1522 ジュニアの冒険:目指せドラゴンマスター
うわぁあああああ、えらいこっちゃ!
まさか歓迎の態勢を整えていらっしゃったアレキサンダーさんを、ずっと待たせていたとは!?
どれくらい待たせていたんだ!?
一年ほど!?
申し訳なさ過ぎて死ねるッ!?
「まあまあまあまあ、そう気にせずとも」
とご本人は笑ってらっしゃるが、それにしたって無礼がぶっちぎる!?
「そうやって礼儀に煩いところはご主人様に似るのだー」
そりゃそうよ。
だって対人関係における礼儀の大切さは、父さんから叩き込まれたんだから。
特に時間厳守は絶対!
――『遅刻は信頼をなくすぞ』
――『時間を守るということは、約束を守るということだ』
――『自分が時間をテキトーに扱った分、相手の時間を無駄にしていると自覚しろ』
等々!
滅多なことでは荒ぶらない父さんも、食べ物を粗末にすることと時間を守ることだけには厳しかった!
その息子である僕がまさか、相手の時間を無駄にしてしまうとは!
うりゃああああああ!
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……!
「そんな床を転げ回ることもないぞジュニア」
ヴィールが言う。
「どうせ一年も十年も百年も、ドラゴンにとっちゃ一瞬と同じだ。その程度無駄にされたところでドラゴンにとっては痛くもかゆくもこそばゆくもないのだー」
「そうではないぞヴィールよ」
アレキサンダーさんがキッパリ反論する。
「我らドラゴンにとっては無為な一瞬でも、人にとっては掛けがえのないものだ。人の生は短い。だからこそ一瞬であろうと大切に積み重ねて、次の世代へと引き渡していく。それを繰り返して人は歴史を、文明を築き上げてきたのだ」
「お、おう……?」
「それはただ暴虐するだけのドラゴンにはできないことだ。時を有意義なものとして積み上げられることこそ人間の素晴らしき所業なのだ」
それなのに、僕はテキトーに過ごして……!
うわぁああああああああああーッ!!
「アレキサンダー兄上のバカ者! せっかくジュニアをフォローしてやってるのに余計追い込んでどうするのだ!?」
「ううむ、そういえばそういう趣旨だったな。ぬかった……!!」
「“ぬかった”じゃねえよ! そいういうところが抜けてるのは最強ゆえにかッ!?」
ドラゴンの兄妹が騒ぎ立てるのだった。
「まあ、聖者の息子よ。ジュニアくんと呼ばせてもらおうか」
あ、ハイ。
ジュニアです。
「気遣いありがとうだが、こちらとて手持無沙汰な時間を無為に過ごしたわけではないぞ。タイムイズマネジメントは人間だけの特技ではないぞ。特に人間からよく学ぶ私からしたらな」
「兄上は、人間の気遣いも学んでほしいのだー」
ニヤリと笑うアレキサンダーさん。
そのこころは?
「ジュニアくんは、自己修練のためにあちこち旅して回っているそうだな。この我が巨城に訪れたのも同じ目的であろう」
はい、そうです!!
特にここ『聖なる白乙女の山』は、ここまで重ねてきた修行の集大成をと思って最後に残してきたんです!
けっして意味もなく後回しにしたわけじゃないんです!
「ふふふふふふ光栄なことだ。私もその意図を察し、ダンジョンに特別な仕様変更を加えてジュニアくんを迎え入れることにした。……名付けて!」
名付けて?
「『聖なる白乙女の山』ジュニアくんを試せ! 百の試練と千の困難、崖から突き落とすエディション!!」
殺意マシマシになっていません?
やっぱり長いことすっぽかされたのを怒っているのでは?
「今この『聖なる白乙女の山』は、挑むジュニアくんを迎え撃つための特殊仕様となっているのだ。なあ家令?」
『はッ、説明いたします』
傍らに控えるノーライフキングさんが引き継ぐ。
『「聖なる白乙女の山」には、周囲に八つのサブ区画が点在し、それぞれに番人というべき守り手がついています。それらをまとめて八傑衆と呼びます』
八傑衆!
麓でも話題になっていたダンジョンの中ボスたち!
『ジュニアさんは、各エリアを回って八傑衆に挑戦し、勝つとバッジがもらえます』
バッジ!?
『そうですバッジです。試練合格の証です。それを八つすべて集めて再びこの頂上へお越しください。さすれば最終試練としてアレキサンダー様ご本人に挑戦する権利が与えられます』
アレキサンダーさん本人!?
それって、よく知らないけれど物凄いことなのでは!?
『はい、物凄いことです。「聖なる白乙女の山」において八傑衆の試練は常設ですが、普段なら突破してもアレキサンダー様と戦うことはありません』
戦わないんですか!?
じゃあいつもはどうしてるんですか!?
『頂上まで到達したらアレキサンダー様からお褒めの言葉をいただきます。それだけでも物凄いことです。アレキサンダー様の直言をいただけるなど人間にとっては末代までの誉れでしょう』
言い切った。
なんやかんやいって家令さんの、主への敬慕というか陶酔が窺える。
さすがは死してなお仕えようとする方々……というか。
『八傑衆にしてもそうです。彼らは普段みずからは戦いません。彼ら自身が強大すぎて一般的な人間相手ではちょっと手元が狂っただけでも殺してしまいかねないからです』
ひょえ……!
『よって彼らは普段、みずからが育成したモンスターを代わりに戦わせて、それに勝つとバッジを与えるのです。ちなみにバッジの効果でよりレベルの高いモンスターを捕まえやすくなったり、命令しやすくなったりできます』
あの……。
それどこの界隈の話です?
『そんな普段はみずからの手を下さない彼らですが、ジュニアさん試練期間の今だけはアレキサンダー様から、自身で戦うことを許可されております』
なんでッ!?
『無論ジュニアさんと戦うためです。ジュニアさんの旅の成果……成長の度合いを測るためにも手を抜いていたのでは正しい比較ができません。それゆえに八傑衆も手加減をやめたのです』
有難い……ような、そうでもないような?
あの、たしかにこのダンジョンに来たのは腕試しからですけれど、あまりにデンジャラスなのはちょっと……?
あくまで目的は無事故郷に帰ることですので……!
五体満足な姿を親に見せてあげたいんです!!
『ご安心ください。八傑衆は、元は冒険者の名うての猛者ばかり。三賢一愚には及ばずともその実力は折り紙付きです。ジュニアさんの成長を確かめるにはうってつけの相手となりましょう』
うってつけすぎて生命の心配をしているんですがね、僕自身の!
普通ノーライフキングって絶対人間が勝てない類の、絶望の相手でしょう?
それが八人!
普通に命がいくつあっても足りない案件かと思われるのですが、そこのとこどう思ってらっしゃいますか!?
やっぱりすっぽかされたことブチギレしてません!?
「安心せよジュニアくん。その辺の安全対策もちゃんとしてある」
アレキサンダーさん!?
さすがアレキサンダーさん、人間のことをちゃんと思いやっていらっしゃる!
厳しい中にもちゃんと優しさを秘めていらっしゃる!
「それこそがジュニアくん試練月間の企画その二! 見るがいい、この七つのボールを!」
七つのボール!?
これは!?
「ドラゴンボールだ!!」
……。
あの、すみません。
よくわからないんですけれど、これ本当にいいヤツですか?
「ジュニアくんこそ何をそんなに不安がっておるのか?」
いや、口では説明しがたいんですけれど。
これ本当に大丈夫なヤツですか。
心底デンジャラスだと僕の本能が叫んでいるんですか。
「まあまあ、よく見ているがいい。このドラゴンボールを開けるとな……」
開ける!?
「ジャジャジャジャーン! おれ様なのだ!!」
ヴィール!?
さっきまでそこにいたヴィールが、何故ボールの中から出てくる!?
「ドラゴンボールは、ドラゴンの入ったボールだ」
そういうこと!?
ってことはアレか?
モンスターが中に入っていればモンスターボール。
対してドラゴンが中に入っていればドラゴンボール。
ドラゴンボールに入れてね!ってそういうことか!?
でもどっちにしてもヤバい気がするんですが、これ僕の気のせいですかね!?
僕では知識が足らなくて、よくわからないよ!
父さんならわかるのだろうか!
教えて父さん!







