1546 ジュニアの冒険:頂上到達
「よくぞ再び戻ってきた! 聖者の息子よ!」
『聖なる白乙女の山』、その頂上へと登りつめた僕を迎えてくれたのは当然のことながらアレキサンダーさんだった。
偉大なるこの山の主。
「お前ならきっとやり遂げると信じていた! 新たなる到達者に皆! 惜しみない賞賛を!」
「おめでとう!」「おめでとー」「頑張ったなジュニア!」「私はどうでもいい」「私の十分の一程度は頑張れたみたいね!」「それでこそギルドが認めたX級冒険者だ!」「もっと鍛えればモノになりそうだな」「よくやったにゃーん」
と万雷の拍手巻き起こすのは……?
S級冒険者の皆さん!?
アナタたちも頂上まで来ていらしたんですか!?
「そりゃあジュニアが大成するのを最後まで見届けたいからな。オレたちの期待通り、ちゃんと頂上まで来れたじゃないか」
コーリー兄さん!?
「先乗りしてきた甲斐があったな。試練達成おめでとう!」
ありがとうございます……!
最初に想定していた試練とはだいぶ様相が違っていたけれど。
実際にはS級冒険者ボスラッシュだった。
しかし皆さんは普通に頂上へ来れてるんですね。
「そりゃあ、S級は全冒険者の頂点だもの、たとえ『聖なる白乙女の山』だって頂上制覇の経験はあるわよ。全員漏れなくね」
世界最高、最難関と言われる『聖なる白乙女の山』の山ですら当然のように全員制覇している。
S級冒険者がそれだけ別次元の存在だというのが改めてわかる。
……そちらのお三方も?
シルバーウルフさん、ゴールデンバットさん、ブラックキャットさん引退組の方を向く。
「もちろん現役時代にな」
「一線退いても頂上へ出入り自由にしてくれる優しさにゃーん」
和気藹々とした引退組。
それに加えて……。
「僕らの子どもたちまで招待してくださるとは有り難いね」
「この子たちにとってもいい思い出になるわ」
と行楽気分のカトウさんトントンさん一家。
家族旅行の先としては『聖なる白乙女の山』は豪華すぎる気もするが……。
S級冒険者夫婦であれば過不足なしだろうか。
そういう大らかさはアレキサンダーさんならではだった。
そんなアレキサンダーさんだが……。
「ヴィールよ、お前も案内役と解説役ご苦労であった」
「おい、あのドラゴンでノーライフキングとかいうヤベー存在なんだ!? まったく知らなくて度肝を抜かれたのだ!?」
「祖母上自身が、あまり知られたがらないのだから仕方ないだろう」
ヴィールにねぎらいの言葉を懸けていた。
僕も大変助けられたのであとでお礼を言っておこう。
「さて聖者の息子よ……いやジュニアよ。我がダンジョンをクリアした手際見事であった。人の努力と奮起が結実する様を見るのは、いつだって私の喜びだ。私にとっても大変有意義だった」
アレキサンダーさんも手放しで賞賛してくれた。
「これほどの頑張りに、ねぎらいの言葉だけではまだまだ不足だろう。ダンジョンを制覇することは冒険者にとって偉業の一つ。その見返りは名誉と富。我が『聖なる白乙女の山』からも望むだけの財宝を持ち返る権利が、そなたにはある」
「おッ、出たぞアレキサンダー様の大盤振る舞い」「両手いっぱい持ち返るにゃーん」
アレキサンダーさんがパチンと指を鳴らすと、瞬間移動でヒュンと、目の前に金銀財宝の山が降ってくる。
しかも尋常じゃない量。
金貨や宝石、その他の財宝が山のように積み上がる。
しかもちょっとの衝撃で崩れたら雪崩になって僕のことを押し潰しそうだ。
宝を前に生命の危機を感じる……なんて、そうそうあるものだろうか?
世界のすべてがここに置いてある、といっても差し支えないぐらいの財宝量だぞ!?
「さあ、この金銀財宝をすべて持って帰ってもよいし、何か他に希望のモノがあったら言うといい。可能な限り対応させてもらおう」
「アレキサンダー様の所蔵品は範囲が広いから何でもあるぞ。とりあえず浮かんだものを端から言ってみるといい!」
「『まさかこんなものまで!?』って言うのがあるのよね」
アレキサンダー様からのダンジョン制覇のご褒美。
それを聞いた瞬間、僕の答えは固まっていた。
世界最強たる彼から得られる、最高の贈り物と言えば、アレしかない。
「それならばアレキサンダーさん……!!」
僕が欲しいものは一つです。
「アナタへの挑戦権が欲しいです!」
そう言った瞬間、場が水を打ったように静まり返った。
誰も彼も声を出さない。
そう思ったのもつかの間、すぐにクツクツと笑い声が響き渡る。
それは当然のように……アレキサンダーさんからの笑いだった。
「ふっははははははは……、だからこそ人間とは素晴らしい」
彼から見て遥か下等な生き物だろう人間から挑戦を叩きつけられる。
見ようによっては不遜極まる行為だが、それもアレキサンダーさんにとっては愉快な出来事らしい。
「それはもちろん面白くもある。何しろこの頂上にたどり着いた人間は、皆すべて同じことを言うのだからな」
え?
振り向くと、そこへ居並ぶ新旧S級冒険者の皆さん。
その全員が極まりが悪そうにモジモジしていた。ヒューヒュー鳴ってない口笛を鳴らす人も……。
「頂上へたどり着いた冒険者たちは皆揃って私への挑戦を望む。どんな金銀財宝を目の前にしても横へ払いのけて。その向上心、探求心、まこと晴々しい!」
「いやだって……財宝は別のダンジョンでも獲れるし……」「他にはない、このダンジョン唯一無二の魅力あるモノと言ったら、ねえ?」
互いに見合わせるS級冒険者さんたち。
どんなに偉くなっても、まだ見ぬものを求めて進み続ける飽くなき心。
しかし他の人たちはわかるが、まさかカトウさんまで挑戦を?
『君子危うきに近寄らず』を体現したような人だと思っていたのに?
「いやぁ、僕もデンジャラスはずっと避ける生き方をしてきた男なんだけど。ことここへきたら裏ダンジョンに挑戦してきた記憶が騒いでねえ」
「ゲームと現実をごっちゃにしたらダメですよ」
モモコさんが冷めた口調で言う。
ってことは……僕は図らずも、何回も繰り返されたテンプレを踏んでしまったということか!?
そう考えると恥ずかしい!?
僕なんかやっちゃいました!
「いいではないかジュニア。そなたの、偉業を打ち立ててもなお先を求める心、見事である。このアレキサンダー、そなたの純粋なる願いを聞き届けなくては、『聖なる白乙女の山』の主としての誇りが廃る!』
雄々しく語りながらアレキサンダーさんの姿が進化した。
人間の姿から、ドラゴン形態へ。
アレキサンダーさんのドラゴン姿は、他の竜たちと比べても一層違う……神々しい姿だった。
まず色が違う。
眩しい限りの純白だった。
銀色ではなく、それこそ新雪が……誰にも踏み荒らされていない雪原が朝日を照り返すような輝き。
そんな白を越えた白光をアレキサンダーさんはまとっていた。
そして他のドラゴンより一回りは大きな巨躯。
あれこそが、この世すべてのありとあらゆる存在が恐れ、避け、そして敬服する最強ドラゴン。
アレキサンダーさんの雄姿。
「何度見ても恐ろしい……」
「全身の震えが止まらない……!?」
S級冒険者の皆さんですら、生命的恐怖をあの姿に感じずにはいられない。
もちろん僕もだが。
「はっはっは! まったくニンゲンどもは腰抜けなのだ、まだ何もされてねーうちから最悪の想像でもしてビビってんのか!?」
などと嘲笑ってくるヴィールも、その体が激しく小刻みに震えていた。
木でも押し付けたら摩擦で発火するんじゃないかというぐらいに。
アレキサンダーさんの前では、すべてのあらゆる生物が……いや生物無生物に関わりなく“強さ”という概念の前にひれ伏す。
それは『強い』『弱い』という比較じゃない。
アレキサンダーさんの強さは、彼以外の誰も伴うことがない彼だけの、唯一無二の真理だった。
――『アレキサンダーに追随するモノなし』。
――『アレキサンダーを越えることは不可能』。
そう語る真理が、直接頭の中に叩き込まれるかのようだ。
あるいは、僕らの中にある本能自身がそう叫んでいるのか。
『さあ、ジュニアよ、飽くなき者よ。そなたの探求心に応える時が来た』
誰よりも何よりも偉大な竜が宣言する。
『敬意をもってそなたと戦おう。グラウグリンツドラゴンのアレキサンダー。これより一介の戦士となる』






