1533 ジュニアの冒険:オオカミとコウモリ①
「いいかいジュニアくん! 僕の課す試練の内容それは……鬼ごっこだ!」
鬼ごっこ!?
……とは懐かしい。
開拓時代、よくコーリー兄さんと鬼ごっこで遊んだものだなあ。
テュポンさんのダンジョンで。
「テュポンのダンジョンは侵入者にクリアさせる気のないダンジョン。床全体に即死トラップを敷き詰めて事実上どこを踏んでもリタイヤは免れないアホみたいなダンジョンだった」
そのあまりの鬼畜難易度に、初見殺しどころか十見、百見、千見してもクリアできないダンジョンだと揶揄されていた。
そんなダンジョンの中で僕とコーリー兄さんは、鬼ごっこで遊んでいた。
「思い出すなあ……『床を踏めないなら、壁や天井を蹴って空中にいればいいじゃない』と」
テュポンさんもそのうち対策してきて、壁や天井にまで即死トラップを敷設してきたんですよね。
「そうしたら今度は『空気を蹴ればいいじゃない』となって、本当に空気を蹴った反動で滞空し続けるジュニアくんを見て度肝を抜かれたものだよ」
即真似してくるコーリー兄さんも、さすがでしたけどね。
さらには空中浮遊型の即死機雷をバラ撒きだしたテュポンさん。
難易度が上がって白熱したなあ。
「仕舞いにはテュポンさん自身も自由活動できない、ガチガチ使用不可なダンジョンになってしまい、『もうどうしようもねえ』ってことで一回リセットされたんだよなあ」
今となっては懐かしい。
さすがにあのあと反省したテュポンさんは『適度な難易度で、それ越えてくるヤツはおれ様みずから潰す』という方針に変えていった。
今となっては体験できない、あのデタラメ難易度ダンジョンは僕たちの思い出の中だけにある。
「あの日のことを思い出して、追いかけっこしようじゃないか。さてキミとオレ、どちらが鬼で行く?」
この旅で僕は、いつだって追い求める側だった。
今ここでもそうだ。僕は走り続けて、コーリー兄さんにも追いつく。
「その意気だ、力の限り走り続けて、このオレを捕まえてごらんなさい!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
僕とコーリー兄さん、互いに睨み合い、緊張が高まっていく。
「そんでは、おれが仕切ってやるのだー」
同行しているヴィールが仕切ってくれた。
「よーい……ドン! って言ったら始めるぞー」
ヴィール! そういうコテコテなのいいから!
「ドン!」
いきなり始まった!?『よーい』すらなく!?
間髪入れずに迫りくるコーリー兄さん!
地面を蹴る音がしなかったぞ!?
いや今聞こえた!?
音の速度を超えた!?
「おうおう、両方とも音速で動き回ってるなー。そう来なくてはなのだ」
ただ速いだけじゃない。
超スピードで動き回りながら、ちゃんと頭も使っている。
二手三手先を読んでフェイントも織り交ぜながら。超高速だというのにさらに目まぐるしくて混乱するッ!?
……いや待てよ?
鬼ごっこって、『捕まえて鬼が勝ち』というのはわかるけれど、逆に追われる側はどうすれば勝ちになるの?
制限時間とか設けた?
それがなければずっと追いかけっこを続けて、僕が兄さんを捕まえるまで続くんじゃないか?
兄さん圧倒的に不利!?
ルールの不備じゃない?
「……甘いなジュニア。その程度のことオレが考えないとでも思ったか?」
兄さん!?
どういうこと!?
「別に追われる側の勝利条件ぐらい決まってるだろう。要は鬼がへばって追いかけられなくなったら勝利だ」
……ハア?
「『ボクもう疲れて走れな~い』と言わせたら勝っちてことさ。まあそこまで時間はかからないだろう。S級冒険者の疾走にいつまでついてこられるかな」
……ピキーン。
コーリー兄さんといえども、その発言は挑発行為と受け取った!
いい気になっているな!? 兄さん、S級冒険者の中では若手かもしれないが、年齢自体は僕の方が圧倒的に若いってことを忘れてないか!?
体力の豊富さはイコールで、年齢の若さなんだよ!
カトウさん当たりと比較して若いつもりでいるようだが、アナタ自身もまた斜陽の体力だということをわからせてやらぁああああ!!
行くぞジュニア、モードツー!
説明しようモードツーとは、両腕を広げてもっと速く走れるような気分になった僕である!
「本気だなジュニア、ならばこちらもコーリーイダテンフォームにフォームチェンジだ!」
「だったらボクはリミッター解除で!」
「ならばオレはファイナルアルティメット形態で……!」
ちなみにここまで言ったフォームやら形態やらは実際的なものではなく全部気分です。
童心を思い出して楽しいなあ。
「いい加減にしなさい」
「「うぎゃあああああああッッ!?」」
なんだ今の!?
急に姿形のない何かがぶつかってきて、吹っ飛ばされた!?
僕もコーリー兄さんも諸共に!?
「い……今の超音波攻撃は……!?」
ちょうおんぱッ!?
なんですそのハイカラな範囲攻撃はッ!?
そんなことできる人は……!?
「私よ」
なんだッ!?
エロい格好のお姉さんがッ!?
胸の谷間も露出し、太ももも露出し、そんなセクシャルなお衣装に負けないほど豊満な肉付きのお姉さん!?
一体どなた様!?
「やっぱりお前かムルシェラ」
ムルシェラさん!?
聞き覚えがある名前ッ!?
そうだこの人もS級冒険者ではなかったか!?
「古い因縁があるとかいって『聖なる白乙女の山』に登ったかと思ったら、そんな子どもみたいな遊びをして。S級冒険者として恥ずかしいとは思わないのコーリー?」
「何を言う!? これは青春を共に過ごしたジュニアへの、最大限の歓迎の証! これがわからないとは本当に……!」
「そんなことどうでもいいのよ! S級冒険者としての品位を保てと言っているの!!」
ムルシェラさん。
その名は僕の記憶にある。
たしかコーリー兄さんが開拓地で修行していた際、何やかや言って乗り込んできたお姉さんだ。
彼女もS級だったとは。
僕自身幼き日のことで記憶は曖昧だが、たしかコーリー兄さんのことを批判していたような。そんな険しい印象を持っている。
……でも、こんなに煽情的ないでたちのお姉さんだったか?
昔はもっと中性的というか、体つきもスラッとしていたような……?
「驚いたかジュニア? コイツ、ここ十年ですっかり太ってなー」
「太ってない! 成長したの!」
「ウソだあ、そんな体のあちこちに肉をため込んで、冒険者として不効率に決まってんじゃん! 重いし!」
「重くない!」
「重いし!」
コーリー兄さん……まさかあのダイナマイトボディをデブとしか認識していらっしゃらない。
だとしたら男として大丈夫か!? と若僧の僕ですら心配になる。
兄さんってもしや、冒険者として成長しても心は少年のままってことか!?
そういや続けて思い出した。
十年前、開拓地に乗り込んできたムルシェラさんの目的は、コーリー兄さんを冒険者の最前線に連れ戻すことだった。
もしかしなくても……ムルシェラさんってコーリー兄さんにホの字!?
「……何よ? 何よその生温かい視線はッ!?」
見詰めていたらムルシェラさんに怒られた。
いや……なんか大変だなって。
「勘違いしないでほしいんだけど私はッ、同じS級冒険者としてコーリーに注意喚起しているだけなんだから! S級に相応しい品位と風格を備えてほしいだけよ」
今どきツンデレは流行りませんよ。
この手の兄さんには、好きなものは好きとハッキリ言わないと伝わらないんだから。
意地やプライドを優先して攻めあぐねていたら、時間なんてあっという間に過ぎ去ってしまいますよ。
「煩いわね! アナタみたいな子どもに何がわかるというのよ!?」
そりゃあアナタたちのような大人のお兄さんお姉さんに比べたら、僕などまだまだ若僧でしょうがよ。
そんな若僧に指摘されるぐらい、アナタたちの進捗はグズグズだってことですよ。
カトウさんとトントンさんは燃え上がるほどに強火だって言うのに!
あの熟年カップルを見習ったらどうです!?
「むしろあの夫婦が抑えないから、同じS級の私たちにしわ寄せが来るんでしょう! 私たちまで歯止めが利かなくなったらS級冒険者全体が色ボケ集団になるじゃない!」
う、たしかに……!?
全体でバランスを考えないといけないなんて、S級冒険者は大変だなあ。






