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1488 ジュニアの冒険:オリオンをなぞる

 妻神二方から一通りボコボコにされるポセイドス神。

 ツープラトンブレーンバスターで海面に叩きつけられるのを見て『やっぱり神凄いな』と震えた。


『いやぁお恥ずかしいところを見せてしまって、ハッハッハ』

『恥ずかしいのはアナタ自身ですけれどね』『まったく』


 まだスッキリしていない様子の二女神。

 その一方、暁の髪色を持つアンフィトルテ女神がハアとため息をつく。


『アタシはねえ……最初は嫌だったのよね。こんなのから求婚されても』

『こんなの!?』

『そりゃそうじゃない、オリュンポスの神なんて絶対浮気するんだし。それで海中逃げ回ったんだけど、このヒトが数千頭のイルカを雇ってアタシのこと探させたのよねえ』

『そうだったそうだった! イルカどもへの給金代わりに大量のイワシを用意したんだわい!』

『イワシさんたちもいい迷惑よねえ』


 昔を懐かしむ口調のアンフィトルテ女神。


『イルカさんたちに四方八方を取り囲まれて「ポセイドス様と結婚してくださいキュー!」「結婚了承させたら特別手当貰えるんですキュー!」と騒ぎ立てられて、あんまりにも煩いもんだから押し切られる形で結婚したのよねえ』

『えッ? 私の熱意に絆されたからでは?』

『実際一緒になってみると思った以上に尽くしてくれるし、まあ存外いい結婚だとは思ったのよ。それでもやっぱり浮気はしたけれど』

『ゼウスよりはマシだから! ゼウスよりはマシだから!』


 そんな最悪の例を比較対象に挙げなくても……。


『そうよそれにご兄弟を比べるんなら、デメテルセポネちゃんところのハデスさんの方が遥かにマシということを忘れないでほしいのよ』

『うぐぐぐっごッ!!』


 神として数千数万年を過ごしながら浮気ゼロ件(目移り一回あり)という輝かしい実績を持つ冥界の神ハデス。

 その一点だけでもオリュンポスの神々においてもっとも品行方正だと言える。

 少なくとも目の前の海神よりは。


 アンフィトルテ女神は半眼になりながらも、視線をこっちに向けてきて……。


『いいことジュニアちゃん。海を統べる女神として忠告しますが、けっしてこの神のように不貞に走ってはいけませんよ。その行為はアナタの伴侶を失望させるだけでなく、アナタの母プラティちゃんをも裏切る行為です。お腹を痛めてアナタを生んだ努力を無意味にすることそのものなのですから』


 そこまで?


『そうよ、生涯彼女だけを愛したアナタの父親を敬い規範としなさい、ね』


 あの……生涯と言ってもウチの父さんまだ生きていますが?

 勝手に人生統括しないでください?


『まーまーまー! 愚痴っぽい話はその辺にして!!』


 無駄に明るく囃し立てるポセイドス神。

 誰のおかげで微妙な話題になったと。


『いいではないか! 強き漢には多くの美女が集まるものなのだ! ええと、……ハデスの眷属の王だって今そうだろう!?』


 そうだった。

 そういえば魔王ゼダンさんはアスタレスさんとグラシャラさん二人の魔王妃を娶っていた。

 すっかり記憶から抜け落ちていたぜ。


 だからといって浮気が容認されるわけではないんだが。


『さすがジュニアちゃん、容易に軸がブレないわね』

『もっと言いなさい、このちゃらんぽらん神に一言物申しなさい!』


 二女神がこぞって僕の後援に回る。

 僕を挟んでの夫婦喧嘩はとばっちりなんでやめていただけますか。


『ぬうううううぅん!? そ、そうだ話を本筋に戻そうではないか!!』


 不利にあえぐポセイドス神、咄嗟に話題転換を敢行。

 この判断の迅速さはさすが神と言えよう。


『何しろ最初は、この海神ポセイドスの眷属を紹介しようという話の流れだったからな! 我が妃の紹介だけで止まってはあとの者をつかえさせてしまう! ガンガン紹介していこうではないか!』


 そして不穏な話題も流し去ってしまおうと……?


『妻の紹介は終えたので、次は我が自慢の子どもたちを紹介するとしよう! カモン、マイサン!!』


 ポセイドス神の召喚に応じて、大海原から水柱が上がりその中から立派な体躯の好漢が現れる。


 体つきは、アロワナおじさんやナーガスおじいちゃんのようにガッシリ整っているが、反面顔つきが匂いむせるほどにハンサムで瞳や白い歯が煌めいている。

 ハンサムすぎて逆に引く。


 なんだこのアンバランスなまでの筋肉ハンサムは!?


 ポセイドス神が誇らしげに笑って。


『どうだ見惚れたか!? こやつこそ、我が子どもらの中でもっとも有名なオリオン! 人類の王女エウリュアレーちゃんとの間に設けた息子だ!!』

『要は浮気で作った子どもってことよ』


 正妻アンフィトルテ女神が鋭く言う。


『ゼウスよりはマシだから!』

『浮気をしてくるたびに言うけれど、情状酌量の余地あり=無罪ということにはならないのよ』


 結局浮気の話に戻ってくる。

 積み重ねたカルマの螺旋からは、神ですら逃れることはできないということか。


 ポセイドス神が妻神から詰められている間は、例のオリオンさんとやらが僕の正面に立った。


『よっス、オレはオリオン、好きな飲み物はオリオンビールだ、ッゼ!』


 うわ、チャラぁ……!?

 こういう性格なのか? あまりのチャラさに背筋がゾッとなった。


『元々は現世で狩人してたんだけど、半神という出自から死後神々の一員に加えられて、こうして海の神界ですごしてるんだ、ッゼ。ああ、狩人と言っても「愛の狩人」とかいう意味ではなく正真正銘のハンター×ハンターなんだ、ッゼ!』


 はあ、よくわかりませんがとりあえずその語尾の『ッゼ!』ってのやめてくださいませんか。

 ウザい。


『はい』


 やめれるんだ。

 割と無茶言った自覚はあったんだが思いの外すんなりと通じた。


『まあオレ自身、逸話やら死にざまから好色女たらし野郎とよく思われるものだが、実際はフラれたりやむない離別とかが多くて、それほど女とっかえひっかえした自覚はないんだがなあ。父や叔父の女癖のせいでオリュンポス系列の男神は皆浮気性と思われるのは心外だぜ』


 そうなんですか?

 僕は、このオリオン神の逸話はよく知らないから何とも言えないんですが、そこのところどうなんでしょうか海神の妃の皆さん?


『そんなことないわよ、コイツも父親に似て惚れっぽいのなんのって』


 ポセイドス神を布団たたきでバシバシ叩きつつアンフィトルテ女神が言った。


『たしかに破局は不可抗力なところが多かったかもしれないけれど。それでも交際回数自体が多いのはアナタの惚れっぽい性格と、多くの女を虜にする甘いマスクのせいでしょう。だからアナタの行くところ色恋トラブルが満載なのよ』

『フッ、罪作りな顔だぜ』


 陶酔するようにみずからの頬を撫でるオリオン神。

 その仕草がもうウザい。やっぱりイケメンとは相容れないなと思った。


『その挙句に処女神であるアルテミスちゃんまで虜にして、その兄弟であるアポロンちゃんの不興を買って殺されちゃったんでしょう。本当に無様な最後だこと』

『言い方に、もう少し手心をッ?』

『痴情のもつれが発展すると死人が出るって、アナタの逸話が後世の教訓となってよかったじゃない』


 容赦がないアンフィトルテ女神。

 やはり夫が浮気で作った子ども相手だと思うところがあるのか。


『別にアタシは、彼がダーリンの不貞の子だから憎んでるわけじゃないのよ。純粋にコイツが女たらしだから毛嫌いしてるだけなの』

『火の玉ストレートッ!?』


 矢よりも鋭い一言が名狩人に突き刺さる。


『なんだよもっと被害者に擁護の言葉はないのかよ!? そもそもはアポロンが悪いんだろう、アイツがブラコンで処女厨なのが悪い!』

『そうは言ってもアルテミスちゃんは、ヘスティア姐さんに申請通した正式な処女神であるんだから色恋に溺れるのはガチで拙いのよ。アポロンちゃんが案じて動くのも無理からぬことじゃない?』

『だからって大サソリけしかけるまですることないじゃん!? そのせいで遠く大海原まで逃げる羽目になって、そこを騙して愛しのアルテミスちゃんに射殺させるなんて性格が陰険すぎるぜ! それでも太陽神か!?』

『有名な神話ねえ』


 何やら愛憎が渦巻いていた。

 痴情のもつれは最悪人死ににまで繋がる。大いなる教訓が伴った逸話だった。


『いいか、そこの若人よ。大サソリには気を付けろ、アイツはオレたちイケメンを執念深く追い詰める、陰キャの怨念がこもった殺し屋なんだからな!』


 いや、そんなこと僕に言われても。

 僕のことをお前らと同じカテゴリに組み込むな!? 違うからな! 僕は品行方正温厚篤実、父さんと同じく一人の女性だけを愛し抜くカテゴリの男だからな!!


『ジュニアちゃんよく言った! そうよその意気で不誠実男どもをダンガン論破していくのよ!!』


 アンフィトルテ女神からやんやの喝采が飛ぶ。


『えぇ~、そんなこと言ってもオレには何となく透けて見えるぞ? お前さんもここまでいくらか旅してきたんだろ? その道行きで何人の女に惚れさせてきたことか……?』


 ええい、やめろ。

 僕はそんな不純な動機で旅を進めてきたんじゃない。


『不純じゃねえよー、女と番おうとするのは純粋なオスの本能だぜ? 本能に逆らうことほど不自然なことはこの世にねーよってさー』

『やめなさい! ジュニアちゃんを悪の道に引き込むな、こうなったら……サモン!』


 アンフィトルテ女神がパチンと指を鳴らすと、なにやら魔法陣めいた領域が広がり中から巨大な生物が這い出てくる。


『ああッ、お前は!?』


 その生物の正体に気づき、悲鳴を上げるオリオン神。

 そうその生物は、大きなハサミ一対と全身を覆う強固な甲殻、そして何より凶悪な棘付きの尾を持った。

 ……いわゆるサソリという生き物だった。しかも巨大な。


『ギャー、オレのトラウマ大サソリ!? どうして!? 海中までは追ってこれない設定だろ!? 展開に矛盾が生じるぞ!?』

『アンフィトルテ様の計らいで水陸両用に改造されたのよ。これでアナタをどこまでも追っていけるわ』


 え、あの大サソリ……メス?


『そうよ私はサソリ座のメス、気が済むまで笑うといいわ』


 いや笑いはしませんけど……。


『モテすぎるというのも考えものよねえオリオンちゃん。それもアナタのハンサムゆえと受け入れるがいいわ』

『受けれられるか! くっそぉおおおおおおおおッ!!』


 全力で逃げ去っていくオリオン神。

 追う大サソリ。


 永遠に続くデッドヒートが今また始まった。

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― 新着の感想 ―
 とりやえずサソリに賭けておくか。
オリオンビールが好きならしゃべり口調はうちなー語やっし!
いいえ わ た し はさそり座の女?男?
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