1541 ジュニアの冒険:タイプ:ゴースト・ドラゴン
あの……ちょっと情報量が多いんですけれど?
目の前のあのメイドさん?
八傑衆の一人で? この霊山エリアの番人で?
しかもアル・ゴールさんの前のガイザードラゴン?
つまり先々代のガイザードラゴン?
「雌個体だからガイヅェリンドラゴンになるがな」
「はぁーッ!? 父上より前の世代のドラゴンが生き残っていただと!? そんなん聞いてねえのだぁーッ!?」
ヴィールも驚愕。
というか要素てんこ盛り過ぎて、却ってわけがわからないんですが。
『とりあえず流行りもの全部詰め込んどけ』って感じの企画みたいだ。
こちらの困惑も意に介さず、ニコニコ笑顔のメイドさん。
「アレキサンダー様から承っております。ジュニア様でございますね。この八傑衆最後の一人、枯竜ことミキが、精一杯のおもてなしをさせていただきます」
と一部の隙もない丁寧なお辞儀をしてみせるメイドさん。
……うむ、満点だ。
どこに出しても恥ずかしくない立派なメイドさんだ。
見た目の歳も若く、どう見ても二十代半ば、ヘタすりゃ十代後半にも見えるピチピチメイド。
こんな完全無欠のパーフェクトメイドが、今度の相手だと!?
まったく予想できなかった!?
「それはそれとして……そちらに見えるは不肖のバカ息子ですね? 今さら一体何しにしゃしゃり出たのかしら?」
「ぐッ、口ぶりの隅々まで辛辣……! 相変わらずのキレ味ですな母上」
アル・ゴールさんがタジタジになって言う。
「別に用はないが挨拶ですよ挨拶。『聖なる白乙女の山』に来て顔も見せずに帰ったら、あとからグチグチ言ってくるでしょう?」
「あらあら、その歳にしてやっと礼儀の端切れ辺りを覚え始めましたか。まったく成長の遅い倅ですこと」
「非難がましい!」
「挨拶なんて礼儀の基本ですわよ。それすら現役を退いてやっとできるようになるなんて。アナタごとき出来の悪いドラゴンからアレキサンダー様のような傑物が生まれるなんて、今もって信じられないわ」
何やらアル・ゴールさんへの当たりが相当強い。
このメイドさん。
たしかに佇まいから異様な威圧感というか、ただ者でないオーラを感じる。
メイドでありながら王者の風格というのもなんじゃこら? だが。
「あの……えーと、なんだ……?」
ヴィールがまごまご戸惑いながら口を挟む。
「お前が……本当に父上の前のガイザードラゴンなのか? ということは。おれからすれば……ババア?」
「はい?」
「ヒィウッ!?」
ヴィールがおののいた。
本物だ。
このメイドさん真に強者の覇気を備えている!?
「まったくドラゴンというものは、どうしてこう礼儀を弁えないものかしら? 本当に種族からしての粗暴さを拭いきれないわね」
「何を言う、傍若無人がドラゴンのモットーなのだ!」
「そんなことだから誰もアレキサンダー様に勝てないのでしょう。ドラゴンでありながら穏やかで心優しく、万物に届く愛を持つアレキサンダー様だからこそ、誰より何より圧倒的に強い……」
そしてアレキサンダーさんへの信奉も本物。
これはあの人に従う八傑衆の顕著な特徴だ。
それでいてアル・ゴールさんやヴィールへ向ける攻撃的な視線はまさしくドラゴンならではのもの。
言い換えるなら『養豚場のブタを見るような目』だ。
「し、しかしながらおかしいぞ! いやおかしいって!」
「何がかしら?」
「だって父上より前の世代なら死に絶えてなきゃおかしいだろうが! ドラゴンの世代交代は過酷なんだぞ! 次世代が出てきたからには、前世代の絶滅が大前提になるんだ!」
たしかにそうだ。
今ではそうではないが、改革前の……アル・ゴールさん世代のドラゴン世代交代形式を、ついさっきおさらいしたばかり。
ガイザードラゴンは、自分の親である先代ガイザードラゴンから龍玉をえぐり出すことで王者の資格を得る。
それと同時に龍玉を失うことは死を意味するんだから、先代の死滅なくして当代の勃興はあり得ない。
よって、過去世代のドラゴンと次世代のドラゴンが出会うこと自体、論理的にありえないことになるのだが……!?
「よくわかっていますね。その通り、過去のドラゴンが今の世代に生きて会うなど、到底ありえないこと」
ですが、その、実際に……!?
「でもわたくし、もう生きておりませんから」
はへ?
「もう一つの事実をご存じなくて? アレキサンダー様に忠実なる下僕、八傑衆。それはアレキサンダー様と永遠を共にするために、みずからの生命を脱ぎ去り、自然の摂理から逸脱した存在となった。すなわちそれこそ……」
……ノーライフキング!?
「そうです、八傑衆に連なるわたくしもまた自然の生を捨て去り、異質の存在となりました。つまり今のわたくしは……ドラゴンにしてノーライフキング」
ドラゴン!
兼!?
ノーライフキングッッ!?
世界二大災厄と呼ばれるドラゴンとノーライフキングの、両方を兼ね備えた存在!?
そんなのアリなの!? そんな欲張りセットみたいなの!?
「それが、母上が今もって存在できている理由のすべてだよ」
アル・ゴールさんが呆れ顔で言った。
「遥か昔、おれはこの母上の胸をえぐって龍玉を奪い去った。その時点で生命源を失って母上は生きてはいられぬはずだった」
「本当に生みの親になんて酷いことができるのかしら? やっぱりドラゴンってサイテーだわ」
「仕方ねえだろ、そのやり方で何千年もやってきたんだから!」
今は変わりましたけれどね。
「しかしそこで潔くくたばらないのが、このババアのしぶとさだ。母上は、かねてより確保していた隠れ家代わりのダンジョンへ落ち延びた。密かにな。お陰でおれは母上を殺したものとすっかり安心しきってしまった」
「そういう迂闊なところがアナタの破滅の元なのよ」
「なんだとぅ?」
やっぱ仲悪いこの母子。
「アナタだって覇権を次世代に渡さないよう小細工全般弄しまくりだったのに、親のわたくしがまったくの無策だと思い込むこと自体迂闊だと思わないのかしら。まあ、ヒトをよく騙す悪人ほど『自分は騙されない』と根拠なく思いこむそうですからね」
「ぐっぬうぅうううう……!」
「わたくしだって、むざむざ滅びを待つだけなんてしないわ。当時まだグリンツドラゴンだったアナタからの挑戦は真っ向から堂々受けたけれど。万一敗れた際の保険は用意させてもらっていたわ」
その保険とは?
「わたくしは龍帝城の他に、みずからの安全地帯となる隠れ家ダンジョンを用意していた。アル・ゴールに敗れたのち、自分が死んだと思われるための偽装を慎重に行ってからダンジョンへとたどり着いた」
そこで。
「ノーライフキングとなる禁術を行ったのよ。龍玉を失ったら死ぬしかないとわかっていましたから。龍玉なくとも生き残るにはどうすればいいか? 死んでも生きている状態になればいいと気づいたのよ」
逆転の発想すぎる。
いや、これは発想の逆転なのか?
むしろ無理やりすぎる発想では?
僕にはもうよくわからなくなった。
「そうして母上がノーライフキング化したダンジョンこそ……そう、ここだ」
「は?」
「『聖なる白乙女の山』。ここは元々母上が主をやっていたダンジョンなんだ」
衝撃の事実?
ではダンジョンの名前にある“聖なる白乙女”というのは……!?
「母上のことらしい。イタいよなあ、自分のことを『聖なる』どころか『乙女』とまで……!」
「わたくしが自分で名乗ったわけじゃないわ。周囲に住むニンゲンたちが敬意と恐れをもってつけた名前に過ぎないわ!」
どこか弁明めいていた。
このダンジョンの元来の主はミキさん。しかしそれがいつからか、ダンジョンの主はアレキサンダーさんへと代わった。
長い時間の流れる間に一体何があったのか。
「わたくしは不死の怪物となりながら、雌伏の時を過ごしました。わたくしから皇座を奪った息子への逆襲を目指して」
「こっわ、生存競争に敗れたんなら素直に滅んどけよ」
「アナタだけには言われたくないわね、とっちゃん坊や」
改めて思うけど、過去世代のドラゴンって生への執着が恐ろしい。
「ダンジョンからマナを吸い上げて、ノーライフキングとしての力を養い続ければ、いつかガイザードラゴンを上回る強さとなり、かつて自分を倒した息子から龍玉を取り戻して、完全なるガイザードラゴンとノーライフキングの両方を併せ持った最強存在として、永遠に君臨できると思っていたのです」
恐ろしい構想だった。
もしそれが叶えば、永遠に滅することのない最強存在が、世界に君臨し続けることになる。
しかもドラゴンの暴虐を体現したような最強者が。
それって全世界にとっての醒めることのない悪夢だったのでは。
「しかし、ある時悟ったのです。そんな暴力に満ちた目標がいかに浅はかだったか。このダンジョンに真の主が訪れた、あの時に……!」
おや?
ミキさんの口調が興奮気味になってきた?






