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1519 ジュニアの冒険:最高ダンジョン解説

「では皆さん! ギルド職員サリメルによる最高ダンジョン『聖なる白乙女の山』解説の、始まり始まりー!」

「「「わー……」」」


 パチパチパチパチパチ……。

 とまばらに鳴る拍手。


 酒場なら、この程度のおちゃらけ騒ぎはいつものことと許容してくれる。


「えー、ここ『聖なる白乙女の山』は人間国において最大規模のダンジョン……どころか世界中から見ても最大規模。冒険者ギルドが付した等級は規格外の六つ星。ギルドのダンジョン評価基準が五つ星までを最高基準としている中で、これは唯一無二の限界突破評価です」

「それぐらいのことなら誰でも知ってるぞー」

「もっと専門的なこと話せー」


 シャルドットさんヒビナさんからヤジというか茶々が飛ぶ。


「ぐぅぬ……いいでしょう。『聖なる白乙女の山』といえば、超竜アレキサンダー様が支配するダンジョンとして有名です。アレキサンダー様は、非常に強力なドラゴンで世界中すべてのドラゴンの頂点に立つ御方だと言われています。その真偽は……まあ人間ごときには窺い知る術もないですが」


 とサリメルさんは力なく言うが、本当だ。


 グラウグリンツドラゴンであるアレキサンダーさんは、すべての竜の中でも最強、そして世界最強の存在でもある。


 その力は世界そのものすら優に超え、ちょっと本気出すだけでビッグバンが起き新しい宇宙がポンポン生まれるんだという。


 ……農場国に住むドラゴンのテュポンちゃんが『アイツとはもう二度と戦いたくない』と小刻みにプルプルしていた。


 同種の竜からですら圧倒的な恐怖を持たれているということだった。


「そんなアレキサンダー様ですが、有難いことに人類に対して非常に好意的であらせられます」


 そうじゃなかったら、この世界とっくに消滅しているだろうしね。


「え?」「へ?」「は?」


 ……はい?


「ま、まあいいでしょう。人類に非常に好意的なアレキサンダー様は、それゆえにご自身のダンジョンを冒険者たちのために開放され、出入り自由とされています。それだけでなく様々な優遇策までとってくださっているのです」


 それゆえに『聖なる白乙女の山』は最高ダンジョンと謳われながら、ここ数十年の死亡不帰還者はゼロ人だという。

 すべてはダンジョン主であるアレキサンダーさんが気を配ってくれるお陰だ。


「かと言って低難易度のヌルいダンジョン……と言うわけでもありません。低階層なら素人が観光気分で入ることもできる『聖なる白乙女の山』ですが、高層へ進むほどに難易度は上がっていきます。他のどのダンジョンも追随を許さないほどに」

「たしかにそうよねー」


 C級冒険者のヒビナさんが唐揚げをモグモグしながら言う


「私もこっちに活動範囲移して『聖なる白乙女の山』に挑戦しちゃみたけれど、どうしても第三階層を突破できないのよねー。相性のよくないモンスターがうろついててさー」

「お前は戦術を切り替えられないから詰むんだよ。一手段一辺倒じゃ押し切れないって気づけないと、いつまで経っても冒険者として一皮剥けないぞ」

「女の子を剥くだなんて、イヤン」

「ダンジョンの奥底に置いて行こうかなコイツ」


 手錬の冒険者でも一筋縄では叶わない。

 それぐらい『聖なる白乙女の山』はちゃんと難所だっていうことだ。


 ただ見て回るだけなら優しいが、ガッツリ挑戦するとなるとシッカリ牙を剥いてくる。

『聖なる白乙女の山』、ダンジョンとしての完成度も素晴らしいということ。


「ここからが耳よりの話です」


 サリメルさんが威儀を正して言う。


「この『聖なる白乙女の山』ですが、頂上を制覇するためには、ある重要な行程を経なければいけないのです」


 重要な行程?


「『聖なる白乙女の山』は全部で三十三区画に分かれている超巨大ダンジョン。そのうち八つがサブ区画としてメイン区画の周辺に配置されています。岩山、熱帯山、火山、雪山、毒山、雷山、鉱山、霊山と区分けされたサブエリアにはそれぞれ番人がいます。アレキサンダー様に忠誠を誓った八傑衆です」


 はっけつしゅう!?


「八傑衆は、アレキサンダー様に忠誠を誓い、アレキサンダー様ととともに永遠を生きるためにみずからアンデッドと化したS級冒険者と聞き及んでいます。つまり八体のノーライフキングです」

「ノーライフキングが八体!? どんだけメチャクチャなのよこのダンジョンは!?」

「そうですね、普通ノーライフキングかドラゴンが一体いただけで踏破不可能ダンジョンに認定されますからね」


 それが複数体いる時点で、もうどうしようもないってことだ『聖なる白乙女の山』は。


「それぞれのエリアを守る八傑衆に挑み、認められた者には証を与えられるといいます。その証を八つすべて集めれば中央本区画への最上階層への道が開かれ、アレキサンダー様の下へとたどり着けると……!」

「ええッ!? それじゃあ私が第三階層から先に行けないのも!?」

「それはアナタがヘッポコなだけです」


 証を全部集めなくても本山最上階層の一つ手前までは登れるらしい。


「それでも完璧にゴールするためには回り道が必要……。回り道こそが本当の近道だった、ってヤツだな」


 シャルドットさんが訳知り顔でウンウンと頷いた。


「八傑衆を退け、本山の難所をも乗り越えてアレキサンダー様の下へたどり着いた冒険者には、そのまま無条件でS級の称号を進呈されます。これはギルド側で正式に定められた規則です」

「マジで!? やったぁ! それじゃ頂上まで行けば私も一足飛びでS級冒険者ってことじゃん!!」

「それが死ぬほど難しいんですけれどね。無理せず一個ずつ等級上げていった方が早いですよ、きっと」


 冷淡な対応のサリメルさんだった。


「既にX級冒険者であらせられるジュニアさんには余計な情報だったかもしれませんが」


 さっきからチラホラ出ているが、そのX級冒険者ってなんだっけ?

 とても突飛でよくわからないのだが。


 ……ああ、そうだ。

 ギルドマスターであるシルバーウルフさんから、『特別な階級が必要だー』とかなんだかで任命されたんだった。

 一体何だったんだ?


 お陰で僕は冒険者の中でもさっぱりよくわからない立ち位置になってしまったので、叶うのであればしっかりしたS級がほしいなあ……。

 ……ってそんな動機でほしがるものじゃないか。

 すべての冒険者の頂点に立つ、憧れの階級なんだから。


「とはいえ『聖なる白乙女の山』を攻略してS級もらえた冒険者は、実際少ないらしいぜ。大抵はS級に上がってから本格的に攻略初めて、それで何とか頂上までたどり着けるらしい。実力が伴わないと制覇できないのは、どこのダンジョンも同じってことさ」


 そしてその実力を示すために冒険者等級がある。

 現行、ギルドによる冒険者格付けは正常に機能してるっていうわけだ。


 まとめると『聖なる白乙女の山』を攻略するためには独自の手順が必要。

 周囲に点在する八つのサブ区画それぞれに鎮座する八傑衆から認められて証を貰う。

 それを八つ全部集めるとアレキサンダーさんのいる最終区画へたどり着けると。


 そのためにもまず周辺区画から攻略して、八傑衆とやらと対決していかねば。


「そのためにもバッグアップは是非とも! この専属ギルド職員サリメルにお任せください! ダンジョン攻略のための物資調達! 効率的なルート選択! ボス敵の攻略法! すべてこの私の手で手配いたします!」

「あ、じゃあポーション切れかけてたからよろしくー」「私も、敵が弱くて報酬が億単位のクエスト紹介してー」

「アンタらの専属じゃないわよ!!」


 この軽妙なやり取りも冒険者ならではのものか。


「でも気を付けろよジュニア。『聖なる白乙女の山』で本当に恐ろしいのは広大なダンジョン区画でも八傑衆でもない」


 シャルドットさんが助言者じみた顔で言う。


「ここ麓の街だ」


 麓の街?

 そりゃダンジョンの入り口にしては死ぬほど栄えてるなって思いますが?


「ダンジョン近辺とは思えない振興ぶりだろ。これもアレキサンダーが完璧にダンジョンを管理しているお陰だな」

「ダンジョン自体も最大級で、多くの冒険者が挑戦に訪れる。人の出入りが多くなれば、そこに経済が生まれる。人の世の摂理というものです」


 そうして『聖なる白乙女の山』の麓には多くの商業施設が並ぶようになった。

 街と呼んでもいいほどに。


「そうしてできた商家には、欲望に応えるものも存在する。博打とか酒とかな。冒険者の中にはダンジョンにも入らず遊び惚けているヤツも一定割合いる」

「それが『聖なる白乙女の山』にてもっとも恐ろしい罠。自然や竜が仕掛けたものよりも、人の欲望がひとりでに生み出した罠の方が恐ろしいというわけですね」


 なんか説法じみた話になってきた。

『聖なる白乙女の山』はそれだけ多種多様な困難に満ち溢れたダンジョンということか。

 それこそ世界最難関に相応しい。


 僕もここからは一介の冒険者として、世界中を旅して積み上げてきた能力と経験値を結集させて難関へと臨むのだ。

 聖なる白き山の頂へ……。


 挑む戦いがこれから始まる!


「たのもーなのだー!」


 その瞬間、ガタコンと。

 酒場の玄関扉を開いて、入場してきたのはこの盛り場に似合わぬ可愛い女の子。


 女の子?


 いや違う、それは仮の姿だ。

 あえて人間の、女の子の姿に変身したドラゴン。


 その名はヴィール……!?

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― 新着の感想 ―
自認ジュニアの保護者さん久々の登場!
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