1532 ジュニアの冒険:S級冒険者ラッシュ
最強ママさんS級冒険者、ピンクトントンさんから課せられた試練は……。
「子育て体験実習! です!!」
と来たもんだ。
「子育てこそ、どんな難関クエストよりも困難で危険で、それでいて何よりも意義ある仕事。親の人生に喜びを、価値を与えてくれるのです!」
「かーちゃん、おしっこー」
「その辺でして来なさい!」
力説してくるピンクトントンさん。
「ゆえにジュニアさんも今のうちから育児の大変さを学んでおくべきです! ウチのダーリンからも教え諭されたはず! 戦って勝つばかりでは、いずれ行き詰まると! だからこそ育児を体験しておくのです! けっして思い通りにならない大切な存在を知るのです!」
「かーちゃん、ねーちゃんがおもちゃとったー」
「仲よくしなさい!」
言わんとするべきことはわかる。
つまりは、二十人強いるカトウさんとトントンさんの子らに協力してもらって子育てを実施体験しろということですね。
ではやってやるよ!
うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁーッ!!
おしめ替え! おやつ作り! 昼寝! ケンカの仲裁!
「な、何ぃ!?」
「なんと完璧な子守り!? すべてが計算され尽くされていて隙がない!?」
当然です!
伊達に長男やってない!
カトウさんトントンさん夫妻には及ばないものの、ウチの両親だってなかなかの子だくさん。
その長子として生まれてきた僕にも数多くの弟妹がいる。
その弟妹の世話を、両親の支援としてやってきたのが僕なのだ。
むしろ経験豊富だ。
あの三周ぐらいひねくれた次男を始め、数多くの弟妹たちの世話を焼いてきた。
そんな僕に育児でマウント取ろうなどと、無謀と言わせてもらおう。
さあ、全員をお風呂に入れて……、寝かしつけて……!
寝る前のお話もしてあげよう。
昔々あるところにタルトタタン次郎という若者が市松模様にキレ散らかし……。
……よし寝た。
フィニッシュ!!
「おお……素晴らしい、完璧だ!」
「その歳にして育メンを極めているなんて……!」
そう大したことじゃありませんよ。
これが長男の力という、ただそれだけのこと。
次男だったら『は? 知らんし』と言ってドロンするところですよ。
そのくせたまに得体の知れないオモチャ作って弟妹たちの人気をかっさらう次男が恨めしい。
「これ以上私から教えることはなさそうですね」
ピンクトントンさんが感動と共に崩れ落ちた。
そこまで衝撃受ける?
「アナタは見事、私たちの試練を乗り越えて見せました。このマグマバッジを持っていきなさい」
渡された三個目のバッジ。
これが……本来火山エリアを守護する八傑衆の方から渡されるべきバッジ。
もはやルール崩壊してきたな。
「ジュニアくん、キミの成長を見届けられて。キミの父母の友だちとして、また先輩冒険者として嬉しく思うよ」
「ウチの子が成長した時は、アナタが指導役になってあげてくださいね」
S級冒険者夫婦と別れを告げて、僕は次の試練へと向かった。
ふう……何とも衝撃的なイレギュラーだった。
普通に八傑衆の皆さんと戦うより高カロリーだったかもしれない。
「得るものはあったかジュニア?」
それは充分以上にね。
ヴィールも困惑することしきりの連続試練。次は何が待ち受けているのだろう。
* * *
次のエリアは……雪山。
寒いな……!
「今度はちゃんとした死体モドキが出てくるといいなージュニア?」
カトウさんとトントンさんがちゃんとしていないノーライフキングみたいな言い方やめて。
とはいえ、あのようなイレギュラー事態は僕としても勘弁願いたいところだ。
予定外はね、それだけで心の余裕を削られるんですよ。
だから、このエリアでこそはちゃんとノーライフキングと戦いたいなー。
何て願われる世界二大災厄はここぐらいのものでしょう。
しかし、予定外はいつだって起こりうるものなんだ。
雪山エリアの山頂で待っていたのは……!
「よくぞ来た! ジュニアくん!!」
ああッ、アナタは……!?
コーリー兄さん!?
またノーライフキングじゃない人が待ち受けている!?
「キミが来ると聞いて、このエリアで待っていたよ! 話は聞いている、キミもアレキサンダー様の試練に挑戦する歳になったんだね!」
「そんな通過儀礼みたいなものだったっけ、兄上のダンジョン攻略?」
犬耳をつけた精悍な青年。
それがコーリー兄さんの主な特徴だ。
彼もまた冒険者ギルドを代表するS級。
冒険者の頂点に君臨する者の一人だ。
さっき出てきたカトウさんトントンさんよりも若く、だからこそもっとも活きのいい世代と言える。
今まさにコーリー兄さんの世代と言えるだろう。
しかし、今ここで出会う!?
ここで待ち受けているはずの八傑衆さんはどうした!?
また乱入して倒したのか、カトウさんたちみたいに!?
「いいや、ここを守る八傑衆の……超零っていうノーライフキングなんだけど。番人代わってくれって言われて引き受けた」
代行!?
どうなってるんですか、ここの業務体制は!?
「ドラゴンの管理体制なんて緩いに決まってるのだ。何せドラゴンだからな」
「超零さんは博打好きで、よく麓の賭場に出没しているからな。その間このエリアは無防備だけれど、さすがにダンジョンを挙げてジュニアくんを歓迎する期間に賭場絵は行かないだろうと思わせながら、行くのがあの人ってわけだ」
いや知らんけど。
「そこで折よく代行に滑り込んだのがこのオレというわけさ。ジュニアとは浅からぬ縁だからな。キミの節目には参加しないと、兄貴代わりとして!!」
そう、コーリー兄さんとは昔馴染みな僕だった。
農場国の草創期、開拓者としてやってきたコーリー兄さんは、農場国の主体である僕の父さんと、まあ随分親密にやっていた。
その息子である僕とも。
あの頃、毎日のように開拓前の山野を駆け巡って遊んだなあ。
「そうそう、あのテュポンさんの何処踏んでも即死トラップなダンジョンで、一緒に飛び回ったっけ」
幼き日を共に過ごしてくれたコーリー兄さんは、長男である僕にとっては貴重な兄代わりでもあった。
それが開拓の進んだ頃、急にいなくなって寂しい思いをしたものだった。
「ギルドから帰還要請が入ったからなー。農場国の開拓も軌道に乗って、オレ自身も修業期間を終えたって扱いにされたから、いい加減表舞台で活躍しろってさ」
そしてS級冒険者として華々しく活躍するようになったコーリー兄さん。
「元々オレって見込み採用でS級冒険者になったから、昇格時点で実力足りてなかったんだよね。それを補う意味も含めて開拓に参加したんだけど。そこで得られた経験が想像以上だった」
開拓生活中、メキメキ強くなって言ったもんねコーリー兄さん。
先生直伝の体操でマナ総量を上げて、テュポンさんのダンジョンでハードトレーニングして。
「そうそう……気づけば元の十倍くらい力が上がったっけ。それで前線に戻ってからも大躍進でさ。五つ星ダンジョンを二十ほど連続制覇したり、この『聖なる白乙女の山』も頂上まで行ったさ」
そんなに活躍したんだコーリー兄さん!
「お陰で現役最強のお墨付きまでもらって。これも聖者様とジュニアくんのお陰だと常々思っているよ。だからこそ、その恩返しとして最高の試練を課す!」
そこは無条件合格とかで恩返してくれないんだ。
いいや、それは甘えだ。
現役S級の中でもっとも活きのいい。最強と呼び声高いコーリー兄さんの胸を借りられることこそ光栄と思わなければ。
コーリー兄さん!
是非とも全力で僕を阻んでください!
「もちろんだとも! たとえこの命散ることになっても、必ずやキミを止めて見せる!」
そこまで本気にならなくても大丈夫なんですが……!
『聖なる白乙女の山』での試練は、まだまだ一息つくことも許されない。






