石ですな。このクレーターを創り出した張本人です』
先生が解説してくれる。
『博士はあの隕石と一体化することで腐食を遅らせ、同時に自身の意識を世界中へ伝播する増幅器としていたようですのう。隕石が含む鉱物は特別なものですから』
……。
……ん?
足元に何かが振れる感覚がした。
見下ろしてみると、ネコがいた。縞模様のキジネコだ。
うおッ、と思って見回すと周囲にはたくさんのネコが。
あの朽ちかけの死体を取り囲むようにして立ったり座ったり毛づくろいしたりしていた。
そして、ネコの中の一匹が語りだした。
『よく来たにゃ、次なる時代の担い手よ』
ネコが喋った……!?
いや、魔法を使ってネコを喋られているのだとわかる。
奥にいる、あの朽ちかけの死体が。
『それに先生もご苦労様にゃ。高名なるユーにお使いなどやらせてすまんにゃー』
『博士の頼み事なれば聞かぬわけにはまいりません。ワシとてまだまだ若僧ですゆえ』
千年生きても若僧とは、ノーライフキングの世界は凄まじいものだ。
しかし、この呼び出し自体不穏なものを感じる。
あの奥にあるのはたしかに最古のノーライフキング、博士の本体。
博士は、何があろうとあの本体の守り、秘密にしておかなければいけないのではないか。
博士の本当の体は、実際見てわかるとおり朽ちかけだ。長い経年劣化で腐れ渇きスカスカとなって土塊になりかけている。
チョイと小石が当たっても全身ひびが入って粉々になってしまいそうだ。
あんな弱った本体を晒せば、たとえ数千年を生きた最古のノーライフキングでも無敵でいられるとは思えない。
そんな超特大級の弱点を晒して、僕らと直接相対した理由は……。
『いやー、歴史的な瞬間がもうすぐやってくるから、誰かに看取ってほしいにゃーと。卓越した我が後輩である先生と、次世代の担い手なら打ってつけだと思ったのにゃ』
『では、やはり……!』
先生の激しい動揺が伝わってきた。
先生が動揺するなんてよっぽどのことだぞ。
『うむ、この肉体に終わりが来たのにゃ。約五千年……よくもったにゃー』
『そんな……そんな気がしておりました……!』
ノーライフキングである博士に終わりの時が来た。
もっとも古く、長きを生きてきたという博士の評判は聞いていたが。
信じがたい事実が今目の前に現れた。
永遠に終わることがないと思われていたノーライフキングの人生にも、終わりはあったのだ。
『アナタの身に起こることはいずれワシにも起こること。アナタの辿る道を見届けさせていただく』
『後輩に道を示すのも先輩の役目にゃー。ここまで自分勝手に生きてきても、後進に役立てるとは幸せ者にゃ』
喋っているのはネコだが、これから起こる滅びに対して悲壮さなど少しも感じさせない。
数千年も生きれば、滅びも容易に受け入れられるほど悟れるというのか。
『そこの若き者よ。ニャーのことは反面教師として見るがいいにゃ』
はいッ!?
僕ですか!?
『魔道を究めんと、人がましい生を投げ捨ててまでここまで来たにゃ。その結果、何が残ったのかと言われれば答えるのは難しいにゃ。何かあったような気もするし、何もなかった気がするにゃ』
あッ……!?
突然、博士の本体が音を立てて崩れ出した。
ヒビが入ったかと思えば、砂となって形を失い、崩れ落ちていく。
その砂も、流れくる風に舞って散り散りとなり、影も形も残らない。
そして最後には何も残らず、ノーライフキングの博士を形作っていた亡骸は消え去った。
周りのネコたちが、ピクピクと耳を震わせる。
『……と思ったけれど、消えなかったにゃー』
あれ!?
博士の肉体があった頃と変わらず、ネコが喋っている!?
『我が不死王としての魂は、もはや肉体が消滅しても世界と共にあるようだにゃ。そして以前と同様にネコたちを通して自由に意思を伝えられるし、また見取り聞き取ることもできるようだにゃ』
『やはりそうなりましたか。いやはや不死王となると簡単には消え去れぬのですな』
『まったくにゃ、ノーライフキングなんてなるもんじゃないにゃー』
ハハハ……、と笑い合うネコと先生。
恐るべしノーライフキング。肉体を失ってなお存在し続けるなんて。
彼らは世界二大災厄と呼ばれる理由が、改めてわかった気がした。






