1539 ジュニアの冒険:エターナル・トライアングラー
本日8/20(木)ノベル版最新刊21巻の発売日です!
よろしくお願いいたします!
『ぶぉおおおおおッ! シルバーウルフ! お前も! また! オレとの決着をつけることを望んでいたんだなあああ!! それでこそライバル! オレたちの心は一つだった!!』
『知らん知らん知らん! お前と戦うことなんて一ミリも望んでないし、ジュニアくんと戦うために「獣性解放」したの! お前のためじゃねえ! 常にお前のこと考えてると思うなよ!』
ゴールデンバッドさんは、元はS級冒険者。
今は引退して後進指導に尽力していたはず。
その名の通りコウモリの獣人で、だから『獣性解放』すると巨大なコウモリになるのか。
一体どこから飛んできたんだろう?
山の外からだよな?
すると何? いずこかでゴールデンバットさんは『獣性解放』の気配を察知して、ここまで駆けつけてきたってこと?
どうやって?
第六感? 感知タイプ?
何にしろ、どこまでシルバーウルフさんのことを想い続けていなければ、ここまでの領域に達せられるんだ、こわ。
『ぎゃああああああッッ! 助けて! 誰か助けて! アホコウモリに襲われるぅうううううッ!』
『見苦しいぞシルバーウルフ! さあ早く勝負! 永遠につかないと思っていた決着を今こそつけようぞ!』
なんかもう争いから、一方的な付きまとい行為に見えてきたこの悶着。
そろそろ間に割って入らなければシルバーウルフさんが可哀想か? と思えてきた、その時。
『いい加減にするにゃーん』
『『ひでっぷッ!?』』
さらに乱入してきた黒い肉球が、オオカミとコウモリを踏み潰した。
一体なんだ!?
見上げると、巨狼巨蝙蝠をさらに上回る超巨大な黒い影が、こちらを見下ろしていた。
「でけええええええッ!? ドラゴン形態に戻ったおれ様よりデカいんと違うか!?」
ヴィールですらビビらせるこの巨大さ。
僕もビビって腰を抜かしそうになったが、よくよく目視してその正体に気づけた。
これは……ネコ?
超巨大なネコ、黒猫!?
黒猫だから全身真っ黒で、影が伸びあがるように見えていたわけか。
『振り返ればネコがいるにゃ~ん』
それでもこんな巨猫はいないでしょうよ!?
一体これは何!? 僕は猫の幻術に囚われているのか!?
「ぐふッ……ブラックキャット……!?」
あッ、シルバーウルフさん?
衝撃からか元の獣人形態に戻ったシルバーウルフさんが、肉球の下からもぞもぞ這い出していた。
「助けに来てくれたんだな……! その割には私のことも戸惑いなく巻き添えに……!」
『アホコウモリなんぞに翻弄されるダーリンが悪いにゃーん。ギルドマスターとしての威厳を失わないでほしいにゃーん』
「その威厳が聞かない唯一の相手が、このボケコウモリなんだよ!!」
なんだか気心知れあった会話のやりとり。
シルバーウルフさん? もしやこの摩天楼黒猫とお知り合い?
「ああ、コイツは……」
シルバーウルフさんは、少々決まりの悪そうな表情で。
「……妻だ」
つまッ!?
ネコがッ!? ネコがオオカミの妻ッ!?
種族を越えた愛!?
『失敬な、夫婦ともにれっきとした人族にゃん。純愛にゃーん』
そう言って延び上がった巨大猫の影がシュルシュルと縮んでいく。
そして最終的には、なかなかしなやかなプロポーションを持った女性の姿となった。
長身で、豊満ながらもしなるような筋肉の厚みも持った女体。
そしてもっとも目を引くのは、それこそネコに酷似した獣人の頭部だった。
全身が黒い体毛に覆われ、黒猫を想起させる。
『ぐッ、ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!?』
巨黒猫が消失したことで、踏み潰しから解放されたゴールデンバットさん。
そのコウモリに、変身を解いた黒猫さんから追撃。
「ネコキックにゃーん」
「ぐべしッ!?」
容赦ない踏み付けキックがゴールデンバットさんを襲う!?
「これでしばらくは静かなはずにゃーん」
「相変わらずゴールデンバットに辛辣だな……!?」
「ダーリンが甘すぎるにゃーん。だからこのアホがつけあがるにゃーん」
元S級冒険者に対しても忖度することのない厳格な態度。
この黒猫姉さんは一体。
「そりゃ、コイツもS級冒険者だったからな」
そうなんです!?
「そうとも、元S級冒険者ブラックキャット。そして今はギルドマスター夫人。冒険者ギルドを陰から支える黒幕として有名だ」
「いやーん、そんな呼び方しないでほしいにゃん。黒幕じゃなくて黒猫にゃーん」
どっちも同じ……ではないか?
「お前までこっちに来ているとはな。というか子どもたちはどうした?」
「家政婦さんに任せてあるにゃーん。どっちにしろあの子らももう親の干渉がダルくなる年頃にゃーん」
「そんなこと言われると親として辛い……!」
しかし夫婦揃ってS級冒険者なんて、カトウさんとトントンさん夫妻と同じじゃないか!?
しかもそれでギルドマスターなんて権力実力揃い踏み、鉄壁の安定政権じゃないか。
「まあ、このコウモリさえいなければな」
「安定政権を揺るがすトリーズナーにゃん」
ピクピク痙攣しているコウモリを見下ろす。
「私たち三人は元々同期でな。獣人という共通点もあってつるむことも多かった」
「当時は獣人差別も酷かったからにゃーん」
「一番酷い時期に比べればそれでもマシだったそうだがな」
昔を懐かしむように話すビースト夫婦。
「あの当時からゴールデンバットのヤツが一方的に絡んできて、私が弱り果てているのをお前が見物しているという図式が出来上がっていたな」
「このアホ、獣人だからって見下されるのが我慢ならなかったにゃん」
と言ってゴールデンバットさんの頭を踏む。
「その反抗心が、クエストクリアして等級を上げるモチベーションになってたにゃんね。それに対してウチのダーリンは周囲に気を配り合い助け合いで人間関係を深めて、それでギルド内の立場を確立していたから、同じ獣人なのにまったく違う方向性で成功しているダーリンが鼻についたにゃんね」
それこそゴールデンバットさんがシルバーウルフさんに絡む理由。
孤高のコウモリと、融和のオオカミ。
その対立は、二人それぞれが冒険者の頂点を極め、第一線を退いたあとも続いている。
「そんな中お前だけ一線引いて俯瞰するような態度だったが、まさかギルドマスターの娘だったとはな。道理で余裕があったわけだ」
えッ? シルバーウルフさんは自分の奥さんの生い立ち知らなかったんですか?
「ああ、まったく知らない。それこそ結婚が決まるまで知らされなかった。そもそも結婚自体不意打ちみたいなものだったが……」
「しとめる瞬間まで獲物に『狙われている』と気づかせない、それが真の狩人なのにゃーん」
なんか怖いこと言っている、この女豹。
「まあウチが余裕綽々だったのにパパの権力はまったく関係ないにゃーん。純粋にウチの実力にゃん」
きょ、強者感……!
「まあ実際冒険者等級の頂点まで上り詰めてるからな。そこから同格の私を取り込んでちゃっかりと次世代のギルドマスター夫人に着任。本当に手際鮮やかなネコだよ」
「ダーリンと結婚したのは純愛にゃーん」
「わかった、わかった……!」
まんざらでもないそうなシルバーウルフさん。
……僕は何を見せられている?
「いい加減にしておけや……このネコがぁあああああああッッ!!」
うわあ、ゴールデンバトさんが復活した。
甦る金蝙蝠。
「復活早いにゃーん。もう少し頸椎強めに押しとくべきだったにゃーん」
「男と男の真剣勝負に無粋に割り込んでくるな! オレとシルバーウルフの間には、余人には計り知れない因縁と恩讐があるのだから!」
「こっちは夫婦の絆にゃーん。それこそ他人が介入するにゃーん」
「他人じゃない! 友と書いてライバル! それこそ地上最強の関係性だ!!」
なんかコウモリとネコとで謎の言い争いが始まった。
その傍らで酢を飲んだような顔をしておられるシルバーウルフさん。
この三人。
僕の知る限りでもっとも古い世代のS級冒険者。
この三人で三角関係かと思いきや。
三角関係の頂点に立っているのはまさかのシルバーウルフさん。
他二人からの取り合になっている。
身を固めて家庭をもってなおも終わることなき戦い。
この自分を挟んだいさかいに、間に挟まれたシルバーウルフさんは何を思うのだろうか。
「……あ-、ジュニアくん」
はい。
「妙なことに巻き込んでしまって悪いね。おわびと言っては何だが、このエリアのバッジ渡しておくから」
労することなく試練クリアの証を手に入れた僕。
しかしなんだろう、何もしていないはずなのに他の試練と同じぐらいに疲れてしまった……!






