1531 ジュニアの冒険:肝っ玉母さん
僕はこうして、なんとかカトウさんに勝つことができた。
……いや、これは勝利と言えるのか?
僕はただただカトウさんに教え諭されただけだ。お陰で大切なことに気づくことができたが、それだけに一方的にしてやられただけのような気もする。
勝利すらもお膳立てされただけのもので……。
「いやー、こんなに早く息が上がるとはねー。年取ったのを実感させられるよー」
「オッサンはすぐ疲れるのだー。ご主人様も最近同じことを言ってばかりだー」
「だからオッサンじゃないって!!」
「ご主人様も言ってるぞ」
やはり年長者の教えは重要なんだなと実感させられた。
勝つことよりも重大なことがある。
これを座右の銘にして、これから生きていこう。
「ではジュニアくんに試練突破の証として、八傑衆から預かったバッジを進呈しよう」
カトウさんの手から、バッジが渡された。
葉っぱの大きな熱帯樹をかたどったデザインのバッジだ。
そういやここ熱帯山エリアだっけ。
でも僕が貰っていいのだろうか?
『試練突破したね!』という実感がいまいち湧いてこないんだけど?
「貰える時は黙ってもらっておけばいいのさ。多少の図々しさも冒険者には必須だよ」
「それはドラゴンとも通じるところがあるのだ!」
やだなあ、そんな共通点。
だがそこまで言われたら貰わないわけにもいかないので、素直にバッジを受け取った。
これで二個目。
『聖なる白乙女の山』を巡る試練は、これで残り六つか。
「次なる周辺エリアは火山だね。火山といえば大抵ゲームでは終盤に出てくるけれど、ここ『聖なる白乙女の山』では序盤から出てくるんだねー。でもゲームやアニメの悪役って、なんであんなに溶岩が好きなんだろう? まあワン○ース読んでたら、マグマ使いは悪人だってなおさらわかるんだよね」
何の話?
「しかし、ジュニアくんはこれから火山エリアへ行く必要は……ない!」
なんで!?
いきなり言い切られた、次の試練へ行く必要、ないって!
なして!?
まさか『お前はここで死ぬからだ』とか!?
「それこそマンガみたいなこと言わないよー。次の試練の場所に行く必要がない、その理由……、それは……」
それは?
「試練の方が向こうからやってくるからでした」
へえ……どういうこと?
なんか……ドドドドドドドド……と地鳴りのような音が……。
……こっちに近づいてくる?
なんだなんだなんだ!?
急に怖くなってきた!?
「ひぃいいいッ!? 何かが迫ってくるのだ! 本能的な恐怖を感じるのだぁあああああああッ!?」
ヴィールすらもビビらせる、この迫力。
本体が視認できない段階でこれだ。
しかし……確実に間違いない。
何かがこちらに迫ってくる。
ドドドドドドドドドドドドドドドド……!
なんか土煙が見えてきた!?
アレを濛々吹き上げるくらい凄まじい勢いのものが、こっち迫ってきてるってことだよね、やっぱり!
……あー、段々近づいてきて視認できていた!
人だ!
しかも数十人が群れとなって固まっている集団だ!
それが全力疾走に近い速度で駆け迫ってくる!?
あんな数が一丸となって爆走していれば、地響きだってするし土煙だって上がる!
一体どんな一団さんだ!?
観光ツアーか!?
「やあハニー! やっと再会できたね!」
はあッ!?
カトウさんが急に口走った!?
さらに応えるように土煙の一団から……!
「ダーリン! 二時間ぶりの再会! 長い別離だった!!」
というのは土煙の一団の中で、一番ガタイのよい一人が言う。
他個体よりも二回り以上は大きく、まさしく群れの長と言わんばかりの風格だった。
「紹介しようジュニアくん! 彼女こそが僕の生きる希望! 一生をかけて共にいる連れ合い! マイワイフ!!」
「やだもうダーリンったら! そこはS級冒険者のピンクトントンと紹介すべきでしょう!」
またしても現れるS級冒険者ッ!?
しかも現れ方から立ち居振る舞いまで、すべてが異様!?
だって女の人……? 女の人であるのはわかるが、あまりにも体格がよすぎて圧倒される。
背も高いし肩幅も広いし、胸板(?)も厚い。
僕が知る中で、同じぐらい体格のいい人といえば、それこそアロワナおじさんやナーガスおじいさんになってしまう。
それぐらいご立派な体格の女性が、迫ってきたら本能的な怯えを感じてしまう。
「今日はジュニアちゃん、大きくなりましたねえ」
しかもその巨漢……巨漢女? 冒険者は想像以上にフランクに接してくる。
威圧的な外見に友好的な態度……脳が混乱する!?
「S級冒険者のピンクトントンと申します。こう見えてもウチの人の次に長くやっていることになりまして。結婚して子どももいるって言うのにはしゃいじゃって恥ずかしいわぁ」
「かーちゃん、おれもおぶってー」
「四歳にもなって何言ってるの!? 自分で走りな! 弟や妹の前で恥ずかしくないのッ!」
そういえばピンクトントンさんとやらと一緒になって駆け迫ってきた集団。
その全員が年端もいかぬ子どもだった。
最高でも十歳ぐらいで、それ以下の子どもらがわらわら……。
えっと、これは……?
託児所など開いてらっしゃる?
「あらいやだ、これでも皆私がお腹を痛めて生んだ、ダーリンとの愛の結晶ですわよ」
「僕の生きる意味だよ」
えええッ?
でも二十人はいますけど!?
「何故かウチのワイフは双子三つ子を生むことが多いんだよね」
「私の獣人としての因子が関係してるんですかねえ? でもだからって回数も多くないと、こんな大家族にはならないんだけどッ」
「はっはっは、ウチの奥さんは魅力的だから!!」
カトウさんまでさっきまでとキャラが変わってくる。
一体何ごとが起きているのか理解不能だった。
「S級冒険者ピンクトントン。現役の中ではブラウン・カトウに次ぐ古参で、冒険者ギルドを引っ張るツートップの一方。冒険者になる前は傭兵という異色の経歴の持ち主で、それゆえに正面切っての戦闘力は冒険者の中でもトップクラス。イノシシの因子を宿した獣人として、繰り出されるパワーは最強。かつてはサイクロプスを絞め殺したなどという逸話を持つ……!」
うわぁ、何!?
急に数十人いる子どもの一人が語りだすから何かと思った!?
「解説ポジか!? データキャラだな!?」
何故か沸き上がるヴィール。
「やぁーん、ウチの子は賢いねえヨシヨシヨシヨシヨシヨシ……!」
「末は博士か大臣か……! よぉしウチの子が大統領選挙に出馬してもいいようにパパ頑張って今のうちからお金貯めておくぞー! クエストの数増やすぞぉー!」
そしてS級冒険者夫婦は、二人揃って親バカを発揮していた。
「そしてブラウン・カトウとピンクトントンの二人は現役の夫婦冒険者としても有名。大体の女性冒険者は結婚妊娠を機に引退することが多い中、ピンクトントンは毎年のように出産しながら育児と同時並行で冒険を行い、数多くの成果を上げている」
「そうだねえ、正解だねえ、偉いねえ!」
僕は何を見せられているんだろうか。
たしかによく見たらピンクトントンさんは背中にまだ小さな赤ん坊を五~六人は背負っていて、肝っ玉お母さんモードだ。
しかし二十人強って……ウチの家族より多いぞ。
ウチも大概、大家族だが、さらに上がいたということか……。
「僕もこんな臆病な性格だから、最初は責任感に腰が引けて逃げようとしたんだけれど。聖者くんたちに叱られてやっと勇気を持てたんだ。今では、あの時逃げなくて本当によかったと安堵しているよ」
「どんなに怖がっても最後には立ち向かってくれるって信じていますよ。だってアナタは私が認めた人なんですから」
「ハニー……!」
「ダーリン……!」
うわわわわわわわわ……!?
人前で熱いキッスを交わすな!? 子どもらの見ている前で!?
この夫婦熱い!?
ウチの親もいい歳しながらアツアツだと思っていたが、この夫婦輪をかけてアツすぎるッ!?
「僕らも聖者くんの一家にはかなりお世話になったからねえ。特に聖者くんには先輩パパとして相談に乗ってほしいことが山ほど……。子ども相手にどれだけオタ芸しても許されるかとかねえ」
「私もママ先輩としてプラティさんに大変相談に乗ってもらって……その恩を返すためにも、今日こうしてジュニアさんの試練に参加させていただいたんですよぉ」
そんなわざわざ!?
ご夫婦揃って!?
「先回りして、火山エリアの番人さんにお願いして試練役を交代してもらいました。ちゃんとわかっていただけましたよぉ」
とピンクトントンさんは握り拳を突き出しながら言った。
そのいわくありげなジェスチャーは何?
「というわけで、私から最強の試練課題を出させていただきますよ! その内容は……!!」







