1530 ジュニアの冒険:勝つよりも有益
S級冒険者ブラウン・カトウさん。
その実力は本物。
最古参として生き残り続けてきただけはある。
生き残ってきたことには、理由があるんだ。
「どうやって……どうやれば勝てるんだ……?」
僕の能力『究極の担い手』をもってすれば、相手に触れるだけで勝つことができる。
しかし、そんな激ユルな勝利条件すらカトウさんは満たさせてはくれない。
すべてはあの、あまりに優秀な危機察知スキルと、長年の修羅場で培われた身のこなしによって。
若僧の僕は、あの達人に触れることすら叶わない!
「挫けてんじゃねー! ジュニア! 気力で押されたら終わりんこなのだー!!」
ヴィールからの厳しい檄が飛ぶ。
「よく考えてみろ! 触れなきゃ相手を倒せない、勝てないのは向こうだって同じだ! アイツはテメーから逃げ回ってるだけだぞ! これじゃあ勝負はつかないのだ永遠にー!」
なるほどたしかに!?
言われてみればカトウさんの能力は回避……自己防衛に特化していて攻撃についてはあまりに無力。
こちらの決め手を削ぐが、向こうにとっても決め手はなし。
逆に、あっちからどうにかしようと触れてくれば、その時こそ反撃のチャンス。
『攻撃の瞬間にこそ隙が生じる』父さんが言っていた、ゲーム中に。
「フフフフフフ……、一瞬に賭けてのカウンター狙いと言うわけかい?」
不敵に笑うカトウさん。
「しかし重大な事実を忘れてはいけない。僕がS級冒険者であるという事実を」
? どういうことだ?
そんな実に基本的なこと……S級冒険者の凄まじさは今まさに骨身に味わっている最中だが?
「いや、キミはまだS級冒険者の真髄を味わってはいない。……こういうことをね」
そう言ってカトウさんが、懐から取り出した……何?
何だアレ?
「何らかのスイッチ? リモコン? 無線式コントローラーなのだ?」
ヴィールも戸惑うその物体は、手のひらに収まる程度の大きさにボタンがついた、なるほど何に使うのかまったくわからぬ、まったくわからなかった。
マジ何?
ただ、ボタンがついている。
それ以外特筆すべきところがない。
「では、このボタンを押すとどうなると思う?」
「?」
「ポチッとな」
「? ッ!?」
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?
全身に!? 全身からビリビリがッ!?
僕の全身からビリッとした衝撃と、それに伴う痺れが!?
「ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ……」
ギャヒィイイイイイイイイイッ!?
連動しているッ!?
ここまで連続されたら嫌でもわかるッ!?
カトウさんがボタンを押しているのと、僕の体に衝撃が走るのはまったく同時!
つまり、僕の体に異常を引き起こしているのは紛れもない、あのボタンの仕業だ!
「驚いたかい? これぞ神秘アイテム、イライラ電流ボタンの能力!」
イライラ電流ボタン!?
「このボタンを押すと、任意の対象に電流を流すことができる。いかなる接触も必要ない。押すだけでダメージを与えることができる簡単便利なアイテムさ!」
すると……、それさえあればカトウさんは、僕に対して触れずにダメージを与えることができる。
ボタンを押すという最小限の動作で。
これじゃあ反撃の隙など生まれようもない!
「ズリーぞ、そんなビックリドッキリメカ出してきて! どこで売ってるのだー!?」
「売ってないよ非売品さ。僕が、とある五つ星ダンジョンを攻略した末に、その奥底で見つけたマジックアイテムだ」
ダンジョンで、見つけた?
「そう、それこそがS級冒険者の真の恐ろしさ。冒険者の頂点と認められるまでには、それこそ数多くの……それでいて厳しい困難を、乗り越えなくてはならない。それら困難を達成した証は、こういう形でも蓄積されていくものさ」
カトウさんが、S級冒険者に至るまでの道のりで踏破したダンジョンでの成果物。それらもまたカトウさんの力となって生きている。
カトウさんの元から持っている力、経験で培った力、それらを補える機能を持ったアイテムだって……。
うぅッ、実際イライラ電流ボタンを装備したカトウさんは完全無欠だ。
相手に触れることなく、ただボタン一つで相手を攻撃できるアイテム。そんなお手軽な動作で、彼の完成された回避態勢が崩れようもない。
自身のスキルと、鍛え上げた体捌きで確立された完全回避能力に、あのマジックアイテムは唯一の突破口となりうる穴を塞いでしまったんだ。
これがカトウさんの恐ろしさ。
ただスキルの引きがいいだけじゃない。
ここに至るまでに築き上げてきた実績。
それこそがS級冒険者を最高たらしめる要因だったんだ。
「さあ、どうするねジュニアくん? もう勝てないと諦めるかい?」
カトウさんは、僕の回りを優雅に動き回る。
常に止まらず移動するお陰で、益々彼を捉えきれなくなる反撃の隙を逸してしまう。
「そうして攻めあぐねる間に、ポチポチポチポチポチポチポチポチ……」
「あぎゃあああああああああッッ!?」
ビリビリッ! ビリビリが来るッ!?
地味なように見えてなんと隙のない、最強無敵の布陣かッ?
僕がここまで追い込まれたこと……かつてなかった気がする。
「心が折れたかい? 自分の力が及ばないと認めてしまったのかな? でもね、それこそが間違いさ」
……えッ?
「たしかにキミの能力は最強だ。その能力をもってすれば、どんな相手にだって勝てるだろう。しかしだからこそキミは大切なことを見失っている。能力を磨くことよりも勝つことよりも大切なことを、ね」
カトウさんは、僕の回りを飛んだり跳ねたりしながら言う。
勝つことよりも……大切なこと……?
「キミのお父さんこそがいい例だ。キミのお父さんはゼロから農場を築き上げ、多くの仲間に囲まれ、神にすら認められ、国を治めるまでになった。……しかし、それは勝利の末に勝ち取ったものか? 違うはずだ」
そう、違う。
父さんはそんな乱暴なやり方でここまで来たんじゃない。
毎日毎日、同じことを繰り返して、地味だが着実に堅実に、時には失敗して大変な目に遭いながら。
そうやってたくさんのものを築き上げてきたんじゃないか。
「その聖者くんの後継者であるキミが、雑にすべてを勝ち取るようなやり方ですべてを手にしてしまっていいのか? 実際キミの能力は、それを可能にできるほど強力だ。でもできるからって簡単に選んでしまっていいのかな?」
たしかに、僕の『究極の担い手』は強力で、ずっと頼ってきた。
強力な力に頼るあまり、僕は常に『どうやって勝つか』を考えてばかりになっていた。
父さんは……勝つことなんて少しも考えていなかったのに。
父さんのあとを継ぐ者として、それでいいのか。
勝つこと一つだけが、万事を解決する方法なのか?
「思い至ったようだね。勝つことだけが解決の方法じゃない。それに気づいてくれたら。この試練は乗り越えたも同然だ」
カトウさん!?
アナタはそのために、僕と戦って……?
「いいかいジュニアくん。争って勝つということは、実はこの世でもっともイージーな問題解決の方法なんだ。しかもキミが持って生まれた能力が、そのイージーな手段を益々イージーにしている。でもそれで、キミが戦って勝つことばかりを考える人間になってしまってはダメだ」
そうだ、父さんはそんなことして来なかった。
いつだって皆で力を合わせて、知恵を絞って工夫して、ここまでやってきたんだ。
僕の旅は困難の連続で、僕のことを鍛え上げてくれたけれど……。
その一方で、こんな大事なことを忘れかけてしまっていた……。
カトウさんのお陰で思い出すことができた!
「そうだぞー、ご主人様はなー偉大なんだぜー!!」
ヴィールも同意していた。
「でもジュニア! 大事なことに気づいたのはいいが、結局そこのオッサンを倒せない状況に変わりないのだー?」
「オッサン!? 誰が!?」
たしかにヴィールの言う通り。
戦って勝つ以外にも大事なことがあると思い出させてくれたのは有難いが、試練としてはそれでいいのか。
「大丈夫だよ、キミの勝利はもうすぐ確定する」
え?
次の瞬間、僕の周囲を飛んだり跳ねたりして動き回っていたカトウさんが、止まった。
「あー、疲れた」
「スタミナ切れになってるのだー! やっぱりオッサンだーッ!!」
僕からの攻撃を回避するために動き回っていたカトウさん。
しかし動いていれば消耗するのは道理。
動けなくなれば、僕からの攻撃にも対応できなくなる。
もしかして……カトウさんに勝つには、スタミナが切れるのを待ってるだけでよかった!?







