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1489 ジュニアの冒険:ペガサス幻想

 永遠に続く追いかけっこというのが世には往々にしてある。


 ネズミと猫。

 泥棒と刑事。

 浮気男と鬼娘。


 そしてあのオリオンと大サソリも、その永遠の追いかけっこの一例に加わるのだろう。

 東から昇るオリオン座が、サソリを恐れて西の空へと逃げていくように。

 今もオリオン神はサソリから逃れようと大海原を疾走中。


『うぎゃああああああッッ! 来るなッ! サソリ怖いぃいいいいいいッ!!』

『アンタをレスすると私のハートがスカーレットニードル! アンタが遊びのつもりでも地獄まで追っていくわ!』


 うわぁ、海上を滑るように進んでいくサソリの動きキモイ……!


 しかし同時にむさ苦しいまでにハンサムとしたオリオンが去ることで、何とも開放感があった。


『暑苦しさあるものねえ、あの子。顔はかろうじて爽やか系だけど体つきが……』


 筋肉盛々ですものねえ。

 あの肉密度には外温も上がる。ポセイドス神も概ねそうだが……もしや人魚王族のマッスル筋肉ぶりのルーツがここにあったんでは?


『まあ、たしかにあの子が海神族でダーリンの次に有名だというのは認めるざるをえないわ。わかりやすいものねえオリオン座。でもアタシとしては実子じゃない辺り複雑な心境よねえ』


 と切実に語るアンフィトルテ神。

 やはり海神の中でトップに立つのは我が子でありたいと望むのか。


『いや、わかってはいるのよ。自分でお腹を痛めて生んだ子じゃなければ我が子じゃないという考え方は狭量だと。アタシだって海母神として、海の生きとし生けるすべてを我が子として愛さなきゃいけない、それも綺麗言なのかしらねえ』

『そんなことないですよ』


 そんな、澄んださざ波のような声が鳴った。


 誰の声?

 それはもう一神のポセイドスの妃メドゥーサ女神の声だった。

 宵闇の、煌めく星屑映した夜の海のような黒髪の女神。


 彼女はいまだ吊るし上げられたポセイドス神の脇をロウソクの火で炙っていた。


『オウッ!? アウッ!……でもそれがいい……ッ!!』


 何かのプレイ?


 いやそれよりも、メドゥーサ女神曰く『そんなことないですよ』とは?


『メドゥーサちゃん!! フォローしてくれるなんて、やっぱりアナタはアタシの妃友……!』

『ポセイドス様の子どもで一番有名なのはオリオンくんじゃないですよ』

『そっち!?』


 そんなことないって、そっち!?


『オリオンくんもまあまあ有名ですけれど。それでも私とポセイドス様との間に生まれたあの子の知名度に比べれば全然……ダンチのローンチですわ』

『結局我が子自慢かぁ!?』


 やはり妃同士は友ではなかった……?


 そんなメドゥーサ女神イチオシの、知名度断トツの我が子とは?


『では呼んでみましょうか』


 そう言ってメドゥーサ女神、指二本を自分の口に入れたと思ったら……。


『ピューーーーーィーーーーーーッッ!!』


 おおうッ!?

 なんと鋭く甲高い口笛だ!?


 その口笛の吹き方僕もやってみたい!……と思わず教えを乞いそうになったが、その前に激しく状況が動いて、それどころではなくなる。


 空にキラーンと、何かが煌めいた。

 それが何かと疑問に思うより前に、凄まじい速度と轟音で何者かが飛来する。


「なんだぁあああああああああッッ!?」


 その爆速高速飛来物体の正体は……、馬だった。


 ウマ!?


 しかもただの馬じゃない、翼の生えた馬だ。

 翼ある馬……ペガサス!

 ペガサスファンタジー!


『ウチの子ペガサスです』


 メドゥーサ女神が言う。


 我が子!? 種族が違うのですが!?


『それはまあ……神ですから色々融通が利くんですよ』

『おお! 我が子ペガサス元気であったか!? 元気にウマぴょいしておるか!?』


 ポセイドス神までもペガサスを我が子と慈しんでおられる!?

 ではマジで!?


 この翼生えた馬が、ポセイドス神とメドゥーサ女神との間に生まれた一粒種ということなのか!?


『いや、一粒じゃないですけれど……』

『一緒に生まれたクリュサオルくんもおるしな。でもアイツは知名度でぶっちぎりに下だしな……』


 そんなこと言ってやるな!


『そうだったぁーーッ!! ペガサスがいたぁああああッッ!! 知名度でコイツに誰も勝てないぃいいいいいッッ!!』


 アンフィトルテ女神が崩れ落ちた。


『下手すればアタシもダーリンもコイツに勝てないぃいいいいいいッ! 知名度コスモが高すぎるぅううううッ!!』

『コラ、アンフィトルテなんてことを言うんだ!?』

『でも事実でしょう!?』


 悲しいことを言い合う海神夫妻。

 そこへ呼び出された翼ある馬は若干キョドり気味で……。


『あの、オレはどうして呼び出されたんだ?』


 シャベッタ!?

 馬がシャベッタ!?

 もうやだ神の世界、何でもアリすぎる!?


『ペガサスは、私が首を切り落とされた時に生まれた異形の息子。それゆえに翼あるホースという姿を取ったのかもしれませんわね』


 とメドゥーサ女神。


 え? 首を切り落とした!?

 そうは言っても今アナタの首と胴はしっかり繋がっているように見えますが……。


『いえいえ、アタッチメント付けて仮繋げしているだけですよ。その証拠に、ちょっと引っ張ると……』


 スッポン。

 ギャー、首が抜けた!?

 なのに生きている!? 神だからって何でもアリすぎる!?


『本当に参りました……。私の首を切った実行犯は人間の英雄ですけれど、それを差し向けてきたのは他でもない戦女神アテナですからねえ』

『アイツ、ホント心底お前のこと嫌っとったからな。いかにも天界神というか、らしい陰険さと執念深さであった』


 と昔をしみじみ語るポセイドス神とメドゥーサ女神夫妻。


『その結果生まれたペガサスくんが、オリュンポス界きってのアイコンになるとは性悪女神も思いもしなかったでしょうがね』

『かつて大地を支配した大女神メドゥーサの影響力を舐めたんだろ、あの残虐女神。父親と同じで端々に注意が足らんからなあ』


 ハッハッハ、笑い合う夫妻。

 それを見てもう一方の妻神アンフィトルテ女神が難しい顔をしていた。


『……メドゥーサちゃんは、アタシたちより遥かに古い女神だからねえ。下手すりゃガイア様より』


 と言う。


『当時どうなっていたか確かめようのないぐらい昔、大地を統括していた女神。それがアテナ女神に攻め滅ぼされて路頭に迷っていたところをダーリンに迎えられ海神妃となった。……ダーリンとしてはアタシを娶ることで海の支配権を、メドゥーサちゃんを娶って大地の支配権と両方を得て、世界の覇権を握るつもりだったんでしょうけれど……』


 そうは問屋と悪代官。

 海神の野望を挫くものが現れた。


『彼の兄弟ハデスちゃんが、本来オリュンポス神族において大地の支配権を得ていたのに、さっさと放棄して冥界に引きこもってしまった。「大地は等しく生きとし生ける者の領域である」と宣言を残して。それで海神も天神も大地に手出しできなくなった』


 一番の権利がある人(神)が、いかにも殊勝なことを言って身を引いたら誰も何も言えないもんな。

 大義名分は大事。

 つまり……今ある地上の人々の平和を築き上げた功労者は冥神ハデス?


『そうよ、アナタたち農場の住人からしたらおもろいオジサンにしか見えないでしょうけど。あれで深慮遠謀で道徳心も持ち、さらには冥界での職務も精力的にこなす。おまけに奥さん一筋で浮気しない。不義理者だらけのオリュンポス神族から生まれた奇跡ってところね』


 所属が違うのにハデス神のこと褒めちぎるやん。

 そう思う気持ちはわからないでもないが……。


『ええー、私だって海神として務めは果たしておるよ? 海の統治は我が仕事!』

『ポセイドス様、こたびの海流の調整はなさったのですか?』

『特にしてないよー。自然のまま波寄せるままが海のいいところじゃん!』

『そうですわね、おほほほほほほほほ……』


 ポセイドス神とメドゥーサ女神は仲睦まじく笑っていた。

 それを半眼で見詰める僕とアンフィトルテ女神。

 さらにそれを見詰める翼ある馬……。


『……結局オレ、何のために呼ばれたん?』


 ペガサスの問いに応える者は誰もいなかった。

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― 新着の感想 ―
トリトン「僕の出番は…?」 ケートスさん「ちなみに、そのメドゥーサ様の生首で石にされたのが自分です。」
傷付いたままじゃいないと誓い合った遥かな銀河…
宇宙と書いてコスモとよむ
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