1521 ジュニアの冒険:頂上到達
「ウチのご主人様は一にして全、始まりであり終わりでもある御方なのだ。よってこの世界のあらゆる事象にも様々な形で関わっているのがご主人様なのだ~!」
ヴィール、そんな突拍子もない出まかせを人前で言わないで。
いくら父さんが偉大でも、さすがにオーバー表現だろう。
「ではッ、S級冒険者のコーリーさんが農場国と深く関わりがあるというのも!?」
「あー、アイツか。ご主人様の下で修行してたな」
「エルフの森が復活したのも!?」
「ご主人様のなせる業なのだ」
「戦争が終結して世界が平和になったのも」
「ご主人様の御心ひとつなのだー」
……。
あんまりオーバーじゃない気がしてきた。
ウチの父さんは、ひょっとして本当にこの世のあらゆるよい流れに関わってきた、世界の導き手なんだろうか。
「ジュニアさんッ! ジュニアさんのお父さんって本当に凄い人だったんですね! そんなお父上を持つジュニア様も立派です!」
ああ、はい、どうも……。
僕自身事実に追いつけなくなりつつありますがね。
自分でも知っているつもりだったんです、父の偉大さは。
しかし父さんの凄さは息子の想像を超えているらしく……!
「さて、腹にも溜まったことだし、そろそろ行くかジュニア。アレキサンダー兄上もお待ちかねなのだ」
気づいたら、僕らのテーブルに並んでた料理すべてなくなっていた。
ヴィールが全部平らげたのか。
農場の飯の方が美味いのなんだの言いながら、結局食べ尽くしやがった。
「えッ、まだ締めのラーメンありますよ?」
「おれ様の前でラーメン語るとはいい度胸だなッ!! こんな居酒屋のおまけに出てくるラーメンに、その道一筋のおれが負けるとでも!?」
ああ、変なスイッチ入っちゃった。
ヴィールはラーメンのこととなると見境なくなるから。
でも飲み屋のラーメンだって企業努力を重ねてきっと美味しいよ。
「はん、そんな俄か仕込みでこのヴィール様を唸らせることが美味ええええええええええええええッッ! こってり濃厚なスープが酒飲んだあとの塩分を求める体に染み入るのだぁあああ! 太麺もスープの濃さに負けない歯応えで互いを引き立て合っているのだぁあああッッ!!」
結局何にしろ美味しく食べるじゃんヴィール。
……茶番はこれくらいにしておいて、そろそろ本当にアレキサンダーさんに会いに行こう。
それではサリメルさん、シャルドットさん、ヒビナさん。
いってきます。
「えー、私たちはついてっちゃダメなの?」
えッ!?
「いやいやヒビナさん、ジュニアさんの招待にただの知人の私たちがついて行ってはダメでしょう」
「しかも相手は最強ドラゴンのアレキサンダー様だぞ。さすがにクソ度胸が過ぎるぞ命がいくつあっても足りねえ」
他二人が止めてくれることで、何とか思いとどまったヒビナさん。
「ダメかー、ちぇー」
いい土産話でも持って帰りますよ。
ではヴィール、行こうか。
『あいさー』
酒場を出てからドラゴン形態に戻るヴィール。
外の人々がさすがに驚き騒ぎはしたが……。
『さあ乗るのだジュニア! 我が翼で兄上のいる頂上まで運んでくれようガッハッハ!』
街中でドラゴンの姿で呵々大笑しないで。
「うわぁあああああッ! ドラゴンだ!?」
「あれがもしやアレキサンダー様!?」
「違うと思う!」
案の定、街の人々は大困惑だった。
これ以上騒ぎにならないうちに飛び立ってしまう。
『サラダバー』
僕を頭の上に乗せ、大翼をはためかせて飛ぶドラゴン。
これから上空を介して『聖なる白乙女の山』の頂上に直接向かおうということになった。
じっくりと計画を立てて攻略しながら頂上へと至るつもりだったが。
随分あっさりした最終ステージ到達になってしまった。
* * *
そして到達。
空の旅をお疲れ様でした。
ここが『聖なる白乙女の山』。
その頂上。
人類の中で多くの者がその光景を想像し、実際に目にする者はたった一握りしかいない秘境。
なんか暗いな。
街を出た時点じゃ、まだ昼間で明るかったのに。
「空間が歪んでいるからな。ダンジョンの中ってことで頂上も次元が隔たってるんだ」
再び人間形態になったヴィールが言う。
「ダンジョン内の景観は主の自由に調整できるからな。大方今はアレキサンダー兄上が夜の気分なんだろ」
な、なるほど……!
少し歩いていくと山頂当たりの地形に大きな屋敷が建っていた。
人理的には考え難い立地だ。
「おぉい、兄上! ジュニアを連れてきたぞー」
お屋敷の玄関扉をバンと開け放ってヴィール入館。
僕もそのあとに続く。
あのヴィール……酒場の時も思ったけど入る時はもっと静かに……。
ババーン!ババババーン!!
ひぃッ!? なんだ!?
より大きな炸裂音が、僕の蚤の心臓を飛び跳ねさせるッ!
「『ようこそ、『聖なる白乙女の山』へ!!」』
と満面の笑みで迎える二人がいた。
一人は見事なまでに白髭の長いおじいさん。もう一人はタキシードっぽい服を着たガイコツ。……ガイコツ?
とにかく、ちょっと異様な顔ぶれだった。
今の炸裂音は……クラッカーか。
クラッカーを歓迎の意思表示に使うとは文化的!
いや、歓迎をしてくれてるんだよな!?
「よくぞ参った聖者の息子よ! そなたが来るのを首を……ながーくして待っていたぞ! 首長竜になってしまうほどにな! ハッハッハ!」
これがドラゴンジョーク?
ハッ、ってことはこの長くてフサフサ白髭のおじいさんが……!?
超竜アレキサンダーさんッッ!?
「いえす、ひーいず、なのだー」
ヴィールが半ば投げ遣り感で言った。
この気のよさそうなおじいさんが……世界最強、ちょっと本気出すか出さないかで宇宙を消したり生み出したりしちゃう超常の中の超常的存在。
そしてそっちの、タキシード着たガイコツさんは。
『私はアレキサンダー様の忠実なる従者。家令とお呼びください』
「いわゆるノーライフキングなのだー」
アレキサンダーさんに従うノーライフキング!?
まさか八傑衆!?
『いいえ、あやつらとはまた別口です。ヤツらの役目はダンジョン各所の守護。私の役目はアレキサンダー様の御辺に侍りお世話させていただくことです』
そうなんだー。
って、つまりアレキサンダーさんは八傑衆以外にもノーライフキングを従えているということ!?
ますます底知れないことに!?
「あの家令ってヤツには気をつけろよジュニア。ウチの死体モドキには及ばんが、それに迫る実力の持ち主だ」
とヴィールから解説を貰ったが。
……“ウチの死体モドキ”って先生のことだよね?
先生ってたしか全ノーライフキングの中でもベスト3に入るぐらい強いんだよね?
それに迫るってことはベスト3には入らずともベスト10……ヘタすりゃベスト5に入る強さだってこと?
アレキサンダーさん陣営の層の厚さに気が遠くなってくる。
「別にそんな気にせずともよかろう。今大切なのは、強さ実力よりも歓迎の気持ちだ!『ウェルカムようこそ!』と思う気持ちだ!」
そう世界最強から言われたらもう何も言い返せないんですけどね。
いや、なんか悪いです。
縁があるのは僕自身ではなく、ウチの父さんだというのに、ここまで全力歓迎してもらって……。
「いやいや、こちらも長い時間かかった歓迎の準備がやっと実を結んで嬉しいわ」
え?
どういうこと?
「ジュニアな……兄上はな……」
ヴィールがバツが悪そうに言う。
「ジュニアが最初に人間国へ入った時点で、ここに立ち寄ると思って、歓迎の準備を……!!」
ええッ!?
最初に人間国って、僕が王都に行って冒険者登録して、サリメルさんやヒビナさんやシャルドットさんとかと出会っていたあのタイミング!?
でも僕そのあとすぐ出国して、魔国に行って、人魚国に行って。
ほぼ世界中を回って……。
……その間ずっと!?
「ももももも、申し訳ありませんでしたぁあああああああッッ!!」
瞬間、ダイビングスライディング土下座。
もう、するしかない。







