1540 ジュニアの冒険:聖なる山の白乙女
大ゲンカ中の獣二体をシルバーウルフさんに任せ、僕らは先を急ぐ。
……しかし丸ごと任せてよかったのだろうか?
「いいんじゃねえか? それがアイツの領分みてえなものだろうし」
ヴィールも僕の隣を歩きながら言う。
そんな領分、シルバーウルフさんが可哀想だよ。
哀れだよ……。
でも実際、妻とライバルに振り回されていくのが彼の生まれついてのサガなんだろうな。
それがもっとも大きいな、この戦いで得た教訓に思えた。
……さて、次なる『聖なる白乙女の山』での試練は?
「おお、次が最後の試練だぞ! やっとここまで来たなジュニア!!」
おお、マジだ。
岩山、熱帯山、火山、雪山、毒山、雷山、鉱山……と巡ってきた、この試練。
世界最大ダンジョン『聖なる白乙女の山』の頂点を目指すために、周辺八エリアに陣取る番人たちと対決し、突破することを課せられたが。
そのうち七つを無事突破した……実感がなんとも……ない。
「しゃあねえな、何せほとんど想定されてた中ボスじゃなかったんだから」
こんなのアリかな?
それでも代わりに出てきた新旧S級冒険者。ラッシュは充分に歯応えがあって、僕途中で挫けそうになったんだけれども。
しかしこれから最後に訪れる大トリの試練……その名は……。
霊山。
ここでこそ僕たちは、本来の番人と対峙することができるのだろうか!?
だろうかな!?
「八つ目のエリア霊山は、周辺八エリアの中でも殊更特殊で、霊的磁場が乱れまくってこの世とあの世の境界が曖昧なんだという話だ」
何それ、こわ。
僕、こないだ実際にあの世へ行ってきたばかりなんですけれども。
それなのにまたミエナイ・ナニカを覗いちゃうんですか?
「やあやあやあ、精が出てるね若者よ」
ひぃッ!? 早速誰!?
怪談でビビりまくっている僕に不用意な接近をしてきたのは、なんとも胡散臭い表情をした子ども……?
子ども?
「なんだ父上じゃねーか。ボスの間でエラソーにしているのがデフォのくせに、今日に限って現場へ降りてきてどうしたんだ?」
「今日の事件は現場で起きそうな気がしてねー」
そうか、この子どもは。
先代ガイザードラゴンのアル・ゴールさん。
かつてすべての竜の頂点に立って、あらゆる理不尽も強制も自分以外の竜に押し付けて傍若無人の限りを尽くしてきた。
しかしそんな我が世の春も永遠に続くことなく、正義感に燃えた若き竜アードヘッグさんに敗れて頂点を追われ。
今ではほとんど力を失った老竜となっている……はず。
しかし、もっとも年長であるはずのアル・ゴールさんが、人間形態は幼い子どもって……。
「ん? どうした? ジジイが若作りして……って思っている?」
いいえ、別に?
「自覚してるんなら歳相応に振る舞うのだー」
物怖じしないヴィール!?
「はっはっは何を言う。あらゆる常識倫理に囚われず暴虐に振る舞うのがドラゴンというものだよ。歳相応なんてくだらない物差しでおれは測れない! むしろ威厳なんて保とうとしているアレキサンダーの方がケツが青いのさ!」
「いやでもアレキサンダー兄上の方が凄そうに見えるし、実際凄いし」
たしかに貫禄という点ではアレキサンダーさんの方が何倍も豊かだなあ。
……と言うのは口に出さずにおこう。
「それで父上は何しに降りてきたのだ? まさか次の試練の相手が父上とか言わねーよな?」
えッ、まさか?
「それだったらむしろラクショーで歓迎なのだ。なにしろ父上はアードヘッグどもにやられてほとんど力が残ってねえんだからな」
「やなこと思い出させるなよ……!」
「そんな煮詰め切ったトリガラみてーな父上じゃ、ジュニアの敵にもならねーのだ」
そんな大層なことを言わないでよ。
相手は仮にも先代の皇帝竜なんだから。
「もちろんおれは試練とやらには何も関わらない。一文の得にもならない疲れることなんてやりたくねえからな」
これはまた率直な。
「しかしこれから出てくる相手とは、いささかの関りがあってな。挨拶もせずにスルーしたら何かとあとが面倒くせえんだ。それでやむなく降りてきた」
「へー」
「気のねえ返事だなあ」
これから出てくる相手というのは……、まさか最後のエリア霊山の番人?
先代ガイザードラゴンが一目置く様子の相手、一体何者!?
「ここでおさらいだ! おい小僧!」
はい!
僕、小僧です!
「今ではドラゴンも、他の下等種族同様に有性生殖で繁殖するようになったが、それもつい最近の話だ。それ以前はどうやって代替わりが行われていたか、知っているか?」
えっと……クローニング?
自分とまったく同じ複製体を作り上げるんでしたっけ? 竜の国で聞いたような聞いていないような?
「そう、その上で何十体も作ったクローンに殺し合いをさせて最後に残った一体が次なる世代……新たなガイザードラゴンになる。旧世代のガイザードラゴンは、我が身に宿った皇帝竜の証……龍玉を引き抜いて、新世代へと引き渡すのだ」
その龍玉を渡した前世代のドラゴンはどうなるんです?
「死ぬ」
ええ……?
「龍玉は、ガイザードラゴンの力の源であると同時に生命の源にもなるからな。おれ自身、アードヘッグへの正式な継承が成されれば死ぬ運命にあったが、直前にドラゴンの在り方が変更されたことでなんとか生き永らえた」
それはまた数奇なことで。
しかし昔のドラゴンの代替わり方式の、なんと血生臭いことか。
その方式に従えば各世代に一体のドラゴンしか生き残ることができなかったのだから。
「それに比べれば現在の繁栄方式は腑抜けていると思えるがな。それも年寄りの愚痴だ。だがだからこそ気を抜くなよ小僧」
はい小僧です!
「これからお前が戦うのは、そんな過酷な時代を知る者だ。これまでの親善試合みたいな気分でかかると、喉笛食いちぎられるかもな?」
くっくっく……と意地悪そうな笑みを浮かべるアル・ゴールさん。
こういうところを見ると、やはりあのあどけない子どもの姿は擬態なのだなと実感できる。
「ガキの見た目で凄むんじゃねー。相変わらず父上はちぐはぐなのだ」
「ぎゃあああああ、父親の頭をグリグリするんじゃねえ!」
……えッ、っていうかどういうこと!?
過酷な時代を知る者!?
汁物!?
一体何者なんだ!?
* * *
そしてついにたどり着いた最後のエリア、霊山。
そこもまた独特の雰囲気を持った、異界と言っても差し支えない総毛立つ気配漂う空間だった。
「なんかここも独特だな? どこまで言っても砂利道ばっかりでよ。……あそこでクルクル回ってるのはなんだ?」
「風車だろ」
ヴィールやアル・ゴールさんも霊山の異様な気配に呑まれかけている。
耳には聞こえないけれど、なんだか常に背後から呼びかけられているような……。
それでいて絶対に振り返ってはいけないと、生存本能が叫び散らしているような……。
このザワザワとした落ち着かなさはなんだ!?
「ようこそ、わたくしの管轄するエリアへ」
ヒィッ!?
なんだ今の声は!?
肉声か!?
ちゃんとした肉声か!? ククットゥルー(?)の呼び声とかではなく!?
「ご安心ください、わたくしこそ偉大なるアレキサンダー様より、この霊山エリアを預かった八傑衆が一人。いわゆるエリアの番人です」
……あッ、メイドさんだ!
メイド!?
このエリアの番人、八傑衆がメイド!?
「気を付けろ小僧、もちろんただのメイドではないぞ」
アル・ゴールさんが警戒態勢をとりながら言う。
「ヤツこそ、おれの前世代に皇帝竜を務めた太古の竜。ガイヅェリンドラゴンの称号を賜りしミキだ……!」
情報量が多すぎて、頭ついてこないんですが!?






