1544 ジュニアの冒険:頼もしき増援(?)
「いいでしょう、アナタの力を認めましょう」
激戦の末、ミキさんから言われた。
「いいえ、アナタの愛を認めましょう。わたくしのアレキサンダー様へと捧げる愛に勝るとも劣らぬ。この世のすべてのモノたちに注がれる無尽蔵の愛。その存在をわたくしは確信いたしました」
アッ、ハイ……。
そうすか……。
激戦に疲れ果てて言葉もまともに出てこない。
「ここ霊山エリア突破の証、魂魄バッジを与えましょう。これにてアナタは岩山、熱帯山、火山、雪山、毒山、雷山、鉱山、霊山、『聖なる白乙女の山』に連なる周辺エリアを全制覇したことになります。頑張りましたね」
「おめでとう」
「おめでとうなのだー」
パチパチパチパチパチパチパチパチ……。
居合わせたドラゴンさんたちから賞賛の拍手を送られる。
なんだかなあ。
「そしてそれは、本山に鎮座ましましましましておられる真なるダンジョンの王。超竜と呼び讃えられし白山の主アレキサンダー様へと至る道が開けたことになります」
「フン、たかが息子相手に大仰に誉めそやしやがってよー」
「父上、静かにするのだ」
周りからのヤジが小煩い。
「アレキサンダー様の課す試練に比べれば、我ら八傑衆など児戯にも等しき。アレキサンダー様を前にした時、ヒトは真なる己の値打ちを問い直されることになりましょう。アナタが何かしらを得て帰還することを、陰ながらお祈り申し上げます」
は、ハイ……!
ご丁寧にどうも……!?
言うまでもないことだが、ミキさんはまだまだ激戦盛り上がりそうなところをあえて切り上げた。
きっとあれ以上戦えば双方……少なくとも僕の方が無事では済まないという判断だろう。
ドラゴンにしてノーライフキング。
世界でもっとも恐れられる二者を兼ね備えるという前代未聞の存在であるミキさん。
彼女の実力は、こんなものでは収まるはずもなく、もし本気の本気でぶつかり合ったら結果はどうなっていたか本当にわからない。
だからこそ取り返しのつかなくなる段階へ至る前に、適切に止められる。
ミキさんは恐怖の存在であると同時に、しっかりとした理性と良識を兼ね備えた頼れる存在でもあった。
「わたくしなど……ドラゴンとしてはアレキサンダー様の足元のつま先にも及ばない上に、不死者としても三賢の高名な方々には敵いません」
「ゲッ、マジかよ……!?」
「この世界は広いのですよ。ジュニアさんも『聖なる白乙女の山』の頂上へと登って、そのことを実感することになるでしょう。……ヴィールさん?」
「ハイなのだッ!?」
「我が孫娘、ジュニアさんをしっかり頂上まで案内してやってあげなさいね。アナタの愛もまた世界を彩る一端を担いましょう」
いやぁ……ここにきたらドラゴンってとっても良識のある生き物なんじゃね、と思えてしまう。
「あと、我が不肖の息子よ」
「なんだおれにも有難いお言葉があるのか?」
「死ね」
「ただの罵倒じゃん!?」
こうしてついに僕は、『聖なる白乙女の山』周辺エリアの試練をすべて乗り越えたのだった。
* * *
進む、進む進むよ僕。
ここら一帯で一番高い、あの山の頂へ向かって。
「目指すは頂上、次元の先へなのだー」
ヴィールも一緒だ。
アレキサンダーさんの待つ『聖なる白乙女の山』本山頂上はもう目前。
「でもいいのかジュニア? このまま直行で? 一旦下山して息を整えるのもありなのだ?」
ヴィールの懸念ももっともだが、試練クリアで上がったテンション。
この心理ブーストを維持したまま最後まで突き進みたいという気持ちもある。
ここで下山したら高揚感も収まって、再び発起するのがまたそれは大変そう。
だから今、気分がアガッているうちにすべてを片付けるんだッ。
「夏休みの宿題は、七月中に全部やるタイプだなジュニアはー」
ヴィールの言うことの意味がよくわからなかった。
さて、どちらにしろ最終ステージはもう目の前だ。
僕らのここまでの苦労が実を結ぶ瞬間……。
「「ちょっと待ったーッ!!」」
何ッ!?
この期に及んで何!?
こんなダンジョンの山道に今さら出会いの機会なんてありんす!?
急な呼び声に、周囲を見渡すと……いた。
ここに来て見覚えのある顔触れがいたッ!?
「C級冒険者ヒビナと!」
「A級冒険者シャルドットの!」
「「ジュニアくんのマヴダチコンビでっす!!」」
知り合いだった。
王都で顔見知りになった冒険者の二人、ここ『聖なる白乙女の山』の麓でも会った。
一体何故、二人がこちらに……!?
「ジュニア……友だちは選んだ方がいいのだ……」
ヴィールから凄く真剣に言われた!?
でも待ってください、彼らアレでもいい人たちなんです一応本当に。
「やあやあジュニアくん? ソロ探索なんて水臭いじゃあないか、じゃあないか?」
「そうよそうよ? 冒険者はパーティで活動するのが基本なのよ?」
そう言いながら肩を組んだり腕を組んだりしてくる友人冒険者たち。
なんだろう、この馴れ馴れしさは。
「『聖なる白乙女の山』といえばもはや世界中の冒険者の憧れの的。誰もが制覇を夢見る特級ダンジョンだ。実際に人生一度でもこのダンジョンに挑戦しようと、麓は冒険者たちで溢れかえっている」
「そうよそうよ? 頂上まで行きたいって願っているのよ? だからこそ同志による協力が必要だと思わない?」
まあ……そうですね?
人は助け合ってなんぼの生き物ですからね?
「話が分かるじゃねえかジュニア! お前だって、ここまで来るのに一人で大変だっただろう!? 助けが欲しいと思っただろう! 安心しろ、ここからはオレたちがお前の助けになってやるからよ!!」
「パーティプレイこそ冒険者の醍醐味! 今ここに、ジュニアくんと頂上に登り隊の結成よ!!」
なんかよくわからんうちにパーティが結成された。
いいのだろうか?
まさに大詰めの目前の段階なんだが?
「フッフッフッフ……、これで労せずして最強ダンジョンの最終ステージに……!」
「頂上までたどり着けば無条件でS級に任命されるのよね。まさにジュニア様々だわ……!」
なんか不穏な独り言が聞こえてくる。
「あぁーッ! 気を付けろジュニア! コイツら、お前の苦労に便乗して美味しいとこだけもってく気満々なのだ! トラブルバスターの対象だ!!」
警戒し、声を張り上げるヴィール。
……まあ、たしかにそう言うことだろうな。このタイミングで現れたらそうとしか受け取れようがない。
「心外だな。オレたちはあくまでジュニアの援けになればと思って駆け付けたんだぜ?」
「そうよ、決して周辺エリアの試練全部をクリアしたジュニアくんに便乗すれば、自分は試練突破する苦労を省けるなんて思っていないわよ!」
それがもう既に自供なんだよなあ。
「くッ、C級のヒビナは欲望を制御できずに本音が……! しかし勘違いしないでくれジュニア! お前の手助けになれればという気持ちはウソじゃない!」
「そうよ! 私たち王都から皆で頑張ってきたじゃない!」
王都から、って。
僕ら顔合わせていたのは、王都とここ『聖なる白乙女の山』だけですよね。
その間全部すっ飛ばしてきたのに、まるで全編いました風な言い方をされても。
「安心しろジュニア! 離れていても心は一つだ!」
「そんな取ってつけたような感動ムードでされてもなー」
ヴィールもたじろぐベテラン冒険者の手口。
「それに……ジュニアお前もう頂上に到達した気分でいるんじゃないだろうな? もしそうだとしたら油断大敵アメフラシだぜ?」
どういうことです?
「いるんだよ……周辺エリアの試練を越えて、クリア同然になった気分のところを襲い掛かってくる最後の妨害がな」
「勝った気でいるところを仕掛けてくるんだからホント性格悪いわよね」
なんと?
『聖なる白乙女の山』では八傑衆の試練以外にもまだ要注意の敵キャラがいるというお話ですか?
どんだけ層が厚いんだ、この最強ダンジョンは!?
「そこでオレたちの出番というわけだッ! 安心しろジュニア、ここからはオレたちがお前を守ってやるぜ!」
「必ずやアナタを頂上まで送り届けて見せるわ! だからそのためにも一緒に頂上まで行く必要があるわね!」
ヒビナさん、シャルドットさん……!
なんて仲間想いな人たちなんだ……!
……と素直に感動できていたあの日々が懐かしい。
僕も旅する過程ですっかりスレてしまったのだろうか。
……。
そう言えばこの面子でもう一人、必ずいる人であったサリメルさんの姿が見えないが……。
「アイツは、麓のギルド支部にいるよ。アイツはギルド職員だからな」
「ギルド職員は現場には来ないよー。やだなー、そんなこともわからないのジュニアくん?」
くッ、彼らに常識を問われるとは。
釈然としなさを抱えながら、僕らは先へと進む。






