1525 ジュニアの冒険:仕切り直し
『ごべッ!? ぶふぅ……! まさか出会い頭にドラゴンをけしかけてくるとは、想像以上のえげつなさよ。アレキサンダー様が目を懸けるのも頷けるわい!』
よかった生きてた!
ノーライフキングだから生きてるかどうかというのも変な話ではあるのだが。
ヴィールのドラゴンプレスを直撃くらえば、消し炭になってもおかしくないのに、ちゃんと存続しているしぶとさはやはりノーライフキング。
超越的な存在というのが一目でわかる。
『しかしこの八傑衆が一角……岩壁は、ドラゴンが相手であろうと怯みはせぬ! まとめてかかってくるがいい!』
いやいやいやいやいやッ!
かかるのは僕一人です! さすがに十割ヴィールに手伝ってもらったら僕の試練になりませんので!
彼女はそう……ツッコミ役です!
殲滅系ボケな彼女ですが、なんとビックリ! 必要とあらばツッコミもこなすんです!
『そ、そうか……今どきは冒険者も複雑なのだな。ワシの生きていた時代はそうでもなかったが』
と威儀をただすノーライフキングの岩壁さん。
したたかやられはしたものの、戦意は萎えるどころか益々血気盛んに僕らを見据える。
『ほう……おれ様を相手に一歩も引かんとは、アレキサンダー兄上にシッポ振ってるくせにドラゴンが怖くないのか?』
『ドラゴンだから従っているのではない。我々はアレキサンダー様だからこそ心酔し、死してもなお忠誠を捧げているのだ』
キッパリと言い切る岩壁さん。
その覚悟ぶりには圧倒される。
僕がこれまで見てきた中でも、特に変わったノーライフキングだな。
ノーライフキングは通常、魔術師だったり神官だったりが高い知識と魔力を求めて、まっとうな人の命を捨て去ってなるものだ。
だから今まで出会ったノーライフキングは大抵が魔導士ベースで、直接攻撃苦手です、戦わずして勝ちます、みたいなキャラだった。
そして今日、出会った岩壁さんはその真逆。
『殴ってから考える』『レベルを上げて物理で殴る』と言わんばかりの風体だ。
八傑衆という方々は皆そうなのか?
『フッ、当たり前よ。我ら八傑衆はほとんどの者が、自分の力でノーライフキングになったわけではないからな』
「え? じゃあどうやってなったんだ?」
人間モードに戻ったヴィールが尋ねる。
『アレキサンダー様よ。アレキサンダー様のご慈悲によって我らは死なぬからだを得たのだ。ワシもまた、一回の冒険者であった頃はな……』
あッ、これは昔語りに入る?
『ワシがまだ、刺せば殺せる体であった頃。冒険者としてもそれなりに活躍し充実していた。しかし人間国全体で見れば不穏極まる時代だった』
「まあ歴史的にはそうだろうなあ」
百年、二百年前の人間国はまだ王制で、王族やら教会やらがやりたい放題好き放題やってた時代。
そのしわ寄せは庶民へと来て、厳しく過ごしにくい時代だった。
魔族との戦争も続いていたし危険でもあった。
『そんな中、ワシの生まれた村は辺境にあって貧しかった。その上近隣にダンジョンがあってな。地元の貴族が素材を独り占めするくせにロクな管理もせんからモンスターが溢れ出て、村は常に危なかった』
そんなヤバい村なら皆で脱出しないんですか?
『できなかった。税収を気にする領主によって移動を禁じられていたし、脱出したところで別の安住の当てもなかったのでな。危険を隣り合わせながらもその地で生きるしかなかった』
そんな理不尽な。
今の時代では考えられない。こんな厳しい時代を潜り抜けての今日があるんだなあ。
『ある日……管理不足のダンジョンがついに均衡崩壊を起こし、大量のモンスターが噴出し周囲に広がっていった。スタンピードだ。ワシの故郷の村も影響範囲に入り、村は崩壊、村人も全滅になるかと思われた』
そ、それで?
全滅は免れたんですか? ですよね?
『ワシは命を捨てて村を守った。この命尽きるまで村に入ろうとするモンスターを一体残らず叩き潰そうと。しかし所詮人間の力ではモンスター千体も潰せば精魂も尽きる。対して村へ殺到するモンスターは一万を越える。絶望であった』
え? 千?
『しかしその時じゃ! 天から純白の輝きと共に一柱の竜が降臨し、モンスターの群れを瞬く間に焼き払った! 本当に一瞬の出来事だった! ワシは、何が起こったのかわからず、しばらく呆然としていたほどだった!』
「そのドラゴンが、アレキサンダー兄上だったわけか?」
『よくわかったな、当てるなよ』
「この期に及んで別のドラゴンだったらビックリだ」
まあ他にないよね。
『アレキサンダー様は、故郷のために一人命を投げうって踏みとどまる私の姿に感動したと仰っていた。命と故郷を救っていただいたことにワシは恩義を感じ、この身命を捧げようと誓ったのだ』
「それでノーライフキングになったのかよ?」
『うむ、家令を通してノーライフキングとなる儀式を受けてな。アンデッドと成人の理から外れたワシは、すぐ故郷近隣のダンジョンへと赴き、ダンジョンそのものを破壊した』
そんなことをした岩壁さんの気持ちもわかる。
ダンジョンから産出される素材がなくなって困るのは、利益を独り占めしていたという貴族だけだし、村人さんたちにとってはまたいつスタンピードが起こるかわからない爆弾、隣にない方がいいもの。
『そんな暴挙を強行できたのもノーライフキングとなって人の法から脱することができたお陰、また一つアレキサンダー様に恩ができた。その大恩をお返しするために今でもあの御方に仕えておる。他の八傑衆も似たり寄ったり、アレキサンダー様に返しきれぬ温情ある者たちよ』
「ここまで聞いてどう思ったジュニア?」
感動した。
アレキサンダーさんはそうやって人助けしてきたのか。
その恩に報いようと人の生まで捨てた八傑衆もとんでもなく覚悟が決まっている。
ちょっとやそっとじゃ打ち崩せない、不気味さがあった。
『ではそろそろ始めるとするか。ぬしらもここへ、昔話を聞きに来たのではなかろう』
ノーライフキングの岩壁さんが、例の超ドデカい石のハンマーを担ぎ出す。
『アレキサンダー様からは、ぬしの力量を見定めろと言われている。別にそっちのドラゴンと一緒でもかまわぬが、どうするかは自分で決めよ』
もちろん僕だけで戦う。
ヴィールは見守っていてくれ。何か不測の事態が起きたら助けてほしい。
「まー、ジュニアが言うなら、その通りにするのだ」
ありがとう。
それでは……、僕と岩壁さん。
二人の視線がぶつかり合いながら……。
試合開始!
『うおおおおおおおッ!!』
先に仕掛けてきたのは岩壁さんの方から。
あのバカデカい石ハンマーを、小枝の方に軽々振るう。
「ジュニアよけるのだー! まともに受けるのは賢くないぞ!」
ヴィールのアドバイスの通り、僕は身をひるがえしてかわすが間髪入れずに続撃がくる。
岩壁さんは猛攻を繰り出し、しかも想像以上に息つく暇もない。
本当に岩壁さんは、あの大石ハンマーを軽々と振り回す。
見た目的にそれこそ巨岩のように重そうなのに。
ひょっとしたら違うのか……と、ふと魔が差し、軽く受けてみた。
「ふぐッ!?」
とんでもない。
掠っただけでもわかる、この重量。
『見た目ほど』どころか見た目以上に重い。
これなら大抵のモンスターを、蚊のように潰すことができるだろう。
重力制御か。それとも特別な製法で圧縮された大岩なのか。
どちらにしろ想像するよりずっとヤバいシロモノだった。
やはりノーライフキングとの戦いは、いついかなる時も一筋縄ではいかない。
「攻撃するのだジュニア! 人生、攻めあるのみだー!」
ヴィールのアドバイス通り、このまま守りに徹していてもジリ貧になるだけだ。
こっちから攻めに転じて主導権を握らないと!
よし、つい最近覚えたあの技を早速使う時だ!
『究極の担い手』でマナの流れを意識し、両腕から放出するイメージ……!
僕の両腕から放たれた光の刃が、岩壁さんの石ハンマーとぶつかり合う!
「なんだぁああッ!? すげえ、ビームソードだぁああああッ!?」
僕の新技に、目をキラキラさせるヴィールだった。
コイツもそっち側か……。
『なんとぉおおおッ!? レーザーサーベルだとぉおおおおおッ!?』
眼窩をキラキラさせる岩壁さん。
アナタもかッ!?
しかし、この光の刃と真っ向からぶつかり合っても拮抗し、欠ける気配すらない石ハンマーがいよいよ恐ろしくなってきた。
『ぐわっはっはっは……! 随分驚きか? わけがわからぬか? このハンマーこそ、ワシがノーライフキングとなってから磨き続けた最大の武器にして魂』
た、魂!?
『元来の自然石を叩き続けることによって不純物を排除し続けた結果、結晶構造の炭素体になるまで純粋化することができた。それに我が魂を一部注入することによって体の一部と同等となり、手足の延長として操ることができるのだ!』
何だって!?
意味わからん!
だが要するに、あの石ハンマーが規格外の重さと硬さと速さを持つのは、やっぱりノーライフキングならではってことか。
しかしだからと言って臆することはない、臆することはできない。
ノーライフキングと対決することは生半可なことじゃないって、最初からわかっていたじゃないか。
具体的な現実が迫ってきたからって怯んでちゃダメだ。
今こそ僕は、この旅で出し切って、戦う!







