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1510 ジュニアの冒険:温泉の語らい

 魔島の主アゼル。

 魔国宰相ルキフ・フォカレ。


 ここに邂逅す。


「いやぁ、当代の魔王殿はたしかに出来た人物じゃわい! ここだけの話、初めて会った時には威厳強くてブルッちまいましたよってなあ!」

「フフ、それは誰でもそうよ。ゼダン様は本当に模範的な魔王となられた。雄々しく強大で、先代とはまったく違って……」


 話がはずんでいる……!?


 今は温泉から上がって、その近辺にあるちょい飲みコーナーでお酒を酌み交わしながら歓談に耽っている。

 その横でソフトドリンクなどを嗜む僕、二十歳前。


「しかし魔国宰相殿とここまで話が弾むとは! やはり宰相ともなると相手に話を合わせるのが上手いのかのう!?」

「なんの、世代が合うのが一番話も合うものよ。それにアゼル殿も長く魔島を率いてきて、立場が合うのもいいところよな」

「そう言ってくれますか!?……くぅ、所詮田舎領主と思ってきましたが、魔国宰相にこうも言ってもらえるとは光栄の極み……!」


 マジで話弾んでるなあ。

 ……あ、仲居さん、烏龍茶お代わり。いや、今度はこのみかん三兄弟スカッシュ(ノンアル)とかいうのを頼んでみようかな。

 冒険したいお年頃。


「世代と言うのもわかりますなあ。ワシもなあ、年頃の娘とすっかり話が合わなくなってなあ。あのバカ娘一時期大陸を旅してきたのですが、それですっかりあか抜けて大陸かぶれになってしまって……。しかも旅の目的が婿探しだというのに結局婿も連れずに帰ってきて……。それでいまだに独身ですぞ! もう三十も目前だというのに! いやもうなったか!?」

「ハハハ……」


 魔国宰相が笑って誤魔化している!?

 さすがにすべての話題では共感できなかったらしい。


「ささ、もう一杯」

「うぬぅ」


 とアゼルさんのグラスに酒を注ぐ。


 酔い潰して強制終了させようとしている!?


「アゼル殿は、為政者としての役目を果たしながら家庭も営んでいるところが素晴らしい。私は結局政務にかまけて家庭を築き上げることを放棄してしまった。この歳になって子どもおりませんでな」

「なんの! このアゼルまだまだ島主の仕事やり終えたとは思っていませんぞ! 魔島の観光地化を果たすまで! このアゼル第一線から退きはせぬぞ!」


 酔って益々暴走している!?


 ……あ、仲居さん、このプレミアムキャラメルソーダって言うの一つ。


「ほう、魔島の観光地化?」


 意外と食いついてきた。

 公共事業的な意味合いのアレだからルキフ・フォカレさんのアンテナに触れるか。


「そうじゃそうじゃ! せっかく本国と交流を持てたのだから、本国からお客さんをたくさん呼びたくてのう! しかし思うようにいかず、ここ十年停滞しておる」

「新事業など大抵そんなものぞ。しかも国家規模になればなおさらな。もしよければ魔国から協力を出すこともできるが……」

「しかし!! ここにおるジュニアくんから様々な知恵を借りて、大きく前進の予感がしておるのじゃ!!」


 バババーンと、エキストラホイップミルクを飲む僕を指し示すアゼルさん。

 ソフトドリンクが捗るー。


「ほほう」

「彼からアドヴァイスされてのう! 最強の観光要素はズヴァリ温泉だと! そこで敵情視察をかねて、この温泉街に来たわけじゃ!!」

「なるほどたしかに、ここ十年で世界各地に温泉は増えまくったからな」


 えッ、そうなんです?

 それはまったく知らなかったですが?


「そうだぞジュニアくん。世人は成功者の真似をするもの。異様な集客力を誇る温泉宿に倣って、多くの街や村が地面を掘り進めたものよ」

「マジで? ウチも後追いじゃん?」

「そのうちのほとんどは失敗に終わったが、一割弱は成功して世界各地に温泉街が点在するようになった。それでも規模やサービスの質において、ここを上回るものはないがな」


 原点にして頂点!

 さすが父さんの築き上げた温泉はまったく質が違う!


「しかし魔島に温泉か……それはよい。魔国から離れた、陸地自体が違う場所からならばまたまったく違う泉質のお湯が出てくるだろうな。私も浸かってみたいものだ」

「おお、魔島の温泉ができた暁には、ルキフ・フォカレ殿も是非とも来てくだされ!『魔国宰相御用達』で宣伝にもなりますからな!」

「フフ、ちゃっかりしておる」


 それ以前に、ちゃんと温泉が出るかどうかから未知数なのですが。


「これはよいぞ……魔島温泉地化と歴史小説。この二本の柱で魔島は、観光地として大躍進じゃああああ!!」

「歴史小説? それは何ぞ?」


 ルキフ・フォカレさんが妙なところに食いついた。

 いや、まだ進行中の企画ではあるのですが……。


 かくかくしかじかじかじかじかじかじかじか……!


「なにい、魔島の領主館にはそんなお宝が眠っているのかぁッ!!」


 うわぁ、急にテンションブチ上がった!?

 なんですか、あの歴史書に関わる人は皆テンションの上げ下げがおかしくなるんですかッ!?


「そんな……今まで明らかにされていなかった歴史資料などお宝そのものだぞ。ノーライフキングの皇帝が暴れ出した混乱期は、それこそ資料も乏しいので、その存在が明らかになるだけで調査機関が爆盛流入してくるぞ!」


 えッ、そうなの。

 その時点で観光地化成功じゃん。

 加工なんかしなくても、それ自体が観光資源だった歴史書。


「しかしできることなら私自身が調査に赴きたい……! 歴史大好きなんだよ私……! 本当は歴史の資料説かに触れたくて内政官になったんだから……! それが当時の魔王の放漫内政の尻拭いに奔走した挙句、気づいた時には宰相に……!」


 ヘタに能力が高いと夢も叶わない典型。


「だからそう、引退した暁にはのんびり歴史編纂でもしながら過ごしたい。……はッ、ここに老後の計画が立ってしまった」


 生涯現役を誓っていた人間が。

 これは恐ろしいことなんですよ、普通の人にとっては普通のことであっても。


「……そうだアゼル殿よ。貴殿の収蔵する歴史資料を元にした歴史小説を制作したいと言っておりましたな!?」

「は、はい……!?」


 アゼルさんが圧倒されている!?

 ルキフ・フォカレさんのあまりの剣幕に!?


「しかも、その歴史小説を誰に執筆させるかで企画が止まっているとも。……ならば、その執筆私にやらせてくれまいか!?」

「えええええええええええええッ!?」


 なんか急に、欠けていたピースがあっちから爆走迫ってきた。

 恐ろしき急展開。


「何百冊もの歴史書に目を通し、自分なりの意見を盛り込んだ自分執筆の歴史書を編纂したい。任官前の若き日の夢を小説という形で叶えるのも一興ではないか。老後の晩年に書けば、そのまま遺作にもなる!」


 縁起でもないこと言う。


「燃えてきた! 引退後の目標に燃えてきたぞ! こうなっては温泉宿でのんびりしている場合ではない! 一刻も早く戻ってレヴィアーサへの引継ぎを完了せねば!」


 いや、この温泉宿でののんびりもつかの間の休暇でのことでしょう。

 もっとどっかり休め。


「アゼル殿! こちら全速全壊で引継ぎ済ませて引退しますので、そして最速での移住も果たしますんで執筆の席は空けておいてくだされよ! 魔国宰相改め文豪ルキフ・フォカレ爆誕じゃぁあああああッッ!!」


 ああッ、浴衣を着替えることなく飛び出して行ってしまった。

 旅館に返却しなくて大丈夫なんですか浴衣。


「大丈夫ですよー。常連のあの御方は既に数着の浴衣を購入されておりますんでー」


 マイ浴衣ッ!?


 まあ、それはともかくとして魔島観光地化計画の懸念点であった歴史小説執筆者の席が埋まった。

 何とも思いもよらない唐突さであったが……。


 しかしルキフ・フォカレとしても『死ぬまでしがみ付いてやる』と意気込んでいた魔国宰相の地位から離れる目途が立ってよかったねと言うべきか。


 後継者にレヴィアーサさん、老後の目標に歴史小説執筆と、引退のために必要なピースが揃った。


 よかったね……というべきか?


「さすが魔国宰相……老いたといえど、その行動力はアグレッシブ、エネルギッシュ!」


 そしてなぞの感化を受けるアゼルさん。


「うおおおおおッ! 彼より若年のワシが枯れとる場合ではないぞ! この老身に情熱の炎をエンチャントして! ライフワークを貫徹するのじゃあああああああ! ジュニア殿!」


 はいッ?

 あの今スタープラチーノ飲んでるからあとでいいですか?


「ソフトドリンク三昧もいい加減にしなされ糖分過多じゃぞ! キミはいいのか、情熱のヒートでおじいちゃんのルキフ・フォカレ殿に負けて若者のメンツが立つのか!? おぉん!?」


 いや、若者のメンツなんて気にしたことないですけど?


「こうしてはおれん! ワシらもワシらの目標を推し進めるんじゃあ! ワシは決めたぞ! 魔島でも温泉を掘る! 一刻も早く魔島に戻るんじゃあ!」


 えッ、あともう一回温泉に入ってから全身マッサージ受けてのんびり過ごしたいんですけれど?

 日頃の疲れを癒したいんですけれども?


 そんな一番若い僕の願いも空しく、久々の温泉宿を日帰りで去ることとなった僕であった。

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― 新着の感想 ―
レヴィアーサさん「待ってくださいそんな急に引き継ぎをさせられるなんて想定外ですクソ…私は省エネいいとこ取りの女のはず…何故こうなる…マモルさんにこういうのは押し付けるのがお約束でしょう…」 ルキフ・…
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