1518 ジュニアの冒険:最初の人たち
初っ端から衝撃的再会を果たしてしまった僕ジュニア。
逆襲のサリメルさんにガッシリ両手を掴まれる。
「ダンジョンに挑戦するんでしょう!? だったらまずはギルドに申請しませんと! さあさあさあ!」
サリメルさんはグイグイ両手を引っ張って、僕をどこぞへ連れ去ろうとしていく。
強引。
あれダンジョンって入るのに許可制なんですか?
農場では先生のダンジョンやヴィールのダンジョンに何の許可なく出入りしていたので意外だった。
しかし考えてみれば世界中のダンジョンは冒険者ギルドが管理しているのだし、ダンジョンを管理するために冒険者ギルドがあると言っても過言ではない。
出入りをギルドが見張っているのも当然と言えば当然だった。
「はい! 冒険者ギルド『聖なる白乙女の山』支部は、その規模連弩合わせて世界最高峰といわれております!」
ええー?
それって本部よりも?
「モチのロンです!」
ロンモチかー。
そうこうズルズル引きずられているうちに僕らは、特に立派な建物の前へと到着した。
何これ何階建て?
「九階建てです!」
マジかよ。
これがまさかの冒険者ギルド『聖なる白乙女の山』支部ってことか。
ホントに王都の本部より立派な建物だ。
「たのもー! 皆の者! 世界にただ一人のX級冒険者様のご来訪よ! ひれ伏せー!」
ちょっとちょっとサリメルさん!?
突入するなり大声でなんてこと喚き散らすの!?
ここは目立たず静かに入場して静かに去るのが、僕の父親譲りのスタイルだというのに、一歩目から真逆の大騒ぎではないか!?
「何を仰ります! 冒険者は名を売ってナンボ! ジュニア様を知らしめるためにこの専属ギルド職員サリメル、いつでも声を張り上げますよ!」
張り上げるな。
くっそ、おかげでギルド支部のロビーにいた人たち全員、こっちに大注目じゃないか。
こんなに派手な入場になったのは、僕の旅では初めて……ではないな。
人魚国で歓迎された時の方がハデか。
「うわー、マジでジュニアきゅんだー、やほー」
「久しぶりー、サリメルの予想がガチに当たるとはな」
んん? その声は?
冒険者のヒビナさん!
同じくシャルドットさん!
いずれも王都を訪れた時にお世話になった方々だ!
でもどうしてこちらに!?
「そりゃー、こっちに河岸を変えたからよ。冒険者ってのは所詮流れ者だからな。一つところには留まらねーよ」
「行く先はどこでもよかったんだけど。サリメルのアホが『ジュニア様は必ずここに来ます!』って息巻くもんだから、オチを確かめるためにも同行したのよね。しかしマジに的中するとは!」
その言い方やめてください……!
まるで僕が、サリメルさんの手のひらで転がされたアホみたいに聞こえるじゃないですか!
「実際そうでは?」
「私とジュニアさんは、ビジネスパートナーとして心の奥底で繋がってるんです。どこへ行っても巡りあう運命なんですよ!」
「こわ」
怖い。
「だから言ったでしょージュニアきゅん。サリメルは利益に敏感だから、存在そのものが利益の塊みたいなジュニアきゅんは身の回りに気を付けなよって」
たしかに言われた気もしますが、僕ずっと離れてたんですよ国家間単位で。
これ以上、どう気を付ければいいんですかッッ!?
「まあまあ、せっかくこの最上級ダンジョンで再会を果たしたんだから、まずはその喜びを分かち合うために……酒盛りでもしよーや!!」
と、どうにもならないことを言うシャルドットさん。
こういう物言いが実に冒険者。
あの……僕ここのダンジョンに挑戦しに来たんですけれども……?
「いいじゃないか、ダンジョンは逃げねえ! だったら急ぐだけ損だぜ!」
「そうよ! ダンジョンに入る前には入念すぎるほどの準備が基本よ! 情報収集もその一つ! というわけで酒盛りよ!」
ヒビナさんも何言ってるんですか?
ヤバいな。久々に喋ったけれど冒険者さんってこんなにイカれた輩だったっけ?
「何を言う! 情報と言えば酒場、酒場と言えば情報! ダンジョンに入る前は酒場に行ってありったけの情報をかき集めるのが冒険者の嗜みってものよ!」
「牡蠣!? 集める!?」
それ本当に情報収集が目的ですか?
ただ飲んで騒ぎたいだけじゃないですか?
ギルドに着くなり大騒ぎに巻き込まれる僕。
ただ、そうなることで『久々冒険者に関わるなあ』という気分になってしまうのだったが……。
* * *
そんなわけで、ダンジョンに挑戦する意志も昂るままに酒盛りへと突入する僕。
皮肉にも『聖なる白乙女の山』の麓は酒場に事欠かなかった。
「んだば! ジュニアきゅんとの再会を祝して!」
「「「「かんぱーい」」」」
ぎゃちゃぐぉん、とジョッキが激突し合う音。
ちなみに僕はノンアルの烏龍茶を飲用。農場国の後継者として未成年飲酒の禁は何があっても破らぬ。
「ジュニアきゅんてばおかたーい。酒場で酒飲まないで、何を飲むっていうのよー」
烏龍茶とか、アオサの味噌汁とか。
アルコール以外にもたくさんあるだろうよ。
「しっかし王都ではなあ。ジュニアおめー、何も言わずに消えるんだもんよ。寂しーことしてくれんよなあ」
その節はなんとも……。
なんだっけ、そうだ王都を離れたきっかけがゴティア魔王子の依頼を受けることで。ちょっとお出掛けのつもりで出てきたら、そのまま戻るのも面倒で次の国へと旅立ってしまったのだった。
すみません。
行って戻ってが、その時とてつもなく物臭になってしまって。
「まあ仕方ねーや。冒険者なんて風が吹く先に流れていくもんだからよ。で、アレからどうしてたんだジュニア? お前さんのことだ、まさか今日まで昼寝してたってわかじゃないだろうな?」
と顔を赤らめながら話すシャルドットさん。
まさかもう酔ってる?
そうですね……言われてあれからのことを思い出す。
人間国を離れた僕は、まずエルフの奇祭に巻き込まれたり……。
神の世界に迷い込んだり……。
弟が創設した秘密組織と抗争したり……。
魔国宰相の引退騒ぎに巻き込まれたり……。
竜の国へ行ったり……。
あの世に行ったり……。
ベーコンエッグパンケーキ食べたり……。
女子校に潜入したり……。
武泳大会に出場したり……。
人間創造したり……。
邪神と戦ったり……。
漂流したり……。
観光施策に協力したり……。
……色々あったなあ。
「そ、そうか! 大変だったんだなあ!?」
「あの世?」
そう、本当に色々あった。
その締めくくりとしてここ『聖なる白乙女の山』に挑戦し、自分がどれだけの成長を遂げたか確かめたい。
そういう気持ちでここまでやってきました。
世界最高と評判のダンジョンに、今の自分がどれだけ通用するか。
ハッキリ形にして見てみたいんです。
「ほへー、さすがはジュニア向上心が迸ってるねー。世界唯一のX級冒険者でありながら満足しない歩み求めない。こういうヤツが後世に名を遺す偉業を成し遂げるんだよなー、なぁヒビナ?」
「ベーコンエッグパンケーキ……?」
シャルドットさんもヒビナさんも、人間国の王都で知り合った生粋の冒険者。
シャルドットさんはA級で、ヒビナさんはC級だっけ?
人間国に入って冒険者登録した僕を、二人は先輩として親身になって指導してくれた。
旅先で人の温かさに触れた典型でもあった。
旅の初っ端で触れた幸運に、旅の締め括りと定めた今ここで再会する。
それもまた何かの運命であるかのように思えた。
「なるほど、ジュニアさんにとって『聖なる白乙女の山』こそがまさに最後の難関というわけですね」
ギルド職員サリメルさんが不敵に笑った。
そういやいたなこの人も。
「それではジュニアさんの専属ギルド職員たる私が『聖なる白乙女の山』についてご説明しましょう! まだ正式に公開されていない最新情報まで! ギルド職員ならではの優位性をフル活用してね!」
なんか不穏なことを宣っていた……!?







