1534 ジュニアの冒険:SAIKYOのS
ちなみにムルシェラさんは、どうしてそうエロ……いや蠱惑的な服装をなすっているんだろう?
全身ピッチリと体のラインが出る衣装で、それでいて谷間やら太ももやら出すべきところはしっかり露出させてあるというか。
明らかにそういう意図しかなさそうな挑発的なデザイン。
「いやー、やっぱりムルシェラの脚太くなったなー」
「太くなってないわよ!」
「太いって」
「太くないって!!」
その間もコーリーお兄さんによるデリカシーのない指摘が続いている。
「これは……ある時に言われたのよ。S級冒険者たるもの、一目視界に入った時点から特別であることを示さなければいけない。だから服装にもこだわるのは必然だって……!」
「だからってこんなエロ衣装?」
「エロくないわよ!」
一体誰からそんなこと言われたんだろう。
「ギルドマスターの奥さんから……」
「ブラックキャットさんか」
『これを着て迫れば彼氏くんもイチコロニャー!』とか言われたんだそうな。
どういうこと?
「コウモリの獣人なら、黒のレザーでシックにまとめた方がそれっぽくなる……とかも言われて。最初は背中に翼つける案まであったけど、さすがにそれは拒否したわ」
しかし肝心のコーリー兄さんはまったく揺さぶられないどころかコスプレ扱いしてくる始末。
なんというか……報われない女だなあムルシェラさんって。
そんなS級冒険者のムルシェラさんがこの場にいる。
……あッ、もしや?
ムルシェラさんまで、僕に試練を与えに来た!?
「しないわよ、そんな無駄なこと」
しかし意外な肩透かしッ!?
「他のS級冒険者はどうか知らないけれど、私はアナタにもアナタの親にも特に縁もゆかりもないし。自分が常に注目を受ける側だと思ってるなら恥ずかしいわよ」
言わないでくださいよ、そんなこと!
だって連続で来たら、そう思うじゃないですか! 一人二人三人と試練の代役で出てきたら四人目もそうかと思うじゃないですか!
でも当人の言う通り、ムルシェラさんと農場一家はそこまで深いつながりがあるわけでもなし。
……じゃあ、何故この場に?
完全にコーリー兄さん目当てってこと?
それはそれで色ボケが過ぎませんか最上級冒険者としては?
「あッ、そうだジュニア」
何ですコーリー兄さん?
まさか、この瞬間奇跡的にムルシェラさんの情熱的な想いに気づいたとか?
「はいこれ、このエリアを守る八傑衆から預かったバッジ」
はいぃいいいいいいいいいッッ!?
予想の斜め上からのものが来た!
兄さん、それって試練を乗り越えた人がその証明としてもらえるものでは!?
僕らまだ追いかけっこしかしてないんですけれども!
あとムルシェラさんにもう少し好意的なセリフを言ってやって!
「いやいや、オレとしてはジュニアの元気な姿を見ることができたから、もういいかなって。あとムルシェラにはさっきから言ってるだろう、『脚太い』って」
「「それは好意的なセリフじゃない!!」」
思わずムルシェラさんと叫びが重なってしまった。
「え~、脚が太いと走力も出るし、怪我にも強いからいいと思うんだけど……?」
コーリー兄さん、典型的なクソボケであったか。
特定のタイミングで都合よく聴覚が死にそう。
「大丈夫よ、コーリーも血が薄いとはいえ犬の獣人だから嗅覚が高い。通常の人類より段違いに。だから声がダメでも臭いに訴えればいいのよ!」
ムルシェラさんも、そのアプローチでいいんですか。
まあ大丈夫か。コーリー兄さん一人を目当てにダンジョンの奥底までやってくる情熱があれば、そのうち何とかなるだろう。
したらば僕は、バッジもゲットしたことだし先へと進みます。
一体何だったんだ、この時間は?……と思わないでもない。
「お前の道を信じて突き進むんだぞジュニア。さてオレたちはせっかく『聖なる白乙女の山』に来たんだし頂上制覇していくか」
「いいわね、どっちが先に頂上に着くか競争よ!」
「普通に二人で登ろうよ」
もののついでで最強ダンジョンにアタックかけていきなさる?
その振る舞いはS級冒険者に相応しいと思わないでもないが……?
「……あ、そうそうせっかくだから忠告しておいてあげるわ」
去り際にムルシェラさんが言ってきた。
「次のエリア、気を付けなさい」
次のエリアって?
これまで『聖なる白乙女の山』の周辺エリア……岩山、熱帯山、火山、雪山までを回って、これで四つ。
周辺エリアは全部で八つということだから、これで半分来たというわけか。
案外早いな。
でもそのうち三つが正当な番人じゃないというのが何とも言えないが。
「次のエリア……毒山エリアは、そこら中から毒が吹き出したり染み出したりしている危険エリアよ。噴出する毒も一種類じゃなく、知識や対処法も知らずに突っ込んでいくと確実に死ぬ。これまでのエリアより確実に難易度が上がっているわ」
それはまた……僕、薬や毒の知識とかまったくないんだけど死にますかね?
「大丈夫だろ、ジュニアの『究極の担い手』があれば毒も無効化なのだー」
ヴィール!?
これまで静かにしていると思ったら解説ありがとう!
「でも本当に危険なのは毒なんかじゃないわ。そこで待ち受けているS級冒険者よ」
S級冒険者!?
まだいるんですか!?
いい加減に八傑衆の方々に出てきてほしいんですがね!?
「アナタが挑むと聞いて『聖なる白乙女の山』に駆け付けてきた最後のS級冒険者が、この先の毒山エリアにいるわ。彼女は、現役S級冒険者の中で最強と言われている」
最強!?
『もっとも強い』と書いて最強!?
「私やコーリーのような若手と比べて当然強いし、カトウさんトントンさんみたいな古参を押しのける勢いが今のあの人にはある。要するにもっとも活きのいい世代ってわけね」
そんなまだ見ぬ最強冒険者がいるということか。
該当する人物が記憶にないんだけれど。
「会ってみればわかるわよ。……さあ、私たちは登山デー……もとい! 登山競争に出かけるわよ!」
「だから競争じゃないって! 山道で走ると事故につながる!」
ムルシェラさんとコーリー兄さんは走り去っていった。
……今たしかに“デート”って言いかけていたよな。
若い二人に幸あれ。
* * *
そしてやってきたここは、五つ目の周辺エリア、毒山。
あらかじめ聞いていた通り、毒々しい雰囲気の場所だった。
全体的に紫っぽいし。
地面も木も水も……何なら漂う空気まで紫っぽい。
どういうことだ? と困惑するが、要するに空気中にまで毒成分が混じり込んでいるんだろう。
呼吸も最小限で止めたくなる。
右も左も上下も毒素。やはり危険な場所だった。
「はっはっは、やっぱか弱いなニンゲンってのはー、この程度の異物で生命活動に支障をきたすなんてナニモノなんだ? ナンジャクなのだー」
ヴィールが高笑いしながら言う。
いや……そこは最強生物ドラゴンと比較されても。
「おれらならば多少の危険成分が体内に入っても、自浄作用で何とでもなるのだ。こんな毒々しい空気の中で深呼吸しても……」
スーハー、スーハー。
まるで山頂の清浄な空気でも取り込むかのように大きく呼吸するヴィール。
それでも何の健康被害もないというのだから、やはりドラゴンは最強……。
「……不快なのだ」
……そんなこともなかった。
たとえ身体的に何の影響もなかろうと、毒なんて体に取り込んで快適なわけがない。
たとえるならクソマズい料理を食べるようなものか。
元々味覚とは、害があるものを摂取しないように食物を選別するセンサーだ。
だったら毒なんて、もっとも取り込んではいけないものを美味しく感じるはずがない。
ましてヴィールは、父さんの下僕になってから絶えず美味しいものばかりを食べてきたから落差で数倍不快に感じることだろう。
「うえええ……、気分悪くなってきた……! ご主人様の作ったケーキが食べたいのだぁ……!」
よほど気分が悪くなったのか、ヴィールはフラフラとその辺にあった木にもたれかかった。
すると驚くべき出来事が! 木のウロから濃厚な毒霧が噴出!
もたれかかっていたヴィールの顔面に直撃した!
「ぎゃああああああああッッ!? 染みるッ! 目に染みるのだぁああああああッッ!?」
ああやって空気中に毒が散布されるのか。
なんて恐ろしいトラップだ。僕もこの山の木には近づかんとこ。
「んぎゃあああああああッッ! 目が! 目がぁああああああああああああああああああッッ!?」
苦痛にゴロゴロ転がるヴィール。
でも毒が網膜直撃して染みる程度で済むんだから、やっぱりドラゴンって恐ろしい。
こういうトラップだらけのエリアに入ると、終盤に入ったんだなって実感わくなあ。






