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1542 ジュニアの冒険:アレキさん家のメイドラゴンゾンビ

「そう、アレキサンダー様です! 世の中に力だけがすべてじゃないとわからせてくれた我が希望! あの方と出会って、腐敗の色と臭いしかなかった我が世界は色鮮やかさを得たのです!」


 夢見るように熱く語る先々代のガイザードラゴンことミキさん。


 その熱量に……ちょっと引く。


「出会ったばかりのあの御方は今よりちょっぴり幼くて、頼りなくて……でもそのお陰で庇護欲を大変刺激するお姿だったわ! もちろん今の大変威厳あるお姿も素敵なのだけれど……!!」

「アレキサンダーのことになると早口になるなアンタ」

「あの頃アレキサンダー様は、無体な父親からドメスティック・ヴァイオレンスされて、龍帝城から落ち延びてきたというじゃない。我が子を虐待するなんてなんてクズな父親なのかしら、サイテーね。生きる価値もなくてよ! 本当に奴が皇帝竜となったことがすべての間違いだったのよ!」

「おれへの罵詈雑言となると早口になるなアンタ」


 引きつって冷や汗流すアル・ゴールさんだった。


「アレキサンダー様が、わたくしのいるダンジョンを訪れたのは偶然でしょうけれど、この偶然ほど貴重で神聖なるものはありませんでしたわ。もしもあの時あの場所でアレキサンダー様に出会えなかったと想像するだけで背筋がゾッとします」

「おれとしては不幸の一丁目一番地だったがな」


 そりゃアル・ゴールさんからすればそうだろう。

 過去と未来、二つの方向からくる宿敵が合わさったのだから。


「あの頃のアレキサンダーはまだまだ一般的なグリンツドラゴンだったからな。戦えばフツーにおれの方が勝ったし、取るに足らない愚かな息子でしかなかった」

「まあ酷い言い草。これが親の言うことかしら。そんなんだから最後に子どもに倒されるのよ」

「アンタも同じだろうが!……クソ、あんなに強くなると知っていたら芽のうちに摘んでおいたのに……!」


 悔しそうに言うアル・ゴールさん。

 でもアナタを倒したのは別の人(竜)でしたけれどね。


「どっちにしろ破滅は免れねーのだ」

「大体母上だって、最初はアレキサンダーのことを利用するつもりだったんだろ? スパイに仕立てておれの情報を抜いてくるとか。もしくはおれとアレキサンダーをぶつけ合わせて互いに疲弊したところをギョフろうとか……!」


 と意地悪な質問をしてくるアル・ゴールさんに対して、ミキさんは……。


「そんなことはないわよ。わたくしはいつだってアレキサンダー様のため、無償の奉公を捧げてきました」

「ウソだあ!!」


 ここまで堂々とウソつけるのも凄い。


「わたくしは、悪い父親にいじめられているアレキサンダー様のために、反撃の力を授けたかっただけ。わたくしの持っている知識と力を少々分け与えた結果……」


 結果?


「あんなちょっと本気出すだけで宇宙をいくつか消し飛ばして、新たに宇宙を何十か生み出すほどの力を得るとは思わなかったけれど……」


 明らかに度を越してますよね。

 度を越しすぎているのかもしれません。

 どうやったら、そこまでデタラメすぎる強度に行き着いてしまうのか。


「それこそアレキサンダー様が何より特別だという証。宇宙最強となるために生まれてきた御方なのよ、あの方は!」

「盲目的な信仰が止まらねぇー」


 とはいえ、アレキサンダーさんが最強竜となった発端には、この不死となったドラゴンの影響が少なからずあることは間違いない。


「しかしそんならアレキサンダーがおれの力を越えた時点で逆襲してもいいだろうに。なんで手をこまねいてたんだ?」

「そんなのアレキサンダー様ご本人が望まなかったからに決まっているじゃない」


 さも当然のごとく言う。


「宇宙最強……いえ次元最強となったアレキサンダー様から見れば、ガイザードラゴンなど矮小に過ぎる存在。アナタなんて歯牙にもかけないどころか、毛先にかける価値もないのよ。そんなザコをわざわざ潰しに出かけるよりも、あの御方は心から愛するニンゲンを見守ることに時間をつかおうとなさっているの」

「ぐのののののの……! わかってはいたけど聞きたくない事実をサラッと告げやがって……!」


 まだ皇帝竜としての誇りは残っていたのか、『まったく相手にされなかった』という事実に悔しさをにじませるアル・ゴールさん。


「それにアナタは自分の力として取り込むためか、我が子のドラゴンから知性を奪ってレッサードラゴンに堕としていたでしょう?」

「あー、そういや、んなことしていたなー」


 えッ? それってかなり悪いことなんじゃ?


「しかしそうやってレッサードラゴンにされるのは、ニンゲンに迷惑をかけている、いわゆる悪竜でしたので、世の迷惑の種を勝手に処理してくれるなら生かしておく価値もあろうと野放しにされたのですよ。でも結局レッサードラゴンが人々に迷惑をかける場合はアレキサンダー様みずから潰しに出られておりましたけれど」

「ぐむ……!」

「大体、現存するドラゴンすべての力を奪いつくして一つにまとめたところで、アレキサンダー様の小指の爪先にも満たないんだから無駄な努力すぎるわ。暴虐を行うにしてももっと考えなさいな」

「ぐむぅ~~~~~~ッッ!?」


 真っ赤な顔で怒りを抑えるアル・ゴールさん。

 敵視する相手を打ち破るどころか警戒の対象にすらなれず、その上別の相手の怒りを買って討伐されるという、改めて見直すととんでもなくカッコ悪い末路だった。


「そんなわけでわたくしも、アレキサンダー様の清い心に浄化され、息子への逆襲の望みなどあっという間に消え去ってしまいましたわ。今のわたくしにあるものはアレキサンダー様へお仕えしたいという忠誠心、ただそれのみ。きっとわたくしがドラゴンの禁忌を破ってアンデッド化したのも、世代を超えてアレキサンダー様と出会うため、きっとただそれだけのためなのですわ!!」


 またアレキサンダーさんに関することで早口になっていらっしゃる。


『聖なる白乙女の山』を巡る八つの試練、最後の最後でとんでもないのが出てきやがった。

 これまでことごとくS級冒険者さんたちが代打してきたけれど、さすがにこの特級呪物の代わりが務まる者はS級冒険者にもいなかったか。


「あー、もしかして、それで?」


 ヴィールが恐る恐る尋ねる。


「メイドの格好して何事かと思ったが、アレキサンダー兄上に仕えるという意思を表すためにメイドしてるのか?」

「よく気づきましたね。その通りよ、メイドとは主人に仕える乙女の究極形態。それにわたくしも倣わせていただきました。アレキサンダー様が仰る通り、ニンゲンから学べることはとても多いですね」

「“究極形態”は言い過ぎでは……!?」


 ヴィールですらドン引きする先々代女帝竜の強火っぷり。


「こんなヤベー竜がいたなんて今の今まで知らなかったのだ。アレキサンダー兄上のところには何度も遊びに来ていたはずなのに、何故?」

「そりゃあ、メイドというものは裏方に回って働くもの。自分の貢献をご主人様や、まして外から来られたお客様に見せつけるなど三流以下の行いですわ」

「だから隠れてたって言うのか!?」


 静かな佇まいの内側に流れる、メイドとしての熱きプライド。

 ノーライフキングで、かつドラゴンたる彼女が誇るプライドがメイドのものでいいのかなと思うが。


「もちろんです、わたくしはドラゴンでもなく不死者でもなく、アレキサンダー様の従者でいることこそが最大の喜びなのですからッ!」

「くっそ、なんでアレキサンダーのヤツはここまで人望……いや竜望? があるんだ?」

「不肖の息子にはわからないでしょうねえ。人望という価値観からもっとも遠いところにいるアナタには」

「くっそねんごろぉ!」

「さて……」


 ミキさんはニッコリと笑顔を浮かべながら、こちらへ向き直った。


「そろそろお喋りもこれぐらいにして、本題へと入りましょうか。……ジュニアさんと仰いましたね。『聖なる白乙女の山』の試練、最後の八つ目へと上り詰めたここまでの手腕は見事。しかしこの八つ目の試練を乗り越えなければ、ここまで上手くやってくれたとしてもアレキサンダー様には届きません」


 急に空気が引き締まってきた。

 和やかな歓談からバトルの緊迫感に。


「我が主アレキサンダー様は、懸命にひたむきに頑張るニンゲンの姿を好みます。だからこそ甘い審査ですり抜けさせたりはしませんよ」


 ミキさんの姿が、変わっていく。


 これは……ドラゴン形態への変身!?


 しかし顕現した姿は、他のドラゴンたちのものよりもさらに輪をかけて異様だった。


 骨だけだったのだから。


 骨だけのドラゴン。

 あらかじめ話だけは聞いていたものの、実際に目にしたら衝撃は大きい。


 ミキさんは、龍玉を失ったあとも存続するために禁術を用いて意志あるアンデッド……ノーライフキングになった。

 しかし人間形態ではただのメイドさんで、アンデッドぽさなど気配も感じさせなかったが。


 竜という正体を現した結果それは如実に浮き彫りとなった。


 骨だけのドラゴンなんて、そりゃ死んでるとしかいえない。


 ドラゴンのアンデッド。

 つまりはドラゴンゾンビ。


 ……いや、ミキさんはメイドの本分を胸に刻んだドラゴン。

 ゆえにただのドラゴンゾンビではなく……。


 ……メイドラゴンゾンビだッッ!!


「それ何か特別なのか!?」

「どっちにしろただのドラゴンゾンビでいいだろうがよ!?」


 外野二人が煩いが、とんでもない。

 ドラゴンゾンビか、メイドラゴンゾンビか。これは非常に重要な違いですよ。


 父さんがいつか言っていたことがある。


 ――『メイドには時代を切り拓く力がある』と。


 さっきミキさん自身が言ったように、決して日の当たることのない陰から主人を支え、必要不可欠なる者がメイド。


 そのメイドの力は竜と不死王に勝るとも劣らない、三つ目のミキさんを形作る重要ファクターなんだ。


 ドラゴン。

 ノーライフキング。

 メイド。


 この三位一体が重なり合うことで、山の試練最大最後の障害となりえるメイドラゴンゾンビ。


 それこそがミキさんなのだ!!


『そのこと一目で見抜くとは、まずは素晴らしいと讃えておきましょう。ですが言葉ではなく実力を駆使しなければわたくしの試練は突破できませんわよ。アレキサンダー様を喜ばせるためにも、全力でかかってらっしゃい!』


 威圧感たっぷりの白骨ドラゴン。

 今、壮絶なる戦いが始まる。

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― 新着の感想 ―
ドラゴン…… 骨…… つまり、ゴン骨…… あっ……!
ざっと調べたところ、ドラクエシリーズだけはドラゴンゾンビは白骨で、肉は全くついてないみたいだ
 メイドが最強な世界があったりするけどこの世界もメイドがやばい世界だったか。
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