1550 ジュニアの冒険:最後の死ニャ
「おめでとう」「おめでとうジュニアくん!」「おめでとんかつ」
またS級冒険者の方々から惜しみない賞賛の拍手を貰ったが、二回目なのでもういいです。
いやあ、しかし……。
本当に終わってしまったなあ『聖なる白乙女の山』での試練。
思ったより大分長くかかってしまった。
やはり最強ダンジョンなだけあって道のりも険しかった!!
「でもやりきったなジュニア! それでこれからどうするんだ? ついに農場へ帰るのか!?」
そうだねー。
もう回るところも思いつかないし……というか世界中行き尽くしたんじゃないか?
これでまだ旅を続けるとなったら二周目に入るしかない。
しかしそれほど旅に飢えているわけでもない、ということで……。
どちらにしろ農場へ帰るか。
そして旅を経て成長した僕を父さん母さんに報告しよう。
「よっしゃー! ついにジュニアが農場へ帰還なのだー! おれが送っていくぞ! 背中に乗りやがるがいい!』
と言ってドラゴンに変身するヴィール。
段取りが早い。
『まあまあ、ちょっと待つにゃ』
ん? どうしたんですブラックキャットさん?
ここはいまだ『聖なる白乙女の山』の頂上。
その主であるアレキサンダーさんはまだ家令さんを慰めるのに没頭し、また僕の試練を見届けるために集まったS級冒険者の皆様も三々五々、解散したり、急いで帰る必要もねえとお喋りに興じたりと思い思いに過ごしている。
その中でブラックキャットさんだ。
引退した元S級冒険者で、かつ現冒険者ギルドマスター夫人。
そしてネコ。
そんな彼女に話しかけられて、何の用件かまったくわからずに困惑する。
正直この人と接点まったくないのにな……?
しかし僕の困惑も意に介さずとばかりに一方的に喋ってくるブラックキャットさん。
『ゴートゥーホームアローンにはまだ早いにゃ、ジュニアくんにはもう一つ、行くべきステイがあるにゃ』
どういうこと?
まだまだオススメスポットがあると?
世界は広いからなあ。
「いやいや、せっかくジュニア帰還を待ちわびていた農場一同に水を差すなネコが。耳を裏返すぞ」
ヴィールが抗議をするが、しかしそれで相手はひるまなかった。
『そうカリカリするにゃ若きドラゴンよ。カリカリはゴハンだけで充分にゃ』
「はッ?……まさかお前は……!?」
何かに気づいたヴィールが、表情を緊迫させる。
『既に迎えを頼んであるから。ソイツの案内に従ってほしいにゃ。じゃあ、現地で待ってるにゃー』
そこまで言って、ビクンと震えるブラックキャットさん。
次に、周囲をブンブン見回して……。
「……にゃーん?」
一体なんだ?
なんかある瞬間を境に、気配がまったく変わったような?
「おやブラックキャット、また憑かれていたのか?」
奥さんの様子に気づいて寄ってくるご主人ことシルバーウルフさん。
「怖がらせて悪いな。ブラックキャットはたまに意識が飛んで、別人に切り替わるような状態になる時があるんだ」
それって大事じゃないですか!?
お医者さんに見せなくてOK!?
「んー、でもそれで不便なことはないからなー。コイツ自身も困ってないようだし、対策ねるのは実害出てからでもいいじゃ?」
「無害なら何でもいいにゃーん」
肝が据わっている!?
さすがは夫婦揃ってS級冒険者!?
「心配ないのはたしかだと思うぞ。この現象の正体をおれは知っている」
ヴィールそうなの!?
さすがドラゴン、物知りだ!
「コイツはネコ野郎の仕業だな」
「誰が野郎にゃ!? こちとら上品なメスネコ様にゃーん! もっと気品高く呼ぶにゃーん!」
「テメエのことを言ってるんじゃねえ。お前の裏に潜む恐るべき不死者のことだ」
不死者?
でもこの『聖なる白乙女の山』はけっこうノーライフキングに溢れかえっていますが……?
「こんな有象無象のことを言ってるんじゃねえ。ヤツの名は博士。ノーライフキングの博士だ」
「ニャンコ博士にゃーん?」
博士。
その名を聞いて居合わせた一同が硬直する。
「博士……!?」「あの三賢の……!?」『また大物が動き出しましたな……!?』
家令さんまで緊迫の声を上げるなんて。
そんなに凄い人なのか、ノーライフキングの博士というのは?
でも喋ったのはブラックキャットさんでしたけれども?
「ニャーが博士だったにゃーん?」
「違うわボケ」
ヴィール否定するにも全力投球すぎる!?
『博士は、ノーライフキングの中でもっとも高名叡智とされる三賢の一人。しかもその中でもっとも古く、誰よりも長く存在し続けていると言います』
と解説する家令さん。
ただでさえ長生きなノーライフキングの中でも、一番長生き!?
それって世界最年長ということでは!?
「そうさな、私とて博士の高齢長寿に尊敬の念を抱かざるをえぬ」
「アレキサンダー兄上は誰にでも何かしらのいいとこ見つけて尊敬するだろ?」
三賢と言えば農場に所属する先生もメンバーの一人。
先生と同格のノーライフキングなんて、それこそヤバいです。
「でも、なんでそんな大層なヒトが、ウチの意識を乗っ取ってトークしたにゃーん?」
『博士は、もっとも長く存在し続けるノーライフキング。明確には存じませぬが三千年……いや四千年は生き続けていると言います』
半端なく長い。
あまりに長すぎてちょっと気が遠くなる。
つい今しがた、アレキサンダーさんのあまりの強さに気が遠くなったというのに。
『しかし数千年という長過ぎる時間は、不滅とされるノーライフキングの肉体すら無影響とはいきませんでした。博士の肉体は経年劣化ですっかりボロボロになり、もはや崩壊寸前とかなんとか……』
「ノーライフキングにも寿命があるのか……!?」
驚く人々。
『ヘタに動かせばそれだけでボロボロ粉々になりかねない。そこで博士は自分の本体を誰にも見つけられない秘密の場所に保管し、守ることにしました。しかしそれでは世界に起こる様々なことを観察できない。そこで博士はもう一つの秘術を使い、自分に替わる無数の耳目を得たのです』
無数の耳目?
『ネコです』
「ニャーン?」
一同の視線がブラックキャットさんを向いた。
ネコです。
『博士の秘術は世界中にネコに憑依し、見たもの聞いたものを自分の情報として蓄積するというもの。この世界に一体何億匹のネコがいるかわかりませんが、そのすべてが博士の端末であり、博士の目であり耳であるのです』
「にゃーん……?」
ブラックキャットさん。
しばらく宇宙に漂うかのような表情をしていたが……。
「……つまり、うちも博士とやらの端末にされてたにゃーん!?」
『お気づきになりましたか』
ブラックキャットさんも獣人として、体の何割かにネコの因子を保持している。
それが引っかかって博士の端末にされてしまったということか。
「幼少の砌から度々意識が飛ぶことがあったのは、そういうカラクリだったにゃんね」
そんな昔から乗っ取られていたのかアナタ!?
意識がなくなるって大事じゃん、もっと早い段階で原因究明しなさいよ!
「でもいいこともあったにゃーん、ウチの意識が飛んでる時に呟いた言葉をヒントにギルドを発展させたって、先代ギルマスであるパパが言ってたにゃーん」
「神託!?」
その神託の大元が博士だったということか!?
一体何者? 何をしている博士さんとやら?
「で? そのネコ野郎が不遜にもウチのジュニアをご招待というわけか。どうするんだジュニア? 誘いに乗るのか?」
ヴィールに尋ねられるが、まあご招待を受けて断るような野暮はするべきではない。
それにきっとその博士さんとやらだってウチの父さんと知り合いなんだろう。
だったら失礼かませば父の顔に泥を塗ることになる。
聖者の息子として、そんな不始末はやらかせない。
「いや……ご主人様はネコ野郎が家の柱で爪研ぐたびにブチ切れて追い回していたが」
「心の狭いヤツにゃーん」
でも知り合いなんですよねやっぱ。
さて、そんな博士ですが、迎えを寄こすと言っていた。
一体誰が来るのだろう。
しかもこんな『聖なる白乙女の山』の頂上という秘境中の秘境に。
『ジュニア殿はおられますかな?』
と思っていたら現れた。
同じくノーライフキングの一人である先生が。






