1529 ジュニアの冒険:触れず当たらず
突如勃発。
現役S級冒険者ブラウン・カトウさんvs僕。
in最高ダンジョン『聖なる白乙女の山』。
ノーライフキングと戦うことばかり念頭に置いてきた僕だから意表を突かれたのはたしか。
しかしいつまでも動揺しているほど、僕の歩んできた旅路は長閑なものではない。
「頑張れジュニア! 背骨を三回折って殺すのだー!」
ヴィールからの声援を受けて、僕は速やかに勝利へ向けての活動を開始する。
やることはいつもと同じ。
相手に触れる。
そうすれば『究極の担い手』が発動して相手の潜在能力をゼロに、自分の潜在能力を最大限にして一気に組み伏せることができる。
だったらなんでそんな便利なこと、前戦の岩壁さんにやらなかったのか?
怖くて触れられなかったからだよ。
あの巨大ハンマーにも岩壁さん本人にも触れた瞬間、手首から肩辺りまでの骨が粉々になって砕け散りそう。
しかし失礼ながら目の前のカトウさんには、そんな恐怖も不安もない。
申し訳ないが一手にて決めさせてもらう!
行くぞッ。
スカッ。
あれ外した?
じゃあ次こそ……。
そいやッ。
カスッ。
また外した!?
ならば当たるまでッ!
えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい!
スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ!
なんでッ!?
まったく掴めない!? カトウさんに触れることができない!?
「いやぁ参るなあ。男に触られて喜ぶ趣味はないんだがねえ」
向こうは軽口を飛ばせるほどに余裕!?
くそッ、こうなったら何が難でも触れて……!
「キャー、チカン」
だから違いますって!
それでも僕はやってない!
「ジュニア冷静になるのだ! ここまでやって掠りもしないということは、何か秘密があるってことだ!」
ハッ!?
ヴィールの言う通りだ。アイツ本当にやろうと思えば的確なアドバイスができるんだな!
カトウさんは無造作にヒョイヒョイかわしているが、あれほど軽妙に絶妙にできるのは何かしらの能力がなければ……あまりにも出来すぎだ。
何かしらの謎がある時、その謎を解かなければ勝利に到達つできない。
能力バトルの定石だ。
「ふっふっふジュニアくん……。キミもお父さんに似てなかなかのラノベ脳だね。では謎を解いてみるかい。『どうしてキミは僕に触れられないか?』という謎を」
ぐッ、遊ばれている。
現役最古参のS級冒険者。そんな彼からしたら僕もまだまだ若僧なのかもしれんが。
「わかったぞ! メチャクチャ速く動いているから捕まえられないのだ!」
ヴィールIQ急降下しないで。
さっきまで的確に助言できていたでしょう。
『捕まえられない』という単純な話だが、超スピードとかそんな有り触れたタネでは断じてないような気がする。
感触として得体の知れなさが伝わってくるんだ。
触れてはいないんだけど。
カトウさんのこの不可思議な体捌きにはもっと大きく、神妙なカラクリが隠されているように思える。
だって相手はS級冒険者なのだから。
「ふむ、ではそろそろ種明かしと行こうか」
ええッ!?
自分から説明してくれるんですか!?
「するよ、だってこれはジュニアくんのための指導も兼ねてるからね。真剣勝負なら相手が死ぬまで秘密にしておくけれどさ」
そ、そういうことなら……!
カトウさんの、手のひらで転がされている感覚が凄い?
「ジュニアくんも聞いたことがないかな? 僕ら異世界から召喚された人たちは皆、スキルというものを持っている」
スキル……?
「神から授かった特殊な能力さ。神は、地上のバランスを崩さないために基本人類に肩入れできない。でも別の世界の人間なら、気遣い不用。そんなルールの隙を突くことを目的に行われたのが異世界召喚なんだ」
聞けば聞くほどヤバい話だ。
「そんなわけで僕にも神から授かったスキルがある。キミにまたく触れられずに回避できたのも、スキルのお陰だ。そこまでわかったところで紹介しよう。この僕のスキルは……!」
S級冒険者のスキル……!?
最上級の冒険者が使うんだからきっと物凄いスキルに違いない!
一体どのようなスキルなんだ!?
「……体毛が伸びるスキルだ!」
……え?
なんて?
「体毛が伸びるスキルだ!」
……。
ねえヴィール、ラーメン食べようか。
「いいぞー、今は味噌太麺がオススメなのだー」
「待って待って待って! ちゃんとしたスキルだから! 冗談とかじゃないから!」
慌てるカトウさん。
「……ま、しょうがないよね。召喚されて、スキルが判明したばかりのお城の人たちの反応もそんな感じだったし。それでハズレ枠と見なされ追放されて、野に下って冒険者として身を立てる道を進んだ僕……!」
うッ。
カトウさんにそんな過酷な経歴が。
「しかし、どん底へ落ちてそのままの僕じゃない! 見た目ダメスキルでも使いようによって逆転し、成り上がっていく!……ってテンプレが合うのは僕の方じゃない!?」
カトウさんが何を言っているのかまったくわからない。
それで、体毛が伸びる能力が一体どう役に立つとおっしゃるのでしょう?
「聞く態勢になってくれたね。体毛というのは、言ってしまえば体の表面の一部だ。そして人間含めすべての生物には触覚がある。皮膚が接触することによって感じ取る感覚のことだ。その触覚が、体毛にまで働いているとしたらどうかな?」
え?
「猫のヒゲなんかが代表的だね。猫は口の周りに生えているヒゲを通じて空気の流れやバランスまでを精密に感じ取ることができる。毛が伸びる分、皮膚に接触するよりずっと早く。僕のスキルはどうやら、体毛の伸長だけでなく感覚まで強化するようだ。だから自分に迫ってくる危険も、自分に届くずっと前に感知できる」
しかも目や耳に頼らずとも。
だってカトウさんがもっとも頼りにしている感覚は、視覚でもなく聴覚でもなく触覚なのだから。
だから僕からの攻撃にも華麗に回避できていたのか。
「このスキルとも数十年来の付き合いだからね。今ではただ接近してくるだけでなくどんな意図をもって迫ってきているかも何ともなしにわかるようになった。だから二手三手、先を読んでかわすこともできる」
それでは益々捕まえきれないじゃないか!?
たしかに一見してアホみたいなスキルではあるが、研鑽を重ねた結果こんな最強スキルにまで進化させるとは。
事実カトウさんは完全回避……による絶対防御を確立している。
野良猫が、不用意に寄ってくる人間を十歩前から察知するように。
カトウさんはあらかじめすべてを察知することができるんだ。それこそ僕が触れようと予備動作を始めた瞬間から。
それはごく単純な能力だが、それだけで僕は指一本触れることができない。
「だったら、これならどうだ!」
触れることができないなら、触れないまま倒せばいい!
僕は空気に触れていることを意識して『究極の担い手』の作用対象を、空気にセットした。
これでもって空気圧のポテンシャルを上げて、カトウさんを吹き飛ばす。
しかも空気圧は最大範囲攻撃で。
どこにも逃げ場のない面制圧ならば、動きを察知しようと関係ない。
ゴオッ!
「おおおー! モジャモジャ男が吹っ飛ばされたのだー!?」
モジャモジャって……!?
たしかに体毛が重要な能力の人だけれど……!
空気圧に押し飛ばされて宙を舞うカトウさん。
しかし次の瞬間、ヒラリと身をひるがえして空中一回転ののち華麗に着地した。
「ええええええーッ!?」
なんて身のこなし!?
しかもダメージを受けたらしい様子が何処にもない!?
「所詮は空気だからね、全身の抵抗を抜いて流れに身を任せれば、そうそう傷を負うことはないよ。脱力して脅威をいなす系の体術は、随分前に修得済みさ」
能力だけじゃない。
カトウさんの完全防御は、驚異的な危機察知能力に加え、長年の経験によって培われた身のこなしによって完全となっているんだ。
才能と努力。二つを合わせることで成立し、どちらが欠けても成立しない。
最強の力。







