1536 ジュニアの冒険:親への恨みを子に晴らす
苦節の日々を思い出し、号泣するモモコさん。
「ずびばぜん、取り乱しました……!」
まだ鼻声ですよ。
彼女がどれほど波乱万丈の日々を乗り越えてきたのか、まだ若僧の僕には想像も及ばない。
しかしそんな苦労を積み重ねし彼女だからこそ、試練の相手としてこれほど相応しい者は他にいないのではないか?
今こそ乗り越えるべき障壁として、胸を貸していただきたい!
「誰が壁ですって!?」
うわぁ?
なんか怒られた?
「フッ、殊勝なガキめ。アナタの望む通り、最強の困難として立ちはだかってあげるわ。何しろ私も、それを待ち望んでいたのだから」
えッ、どうして?
まさか勇者モモコさん、ヒトの進路を邪魔する趣味でもお持ちの、変わった人なんですか?
「誰が偏狂な趣味人よ!? 私はアナタだからこそ、すんなりいくのを邪魔したいのよ!」
えッ、どうして?
僕、何かアナタのお気に障ることしましたっけ?……あッ、僕何かやっちゃいました!?
「言い直すなッ。強いて言うならやっちゃいましたのは、アナタの父親の方ね」
父さん?
父さんならたしかに“何かやっちゃった”界隈でのTier1だろうが……?
そんな父さんが、勇者であったモモコさんなんかご迷惑を!?
「そりゃあもう……、さっきの話にもあったけれど、魔族に敗れた私は、聖者を求めて世界中を探し回ったわ」
え?
なして?
「国として軍として、完全敗北を喫した人族を救うには聖者に縋るしかないと考えたからよ。ドラゴンを従える聖者ならば、魔王も魔王軍も簡単に薙ぎ払ってくれるだろうと。敗戦前から聖者探索の任務も受けていたし……!」
はわぁ。
それでモモコさんは聖者=父さんを探し続けていたと。
「そうよ、樹海を彷徨い山に登り、谷に落ちて川を流されたりしながら聖者を探し続けたわ。何ヶ月、何年も探しながらそれでも聖者を見つけることはできなかった。あまりに見つからないから執着ができて、反攻を諦めて冒険者に転職してなお聖者を探し続けたわ」
何故そこまで執着を?
冒険者になったらさすがにもう聖者はいらないのでは?
「いや……誰も知らない聖者を探し当てたら功績になるかなって」
割と真っ当な理由あった。
たしかに珍しいものに付加価値ありそうだもんな冒険者から見て。
ツチノコ、スカイフィッシュ、そして聖者。
「そうして世界中のダンジョンを駆け巡り、あのレタスレートの王女野郎に何度も叩きのめされながら、ほんのちょっとした偶然で聖者とすれ違ったら何よ!? 異世界召喚された時に会ったオジサンじゃないのよ!? そんなの探し続けていた私の苦労は何!?」
見つけられたならよかったじゃないですか。
「しかもオークボ城に毎年参加してた!? 私は聖者探しを達成するまで遊びにかまってられるかと、オークボ城なんか無視してたのに! ホントは参加したくて毎年血涙を流していたのに! 何なのアイツはヒトの苦労も知らないで!」
思い返すと当時の感情が甦ってきたのか、段々と語気荒くなってくるモモコさん。
落ち着いて!
「これが落ち着いていられるか! 私の艱難辛苦、ゼンブ無駄だったと言われているようなものなのよ!! しかし向こうは向こうでそれ相応の苦労があったと匂わせてくるから全力非難もできないし! ぶつける先のない憤懣は募るばかり!」
そんなこと言われましても……!?
「そこへ現れたのがアナタよ!」
へ!? 僕!?
ワイ? me!?
「そうyouよ! 聖者本人にはぶつけられない様々な感情も、直接関係のないあなたになら気兼ねなくぶつけられる! かと言って間接的には関係あるから、それほど理不尽でもなく私の鬱憤も晴れる!」
いや、かなり理不尽だよ!?
行為そのものが理不尽だよ!
「長い間、腹の底に溜め続けてきた鬱憤を今こそ、全部吐き出す時! さあ若者よ! アナタも負の連鎖に加わりなさい!」
などと言いながら剣を振り上げる勇者モモコさん。
ここまでの流れに、到底承服できない無理筋を感じる。
「今、復讐をレディ、ゴー!」
復讐じゃない!
僕、アナタに恨まれること何もしてない!
むしろ、この行為を言い表すにもっともマッチする呼び方は……!
八つ当たり!
「ぬぉりゃああああああああああッ! 死ねぇえええええッ!!」
振り下ろされる剣から、裂ぱくの気合が発せられる。
閃光となって地を割り、天を裂く。
いやなんだ、あの光は?
「これこそ鏖聖剣ズィーベングリューンが発する聖なる閃光! 聖剣はすべて、この閃光攻撃を使えるわ! その威力は今アナタが体験した通り!」
はい、今まさに体験しておりますが。
この見た目は聖なる閃光に、怨念がこもっているのは気のせいでもなんでもない。
「はーっはっはっは! 心のしこりが溶けてなくなっていくかのよう! 気兼ねなく暴れるのは気持ちいいわねえ!!」
そして本人は復讐に酔っている!?
続けざまに乱射してくる閃光に、よけるだけで精いっぱいの僕!
「怨情を制御できないニンゲンは愚かなのだー」
そんな中ヴィールはしっかりとバリアはって攻撃をシャットアウトしている。
それアリ!?
「ハハハハハハハ! さーてどうしたのルーキー!? 期待の新星冒険者と鳴り物入りのアナタが、この程度の驚天動地に翻弄されてたら形無しよ!?」
驚天動地にはあたふたするでしょうよ!
「アナタの父親の聖者も、私同様の聖剣持ち! つまりこれぐらいの殲滅攻撃はヤツにもできる! これに対処できないで、どうしてヤツを越えられるというの!?」
な!?
くそう、反攻に転じたくてもとっかかりが見えない。
彼女の聖剣から放たれる閃光は、それだけで千軍を薙ぎ払うほどの威力&広範囲。
それを一分間に百ぐらいのペースでばら撒きまくるから付け入る隙もない。
なんとか『究極の担い手』で閃光を無効化できないか?
あの閃光に触れることさえできれば可能かもしれないが、そもそも閃光に触れられるものなのか。
しかも触れたら、ほぼ一瞬以下でなんとかしないことにはこっちの身体がヤバい。
触れた先から閃光に吹き飛ばされることだろう。
そんな高リスクな方法できればとりたくないし、とれたとしても恐怖で体が引きつって動きそうにない。
『究極の担い手』でも対処できない事柄はあるんだと、改めて感じる。
「お~っほっほっほっほ! どうしたのかしら超新星ルーキーちゃん!? 聖者の息子の実力はこんなものかしら? 二世の期待は荷が重かった!?」
好き放題言いやがって……!
どうにかしてあの聖閃光の雨嵐をしりぞける。
その妙策を考えないことには状況対処のしようがない。
……そうだ!
「うおりゃあああああああああッ!!」
僕は、おもむろにみずからの足元の地面に、指先を突き立てた。
そのまま畳を返すように、両手を跳ね上げると、それに呼応して厚い岩盤が起き上がる。
「ええええええええッ!? 何ッ!?」
さすがにこれには驚いただろう。
『究極の担い手』を地面に作用させて、刀剣も通さない厚くて硬い岩盤を作り上げた。
これならさすがの聖剣でも容易に突破できまい。
僕はその岩盤を押して、一直線にモモコさんへと迫る。
地面に大きな引きずりあとを拵えながら。
モモコさんから見たらそれこそ大岩が迫ってくる光景が見えることだろう。
「大盾引っ提げてゴリ押し作戦というわけね! 大味だけど嫌いじゃないわ、そういうの! でも、その作戦は、他よりの盾に充分な強度あってこそ成立するもの! 私の聖剣を無効化できるほど、その大岩は頑丈かしら!?」
モモコさんは狙いすまし、僕が打ち立てた大岩に集中して閃光をぶつけてくる。まさしくつるべ打ち。
それでも我が期待を一身に背負った大岩は、頑健な盾となってことごとく聖閃光を砕き散らす。
八傑衆、岩盤さんとの死闘の経験が早くも活きた。
この大岩の盾は、岩盤さんが振るった大岩ハンマーをヒントにして思いついたものなんだから。
「意外に硬いわね!? ずりゃああああああああッッ!!」
モモコさんもさすがに焦りだしたのか、閃光の連射速度がまた一段階上がる。
大岩越しに、我が手に伝わってくる衝撃がビリビリずる。
しかし、こっちも負けてはいない。
この岩は僕の唯一最強の力『究極の担い手』で強化したもの。
頑健さのポテンシャルを最大限以上に引き出したものゆえ、いくら聖剣でもそう簡単に破壊することはできない。
その大岩を押して、猛スピードでモモコさんに迫る僕!
なんならこのまま大岩の質量でモモコさんを轢き潰してもいい!
「なんて凶悪なことを考える子よ! うおおおおおおおお!!」
モモコさんもヤバいと感じたのか、ますます閃光の連射速度が上がる。
これもはや一秒間に百発撃ってない?
そのあまりの衝撃に『究極の担い手』で強化した大岩といえどもピシリとひび割れた感触が手越しに伝わってくる。
これはもしや、岩に亀裂が入った?
『究極の担い手』すら超えてくる勇者の聖剣ラッシュ。
そのあまりの猛烈さに、一旦入った亀裂は加速度的に広がっていき……。
僕の唯一の頼みの大岩の盾は、あっという間に粉砕された。






