1538 ジュニアの冒険:神獣死なず、ただ去りもせず
シルバーウルフさん!?
シルヴァーウルフさんッッ!?
何故アナタがここにいるんですかッ!?
アナタ、とっくに引退している! しかも現職ギルドマスター!
現職退いても目ん玉飛び出るほど忙しいはずのアナタが何故今、僕の目の前に立ちはだかっていなさる!?
しかもこんなダンジョンのど真ん中で!
「……キミがいけないんだよジュニアくん」
そういう、自分の若気の至らなさを責任転嫁するの、よくないと思います!
「キミの才能あふれる活躍ぶりを間近で見させられたら、老いて枯れてしまった私の冒険心も再び活性するというものだ。思い出してしまったよ、あのガムシャラだった日々を」
だから急に若き日の思い出に囚われるの、よくないと思いますって。
「それで若者に交じって今さら参戦か? 年寄りのコールドスプラッシュなのだー」
「筋金入りの冒険者というものは、いくつになっても冒険心を捨てきれぬものらしい」
何かわかった風なことを言うシルバーウルフさん。
「それに考えてもみなさい。冒険者ギルドがもっとも頼みを置くS級冒険者、その全員が一ヶ所に集うなんてさすがにギルドマスターの許可なく実現はしないだろう」
「自分も一枚噛むつもりで状況を静観したのか」
「それだけジュニアくんが皆から注目を受けている、ということでもある」
気にしてもらえるのは嬉しいことだが、注目の理由の半分以上は『聖者の息子』からだからなあ。
僕自身の活躍で気にしてもらえるように頑張らなければ。
「それにこの騒ぎは、ジュニアくんが成長するためのものなんだろう。だったら私にも、彼に貴重な経験をさせてあげられると思ってね」
「そうかー? ロートルのおめーに、若きジュニアのピチピチフレッシュな感性を刺激する夢の新体験を提供することができるのかー?」
ヴィールの言い方がまず時代がかったものを感じさせる。
「フッ、もちろんだ。このシルバーウルフ伊達に一時代の頂点を極めたS級冒険者ではない!」
これ完全にシルバーウルフさんがこのエリアの試練役を担う方向性?
八傑衆の方々はどこへ行かれたんだ?
「S級に叙される冒険者の多くは獣人……現役でもピンクトントン、コーリー、ムルシェラと三人がその身に獣の因子を宿し、それを活用することで様々な実績を上げている」
何ですいきなり?
「かく言う私も、オオカミの因子を宿した獣人として世に生を受けた。この顔を見れば一目瞭然だがな」
それは……ハイ。
その長いマズルとつぶらな瞳、三角にピンと立った耳と黒く湿ったお鼻はまさしくオオカミそのもの。
「混ざりものと揶揄されるこの身体で苦労したこともあったが、実力至上の冒険者の世界では大いに役立つこともあった。今の私があるのも、我が見に宿ったオオカミの力のお陰……」
あの、この話は一体どこに着地するのでしょう?
若き日の苦労話であれば、もっと落ち着いた場所で聞きたいのですが?
「ジュニアくん、若いキミはまだ知るまい。獣人が宿すケモノの力、その真髄を」
ケモノの力の真髄?
「そう、S級冒険者までのし上がった強者だからこそ見せることのできる獣人最高の領域。この機にジュニアくんへ披露しよう。キミのさらなる成長を願って」
そう言ってシルバーウルフさんは、何かしら袋を取り出した。
あれは……?
「あああーッ!?」
それに反応するのは何故かヴィール。
「それはッ! ドラゴンスターラーメンのお徳用パック!? おれ様がラーメン製作の傍ら作り上げたラーメンお菓子、お買い上げありがとうございますのだぁあああああああッッ!!」
「フッ、ドラゴンスターラーメンは軽くて小さく持ち運びが容易なのに栄養豊富、さらには腹もちもいいということで冒険者たちに人気の携帯食なんだ。コイツのお陰で極限状態での飢えに苦しむ冒険者が一体何百人救われたことか。こちらこそありがとうございます!!」
ドラゴンスターラーメンは、我が故郷農場でも弟妹たちに大人気のおやつ。
しかし何故今それが登場?
「このドラゴンスターラーメンを……!」
「おおーッ!? 一気飲みの勢いでザザザッといったのだぁあああああッ!?」
ドラゴンスターラーメンの細かい麺の欠片が、シルバーウルフさんの口の中へ吸い込まれていく。
どういうことだ? お腹すいていたんですか!?
とツッコミを入れようとする、さなか……!
シルバーウルフさんに驚くべき変化が!?
「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
ヒィッ、怖いッ!?
シルバーウルフさんが本物のオオカミを思わせる遠吠えと同時に、その身を変身させた!?
変身!?
自分で言っておいて困惑。
しかしシルバーウルフさんに巻き起こる異常は、そう“変身”としか表現のしようがない。
だって見た目が変わっているんだから。
シルバーウルフさんの体は、まず大きさが変わる。
一回りも二回りも大きくなり……巨大化ってことだよな、コレ。
両手は地面について前脚と化し、これまで半獣半人というべきだったフォルムが完全な獣と振り切れている。
全身を覆う体毛は逆立ち、パリパリと火花を発していて尋常なものではない。
さらに眼光は稲光のように輝いている。
完全に獣と化しても、それがただのオオカミとは思えない。
見る者を圧倒する獰猛さ、それに加えて神々しさまである。
この手を組んで拝みたくなるような巨大な神狼は一体……!?
『これが我ら獣人の最高奥義「獣性解放」だ……!』
その声は、シルバーウルフさん!?
こんな人外の姿になられても人語を解するとは、それでいて沈着冷静な声色。
獣なのに獣の荒々しさは感じられない。
『みずからの体内に流れる獣因子を最大活性させ、ケモノの力を最大限引き出す。それが「獣性解放」。私はそれにもう一段加え、ケモノの因子に竜の因子を加えることでさらなる進化を実現した』
ハッ!?
まさかそのためにドラゴンスターラーメンを!?
『そう、ラーメンに含まれたドラゴンエキスが、私の獣因子に共鳴し限界を超えた「獣性解放」となった。これがその、銀狼モードだ!!』
唸る神狼。
こんな神々しい巨獣を前に、すくまずにいられる生物がいるだろうか?
「相変わらずチカチカするヤツだなー」
いた。
全然物怖じしないヴィール。
『さあジュニアくん、旅の中で様々な経験を積んだキミでも神獣との戦いはまだ経験したことがないはずだ。この戦いでもって、さらなる次元にキミを誘おう』
よ、よし!
たしかにシルバーウルフさんの言う通り、この戦いが僕にとって非常に有益なものになるのは疑いない!
かつてない激戦になる予感がビンビンする!
困難は人を高めてくれるという、だからこそこの状態のシルバーウルフさんとぶつかり合えば今までにない何かを掴み取ることも可能なはずだ!
奮い立て僕! あの神々しいシルバーウルフさんの姿にビビっている場合じゃない!
恐れをはねのけ踏み出す勇気の一歩、それが僕を成長させるはずだ!
あとは野となれ山となれぇー!!
『それでこそ冒険者! 危険を顧みず飛び出すことが冒険よ! ジュニアくん! このシルバーウルフが一人の冒険者として、その魂をキミに継承させる、この戦いを通じて! うおおおおおおおおッッ!!』
神狼との戦いの火ぶたが切って落とされる……ようとした、その時。
『シルバーウルフぅううううううッッ!?』
また新たに何か来たぁああああッ!?
山の外から? 飛来してくる何かしらが?
巨獣化したシルバーウルフさんに飛びついて揉みくちゃになっている。
『うわばぺぺぺぺぺぺ……ッ!? 何だこの巨大コウモリは!?ってもしやゴールデンバットか!?』
『シルバーウルフよ! この期に及んで「獣性解放」するとは、ついにオレとの最終決戦に臨む覚悟ができたんだな!?』
『ちゃうわい! お前まで「獣性解放」してきやがって! やめろくっつくな! 私にはジュニアくんとの試練のバトルがぁああああッ!』
『そんな若僧よりオレと戦え! 我が永遠のライバルぅううううッッ!!』
ああ、あの巨大コウモリ、ゴールデンバットさんか。
あれも『獣性解放』によるものなんだろうか。巨大獣同士のバトルは迫力あるなあ。現実逃避。
この争いを前にして僕は、どう受け止めればいいんだろう。
戸惑いと呆れのみが残る、山の風景だった。






