1526 ジュニアの冒険:質量vs質量
『ぐりゃあああああッ!! この八傑衆一人である岩壁の! 猛攻に押し潰されるがいい!!』
押し潰されようとする僕!?
それもそのはず、もはや僕に襲い来るのはノーライフキングというよりも、音の速さで迫ってくる岩塊(特大サイズ)だ。
しかもオラオラのペースで、途切れることなく。
まるで巨石の雨……しかも豪雨……を相手にしているかのよう。
そして“岩山”と名付けられた、この岩だらけのエリアだと世界そのものに襲われているかのようだった。
僕も覚えたての光の刃でなんとか凌ぎ防いでいるが、お陰で防戦一方に追い込まれていた。
攻勢に転じようとした意気空しく。
防御に全力を注がなければ防ぎきれないのだった。
「ジュニア、後ろにも気を付けろ!!」
ヴィールからの檄が飛ぶ。
「大岩があるのだ! このままじゃ追い詰められるぞ!」
くッ。
たしかに大岩に阻まれたら後退できずに追い詰められる。
今だって大石ハンマーラッシュを完全に凌ぎきれずにジリジリあとずさっているのだから。
さすがにこの大石の雨に打たれながら、その場に踏みとどまれる自信はない。
アドバイス有難しと大きく跳躍。
背後にあるという大岩の上にちょうど着地できたが……。
『しゃらくさい!』
岩壁さんのハンマーが、その大岩に叩きつけられて打ち砕いた。
粉々に粉砕。
その息つく間もなさは、極めて自然に大岩を処理するのだった。
大岩の破片と共に吹っ飛ばされる僕!
「ひえぇえええええええッ!?」
『飛ばされている間は無事だなどと思うなよ!!』
岩壁さんが跳躍して迫ってきた!?
あんな大きな得物を持ちながら大ジャンプできるの!?
『ジャンプ対空!』
「ぐわっぷ!?」
咄嗟に光の刃で防御するものの、その上からクリーンヒットしさらに宙を舞う。
羽根つきの羽根にでもされたような気分だった。
『終わったなあ! 空中無限コンボを食らえ!』
そうは行かなの焼きハマグリ!
僕は『究極の担い手』の作用先を空気に向けると、空気に触れて空中浮遊をする。
『なにッ!?』
それによって空中での軌道を変え、なんとか岩壁さんの連撃から避けることができた。
「いいぞジュニア! あのままだったらあの大槌でリフティングされ続けて原型が残らないところだったのだ!」
ヴィールの解説通り。
岩壁さん、人が空中では動けないのをいいことにハンマーで跳ね上げ続けてハメ殺す目論見だったようだ。
恐ろしい。
空中飛翔の技を身につけていなければ、あそこで負けていただろうな。
不死山でのベルフェガミリアさんとの手合わせで編み出した技だが……修行の成果は出ている。
やはりここ『聖なる白乙女の山』に来るのを最後にしたのは、よい判断だったようだ。
『ぐわっはっはっはっは! 空を自由に滑空するとは滑稽な人よ! アレキサンダー様に挑もうというのだから、それぐらいのかくし芸がなければな!』
ノーライフキングの岩壁さんが、自慢の大槌を肩に担いで笑う。
……あの大石ハンマーは想像以上に厄介だ。
持ち主を遥かに超える体積、そして質量。
あれだけ大きければ、それだけで回避は不可能だし、防御はもっと困難。
しかもただ巨大なだけじゃなくて硬くもあれば、とにかく速い。
あんな大質量が疾風迅雷で襲ってくる。
その恐ろしさが骨身に染みたところだ。
向こうは骨身しかないけれど。
『なんだ? ワシの恐ろしさが骨身に染みたが、ワシには骨身しかないと思ったか!?』
心を読まないで。
『はッ、死んで骨しか残らぬのはノーライフキングのさだめよ。ワシは先生や老師ほどに徳を積んではおらぬからな』
「えッ? 死体モドキの肉部位って、徳の高さで残量が決まるのか?」
まあ、たしかに先生は白骨死体というよりはミイラって感じで多少のお肉は残っているが……!?
『さて、散々殴られたところで、そろそろ降参しておくか小僧?』
岩壁さんが聞いてくる。
あの悪夢のような猛攻は一時収まったが、それを聞くためだったか。
『ワシらは別に、「お前を抹殺せよ」という命令は受けておらぬでな。命まで獲るつもりは毛頭ない。力が足りぬと感じたら山を下り、己を鍛え直してくるもよかろう』
岩壁さんを含めた八傑衆は、最強ドラゴン、アレキサンダーさんの忠実な部下。
圧倒的人間の味方であるアレキサンダーさんの意を汲んで、人の命をとろうとはしない。
だからこそ優しさを前面に出して、成長を促す方向で僕に後退を進めているんだろうが……。
「まだまだ勝負は始まったばかりですよ」
僕がこの旅で学んだことの一つ……。
今ある全力を出し切らずして、現状からの成長はない、ということだ。
『ぐわっはっはっはっは! その意気やよし! このようなヌルい時代にも骨のあるヤツはおるようで安心だわい! ワシには骨しかないがな!』
ここでノーライフキングジョーク。
『では再び食らえ! このノーライフキングの岩壁による、篠突く巨岩のスコールを! どの道この猛攻をしりぞける手段なくば、お前に勝ち目はないぞ!!』
それがまったくないのが問題。
覚えたての光の刃では防御が精いっぱい。それ以外で巨岩をはね返し、岩壁さんの本体へ攻撃を届かせる方法は、僕の手札にはない。
これ詰みじゃね?
いいや、まだまだだ。
人は持ってるカードで勝負するしかないというが、今の持ち札で岩壁さんに通じるカードがないというなら、カードを作ればいいのだ。
ストームアクセス!
ウチも父さんも常々『ないものは作ればいい』と言っている!
「そういう意味合いだったか!?」
岩壁さんの戦いは、純粋なる質量と体積によるゴリ押し。
こっちも同等の質量と体積なくして対抗できない。
ならば……!
「こうすればいいんだあああああああッッ!!」
『なにぉ!?』
僕は、その辺に転がっている大岩を持ち上げた!!
ここは“岩山”と名付けられるエリア。
だからこそ大小の石や岩が、そこら中に転がっている。
その中には、岩壁さんの持っている石ハンマーに匹敵するサイズの大岩がある。
それを選んで持ち上げただけだぁああああッ!!
『ふッ……ぐわっはっはっはっは!! 大岩には大岩で対抗というわけか!? なかなか剛毅な発想だわい! 今までここを攻略しに来た冒険者でも、そんな方法で対抗しようとしたヤツはおらなんだぞ!』
「そもそも大岩を持ち上げられるヤツがなかなかいないのだー」
『たしかに!』
この怪力も『究極の担い手』でなんとか捻出しているのですが。
『しかし考えの詰めが甘いと言わざるを得ぬな。大きささえ揃えれば我が岩槌と同等などと思うなよ。この槌にはワシの血と汗と想いがこもっている。その分の密度は、ただの石とは比べ物にならん!!』
岩壁さんの言う通りだろう。
同じ体積、同じ質量の岩なら、岩壁さんのハンマーと自然石では、それこそダイヤモンドと豆腐くらいの高度の差がある。
『その差がわかっていてなお策を変えぬというのなら。無謀と勇気をはき違えるような輩を冒険者とは言わぬ!!』
襲い掛かってくる岩壁さん。
威圧感がその体を何倍にも大きく見せる。手に持つ巨大ハンマーをも。
巨大を拡大で、それこそ推し量り切れない巨大さだ。
しかし、こっちだって無策で挑むわけではない!
こっちだって大岩アタック!
大岩と大岩がぶつかり合って、境目から火花を散らす。
押されては押し戻し、押し切ろうとする寸前に押し戻されるの一進一退。
『なんだと……バカな!? ワシの血と汗と涙の結晶が、ただの自然石を押しきれぬだと……!?』
信じがたいものを見るような岩壁さん。
アナタもまだまだ観察眼が甘いですね。
これはただの自然石じゃない!
僕の『究極の担い手』で潜在能力を限界以上まで高めた大岩だ!!
しかも、ただ潜在能力を高めただけじゃない。
限界以上に潜在能力を高めるにしても、どこまで高めるかは僕のイメージで限界地が決まる。
つまり僕の想像以上に力は上がらないのが『究極の担い手』の仕様だった。
しかし今、岩壁さんの恐ろしいまでの巨岩攻撃を受けて、僕の想像力は広がった。
想像以上を目の当たりにすることで、僕の想像力は上限を突破する。
今、この自然石は『究極の担い手』の効能で、岩壁さんのハンマーに迫る威力を持つ。
この切り札でもって……押し切る!!
『ぐおおおおおおおおおッ!?』
一瞬の差が勝機となった。
大石ハンマーごと岩壁さんをフッ飛ばして……僕、勝利!!







