1528 ジュニアの冒険:茶色い乱入者
S級冒険者ブラウン・カトウさん。
その名は聞いたことがある。
世界を股にかける相互扶助組織、冒険者ギルド。
その組織は冒険者をバックアップし、その利益を最大限確保するためにある。
その活動の一環として冒険者を格付けし、実力実績に応じて高い等級を与える。それによって各冒険者が実力違いのダンジョンに入って無為に傷つくこともなくなった。
その冒険者等級の頂点に立つのがS級。
F級→E級→D級→C級→B級→A級のさらに上に立つSUPERの頭文字をとってS級だ。
そのS級にまで昇給するには数多くの苦難と輝かしい実績、それに加えて優れた人格も必要とされる。
厳しい条件をクリアしてS級の称号を与えられた冒険者は、全数万に達する冒険者の中でもたったひと握り……。
……五人しかいない。
その五人のうちの一人がブラウン・カトウさん!!
「やあやあジュニアくん、しばらくぶりで大きくなったねえ」
この人も僕を知っている!?
物心ついていない時のパターンだッ!?
「あら、知らない僕のこと? まあキミが物心つく前のことだったからね。そんなこともないか?」
どっちだ!?
ただ昔のこと過ぎて僕が忘れてるだけかも。
「そうだねえ、十年前といえば僕ら四十代にとっては人生の四分の一だけれど、キミたち十代にとっては人生の半分以上。時間の重みが違うからねえ」
『ノーライフキングの私たちから見れば十年なんて瞬き一つですよ』
倒されているノーライフキングの方も、倒されながら呟いている。
なんだこの気楽さ。
『このS級冒険者のブラウン・カトウ殿は、今では獣人が主要となっているS級冒険者の中に唯一、ただの人類として食い込む異色の存在。しかしよくよく関わってみるとただの人間でもないのが、このブラウン・カトウさん』
ブッ倒されながら、よく喋るノーライフキングだなあ。
さすがはタフさというか……不死性がウリのアンデッドの王。
『彼は、異世界から召喚されし異世界召喚者だったのです!!』
「な、なんだってー」
カトウさん当人が驚き役に回らないでくださいよ。
何なんだこの二名。
『異世界召喚は、かつて人族魔族が戦争していた時代に戦力補強として人族が用いた秘術。……いや、禁術というべきもの。まったく無関係の異世界から、本人の意思も無視して否応なしに呼び出されるのだから』
「無関係の異世界から否応なしに呼び出された者です」
『私はノーライフキングです』
なんだこの漫才調。
『そんな中、異世界からこちらへ呼び出され、冒険者として大成したのがこのカトウさん。他のS級冒険者が獣人として並外れた身体能力を持ち、対して人並みの力しかないカトウさんは、召喚時に与えられたスキルだけを頼りに渡り合ってきた。恐ろしい御方です』
「はっはっは、それほどでも」
あのぅ!!
そろそろいいでしょうか!?
カトウさんが何者かも、冒険者としてどれだけ凄いのかも、ご説明いただきありがとうございます。
でも、ここはアレキサンダーさんが支配するダンジョン。
その周辺エリアで、中ボスが待ち受ける場所。
そこで何故、まったく関係のないS級冒険者のカトウさんが待ち受けてるんですか!?
「それはもちろん、僕が乱入したからだよー」
乱入!?
そんなイレギュラーな行動を、この人柄がよさそうな御方が!?
「僕もこう見えて、見た目通りじゃないってことだよー」
『大人しそうな者ほど、いざという時にものですなー』
ははははは、と笑い合うS級冒険者とノーライフキング。
だから何この空間は。
「だって僕も、是非ともジュニアくんにご挨拶したいと思っていたんだもの。でも折悪く王都ではニアミスで会えなかったからさ。なのでチャンスは自分で作るべきかと」
それで、ここダンジョンの試練に乱入したと言うんですか!?
『しかしここ熱帯山は八傑衆が一人、このノーライフキングの密林が守るエリア。我が誇りに懸けて番人の座を、横入りさせるわけにはいきません。どうしてもというなら力づくで奪ってみなさい』
「というわけで勝負して勝ちました」
『負けたー』
ノリが軽い!?
そんな感じで番人交代できるんですか!?
『力ある者の意が通る。それこそが冒険者の摂理ですからね。私も生前は冒険者として名を馳せていた。よってノーライフキングとなった今も冒険者の流儀に従うまでです』
「でも最低限の礼儀は通そうね、人として」
『ねー』
勝負して……勝った?
八傑衆に……ノーライフキングを相手に?
S級冒険者が全冒険者の頂点に立つ強者とはいえ、種を越える超越者ノーライフキングにサシでやって勝てるもの!?
「うーむ、さすがカトウだな。衰えなしなのだ」
ヴィールが共感している!?
そこまでのもの!?
『では、敗者は語らず去るとしますかね。栽培中のスーパー・ラフレシアに水やりをする時間ですし』
「うわぁ、名前からして激臭がしそう」
『ああ、ジュニアくんでしたね。私の所持するアマゾンバッジはカトウくんに預けてありますんで、彼に勝ったら受け取ってください。それでは』
そうして、ここ担当のノーライフキングは去っていった。
身を引く瞬間に、周囲の熱帯植物が体を覆ってあっという間に消え去っていくところに凄味を感じた。
そして残った二人(と付き添いドラゴン)で対峙することになる。
正直事態についていけない感は否めない。
まさか、ここに来てノーライフキングとは別の存在と相対することになるとは。
あの……カトウさん?
「はい、なんですか?」
そんな丁寧に応えられても。
改めて、何故ここでの対決となりましょう?
機会なら他にいくらでもあるかと存じますが?
「だって、ここがジュニアくんの旅の集大成なんでしょう? ならば僕も、キミのお父さんの盟友として参加しないわけにもいかない。彼の息子であるキミを鍛え上げることで、彼から受けた恩をしっかり返さないとね」
父さん、色んな人から恩義を感じられすぎ!
そんなにも他種様々な分野から慕われ、助けられる対象の父さん!
偉大さに身が震える!
「ご主人様は凄いからなー」
ヴィールが誇らしくなるのも致し方なし!
「個人的に恩義があるだけでなくね。キミのお父さんである聖者くんとは同郷なんだ。だからこそ益々他人とは思えなくてね」
同郷!?
でのカトウさんは、異世界から召喚されてきた何やらと?
すると……!?
「そう、キミのお父さんこと聖者くんも異世界の生まれさ。召喚されてこの世界へやってきた」
そういえば天界で出会ったヘパイストス神も同じことを言っていた。
「僕もキミのお父さんも、見知らぬこの世界で懸命に生き抜いてきた。その想いを共有できる人間はなかなか貴重でね。だからこそ協力できるところは極力していこうという気分になるのさ。さらに冒険者ともなれば、先輩として指導もしてやりたくなる」
「お前、そんな精力的なキャラだったか?」
「やだなあヴィールさん。僕だって月日が流れれば性格も変わりますよ。特にS級冒険者としては、いつの間にか現役で最古参になってしまいましたからね。こう見えてよく任されるんですよ、後輩の指導。もうすっかり手馴れちゃって」
貫禄たっぷりに話すカトウさん。
「シルバーウルフさんもゴールデンバットさんも、まだまだ体も動くのにさっさと引退してしまうんだもの。お陰で現場の負担が全部こっちに来ちゃって、困るよねえ。ははははははは……」
つまり、このカトウさんこそが現役の最前線にもっとも長く居続ける猛者ということ。
単純な強さとか、賢さとかとはまた別の、凄味のようなものをキャリアから感じさせる。
「というわけで新米冒険者のジュニアくん。キミの心がまえ、能力……。僕から口出しできることがあればガンガン出させてもらうよ。キミが、聖者くんの後継者に相応しい男になれるようにね」
ここ『聖なる白乙女の山』。
攻略のためにノーライフキングとの八連戦を覚悟して進んだら、まさかの現役S級冒険者との対決になるとは。
しかも相手は、父さんと不思議な共通点のある異世界召喚者ブラウン・カトウさん。
この勝負が、僕にどんな影響をもたらすか。
まったく予測不可能だ。







