1545 ジュニアの冒険:気まぐれケルビム
僕の進軍に、新たなる仲間が加わった!
A級冒険者のシャルドットさんと……。
C級冒険者のヒビナさんだ!
この最終ステージ手前という絶妙のタイミングで。
釈然としない腑に落ちなさが大きすぎる。
「おい! ここが『聖なる白乙女の山』の絶対的境界線……通称『八合目の篩』だ。周辺八エリアをクリアした証明、バッジ八つを揃えていないと不思議な力で押し返されるんだ!」
「でもスイスイ前へ進めているわ! ジュニアくんが持っているバッジのおかげね!」
そうだよ、“僕が”獲得した八つのバッジのお陰で“キミらが”チェックポイント通過してるんだねえ。
何だろうねえ、この納得のいかなさは?
「そう細かいことを気にするなって! オレたちが切り拓いたものは皆の成果だろう!」
「ジュニア、友だちは選ぶのだ……!」
ヴィールから物凄い真剣に言われる!?
僕、そんなに友だち作るの下手かな!?
これでも人の縁には恵まれている方だと思うんだが!?
「なぁに、冒険者なんて大体そんなものよ。生き馬の目を抜くぐらいでないと実力資本の冒険者は務まらねえ」
「何の自慢にもならねえのだー」
ヴィールの冒険者感が底につく前に、さっさとクリアしてしまおうこの『聖なる白乙女の山』を。
「そう簡単にいくッスかねぇー?」
ッ!?
なんだ今の声は!?
この期に及んで新キャラか!?
「まさか今の声は……!?」
「気を付けろジュニア! この声こそ山に潜む悪魔の声。あと一息というところを狙って蹴落としてくる闇からの刺客だ!」
ヒビナさんシャルドットさんが武器をかまえ、警戒態勢をとる。
この反応の迅速さを見れば、実力派の冒険者なんだなあと思うのに残念さが付きまとうのは何故だろう。
「失礼なヤツらっすねぇ。あーしは悪魔じゃねえよ、むしろ逆だよ」
この声、天空から聞こえてくる。
「天使だよぉー」
頭上から光と共に舞い降りてくる神聖なるもの。
雲間から差し込んでくる一条の光を、降臨の筋道として滑り降りてくる。
その姿は眩いほどに神聖な……明らかに地上のものとは思えない存在だった。
「あーしの名はソンゴクフォン! 地上に舞い降りし光の天使ッス!」
てててててて、天使ぃ!?
そんなバカな、僕は知っているぞ!
天使と呼ばれる存在は世界でたった一人……ホルコスフォンおねえさんしかいないはずだ!
農場を守る天使であり、数千年の眠りから目覚めたレタスレートおねえさんの相棒!
彼女の他に天使がいるなんて何かの間違いとしか思えない!
「うっせぇッスな、あんな納豆キチと一緒にしてほしくねぇッス」
ホルコスフォンおねえさんのことを知っているのか?
彼女当人のことをよく知らねば納豆キチという単語は出てこないはずだ。
「……あー、ジュニア、ジュニアよ……」
ど、どうしたんだヴィール?
そんな老け込んだ顔つきをして?
「アイツも天使で間違いないのだ。アレはご主人様が復活させた、ニコイチ天使なのだ」
ニコイチ?
「天使ってのは本来、数千年前に神々と竜が協力して何とか全滅させた激ヤバ世界の脅威だ。おれやウチの死体モドキですら生まれる前のことで、野放しにして置いたらマジで世界滅ぶ……ってなってその時ばかりは天地海の神々や竜までも手を組まざるを得なかったっていう真なる世界の危機ってヤツだ」
「そうッスよー、あーしらはマジヤバブンブン丸なんスよぉー」
その間延びした口調からは想像もできないんだけれど。
「結果、ほとんどの天使は爆発四散されて世界の脅威は去った。……天使に再生能力がなかったのが救いだったな。死体モドキみてーにチリ一つ残さず消滅しても復活するような連中だったら本当にヤバかったのだ」
「天使はそんなプラナリアみてーな存在じゃねえッスよぉー」
それ連鎖的にノーライフキングがプラナリアみたいってことにならない?
「そんな復活するはずのない天使を復活させたのがご主人様だ。意図的に隠し眠らせていたホルコスフォンのヤツは別として。破壊停止させられた別の天使の、使えそうなパーツだけを選別して組み直したのが、ここのアレだ」
「そうッスよー、奇跡の復活を遂げし女、それがあーし!」
いや……普通生物はバラバラになったら復活しないし、組み直して別の生き物にもなれない。
あるいみプラナリアより特異な生命体だ。
「復活したあとは色々なんやかんやあって、アレキサンダーさんのとこで世話になっているッス! 住み込みの恩に報いるために今日もダンジョンで外敵を蹴散らすッスよぉー!」
「こうして出来上がったのが『聖なる白乙女の山』最恐最悪のランダムエンカウント裏ボス。殲滅天使ソンゴクフォンだ」
ヴィールの、すすけたような瞳の輝き。
「コイツ、大抵自身の気まぐれで出勤したりしなかったりして出現タイミングも読めない上に、出没場所も決まってないからどこで出遭うかわからず攻略冒険者たちの恐怖の対象になってんだぞ。これでも天使だから戦闘能力は折り紙付きだし、地上の生物がまともに戦って勝てる相手じゃねー」
そこはホルコスフォンおねえさんと変わらずってことか。
つまり遭遇=死みたいな生き物。
そんな『歩くゲームオーバー』存在とダンジョン全域で出遭う可能性が何パーセントかはあって、しかも対策不可。
そんなトラップがあるなんて……クソダンジョンじゃないですか。
「そうだなー、コイツのお陰で六つ星とかいうダンジョンへの評価等級が下げられる話も出てたんだから迷惑な話だよな」
「えー? なんでッスかー? スリリングで難しい、あーしのお陰でダンジョンの価値が上がったと言っても過言じゃねえッスよ?」
「難しけりゃ何でもいいってわけじゃねえぞ、理不尽な難易度に喜ぶのは一部のヘンタイだけなのだー」
というか理不尽難易度というのは既に人生がそうなんだからゲームでまでしんどいの味わいたくない。
「そうだそうだッ! 気まぐれで冒険者たちの必死の頑張りを無にする天使! いやその所業は、もはや悪魔!」
「アンタなんかにジュニアくんの偉業を邪魔させはしないわ! ここで襲撃してくるって言うんなら私たちが相手よ!」
シャルドットさんとヒビナさん!?
二人が庇うようにして、僕とソンゴクフォンさんの間に割って入る!?
ただ僕に便乗しようとしているわけじゃなかったんだね! キラキラ!
「あたぼうよ! さあオレたちが天使を抑えているうちに先へ行くんだジュニア!」
「そしてあとから私たちのことも引き上げてね!」
うーん、どうも欲望もチラチラも垣間見えるのは気のせいだろうか。
とにかく二人の献身に応えるために、僕は脇目もふらず先を急ぐ!
ただ一点のゴールへ向かって!
「……まあ、そんなソンゴクフォンだけどな、当然理不尽な即死仕様は制作側から咎められることになり、アレキサンダー兄上から直々に叱られて改めることになった。現在はそこまで理不尽な仕様にはなってないはずだ」
「そうっすねー、今じゃエネミーとしてよりも救助目的で出動することが多いッス。やっぱどこでも事故はつき物ッスからねー」
「兄上の方針で、ここのダンジョンじゃ人死に厳禁だからな。そういう意味ではフリーでドどこでも動かせるソンゴクフォンは重宝されるのだ」
……ほう?
では、その要救助者がいないこの場にソンゴクフォンさんが現れた理由は?
「実はあーしには、もう一つ重要な任務がありましてー」
「「に、任務?」」
「そうそう、周辺エリア八つの試練をクリアしてないのに、クリアしたヤツに便乗して頂上にたどり着こうっていう、ふてぇ野郎が最近増えてるッスよねえー。悪知恵働くヤツってのはどこにでもいるもんだぁー」
「「(ギクギクッ)!?」」
「そうしたズル抜けヤローどもをシャットアウトし、ちゃんとした資格ある人だけど通すこと。それがあーしに課せられた新たな使命。いわばあーしは、天上へと続くこの道に立ち塞がり、資格なき者どもを阻む門番。ヘブンズゲートキーパー、ソンゴクフォンちゃんッス!!」
つまり……。
八つの周辺エリア、そのすべてを回ってクリアの証を手に入れ、いまや最終ステージを目前とした僕へくっついて便乗到達しようとする。
そんなヒビナさんシャルドットさんへ天からの鉄槌がくだされようとしている。
それがソンゴクフォンさんということか。
「あーしはズルッ子へ天罰を下すってー職務があるんで。正規の資格を持ったジュニアちゃんはそのままお進みください。ここはあーしに任せて」
「「ここはオレたちに任せて、先に行ってください!」」
双方同じことを言っている。
じゃあ、僕は元々そのつもりだったので遠慮なく先へと行かせていただきます。
「ソンゴクフォンのヤツも、最初は特に意味もなく甦られてどうなるものかと思っていたがアレキサンダー兄上がよく指導してくれたな。このことホルコスフォンにも話してやれば少しは心配も晴れるだろう」
心配しているのかホルコスフォンおねえさん。
そして天使たちへのヴィールの気遣いも意外なもの。やはり農場の仲間意識は深まっているんだな。
「さあ、残り二人はあーしがエネミってやるッスよ。万が一でもあーしに勝てたらそのまま頂上へ進んでもいいッス。でもあーしは八傑衆の旦那方みたいにいい感じで手加減してやるなんて、器用ごとはできないっすけどー」
「うしゃあああああッッ!! やったらぁあああ!!」
「冒険者魂を見せつけてやるぅうううううッッ!!」
破れかぶれ気味に特攻していくシャルドットさんヒビナさん。
案の定マナカノンの放つ閃光の中に吹き飛んでいく二人の姿が、我が背後に見えた。
「まあ、目に見えた結果ではあるな。アイツらも自分の力でコツコツ積み上げていけばいつかは成功するだろうに」
それもそうだけどもチャンスを見つけたら飛びつくのに躊躇わない。
その俊敏さも冒険者には必要だと思うよ。
ああやってソンゴクフォンさんに吹き飛ばされるのもいい経験になるのではないか。
僕も僕で、自分の切り拓いた道を突き進もう。
ついに到達する、このいと高き山の頂にある、最終ステージへ……!






