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金髪碧眼の兄妹騎士

 時を一日ほど戻し、アルゴとゼオニスが話し合いを進めている頃、そこでも話題となっていたクラン:ブルーソードのクランマスター:ジークハルトは執務室である人物を迎えていた。

「ただいま戻りました。兄様」

 その凛とした雰囲気を持つ女性は、正面に座るジークハルトに開口一番、そう挨拶をした。兄妹と言われても、顔つきは然程似てはいるとは感じられない。だが、全く同質の碧い瞳と豪奢な金髪が両者の関係性を明示していた。

「帰ってきたか。急な命令ですまなかったな」

「いえ」

「トーレスの森はどうだ?」

「兄様の予想通りです。同行した錬金術師の採取した[オリジン・コア]はどれも分裂サイクルが早まっていました。魔獣の数と比較しても、この傾向は数か月前から継続しているものと思われます」

「そうか…やはり大規模なスタンピードは避けようもないようだな」

「はい。我々がいくら魔獣を倒しても異常繁殖のスピードには追い付けないかと」

「だからと言ってあきらめて放置する訳にはいかない。我々は粛々と討伐を進めるだけだ。ギルドマスターも我等と同様、すでに危険は認識している。必要な手はもう打っているだろう」

「はい」

 お互い想定していた通りの内容だったのだろう、ここまでは流れるように言葉が交わされた。しかし、その後は二人とも言葉を発しようとはしない。沈黙が幾何かの時間を消費した。

「兄様…」

 ちょっとした躊躇いの後、彼女は言葉を続けた。

「私が戻された理由は何なのでしょうか?」

 これまでジークハルトが意味の無い命令を下したことなど一度も無かった。それは妹である彼女が一番理解している。だが、彼女をしても、今回の事は思い当たる節が無い。そして、ここまで長く思索に耽る兄を見るのも滅多にない事だった。

「アルゴの所に女性のハンターが入ったことは、お前も聞いているだろう」

 数拍の時を置いてから、ジークハルトが重い口を開いた。

「はい。トーレスの森への遠征前に、一通りは。腕も良さそうだと聞きました」

 兄が女性の話をする事も、そうは無い。表情は変えなかったが、内心では驚く。

「その女性だが、見た事も無い剣の型を使うという情報が上がってきている…」

「それは本当なのですか?!」

 ジークハルトの言葉に、今度は彼女も驚きを隠せなかった。自分たちの知らない剣技。それはこの大陸ではなく、よそから持ち込まれた可能性が高い。

 彼等の一族に伝わる、幾つかの言伝え…

-その技は継承者を失い闇へと消えたが、希望は潰えてはいない。アースリング始まりの島に、そのルーツは今も残っているだろう。いつの日か目の前に其の者が現れたなら…力を試せ。さすれば新たなる道は開かれん。-

 彼等の祖先であるアースリングが残したとされている言葉だ。それを信じて彼等の一族は代々、技を磨くと同時にロストスキルと称される剣術を探してきた。

 そして、さらにもう一つ、目的もある。

「アルゴからちょうど良い要請を受けた。フォックステイルの聖地に現れたミノタウロスの討伐だそうだ。リゼ、お前に行ってもらいたい」

 ジークハルトは彼女からの質問には答えずに、新たな命令を伝えた。

「彼女もその討伐に参加するのですね」

「そうだ。我等の力を託すに足る人物か…お前が見極めろ」

 彼女・リーゼロッテもジークハルトが何を考えていたのかを理解する。この街の置かれた状況と、特殊な剣術を使う女性、そして、自分達の悲願。

 リーゼロッテは彼女こそが自分たちの求めていた人物であると、すでに確信していた。理由はうまく説明できない。だが、その-勘-が外れるとは到底思えなかった。

「一命を賭して…」

 彼女はそう一言告げると、一礼して部屋を出る。前を見つめる碧い双眸には澄んだ光が湛えられていた。




 アルゴとハルカがクルードの邸宅から街へと戻ってくる頃には、陽は中天へと差し掛かっていた。帰り着くとすぐに、シルバーロアの雑務をとりしきる女性がアルゴに駆け寄って耳打ちする。ずいぶん前に来客があり、その人物がまだ応接室で彼等を待っているらしかった。

 アルゴの部屋とは違い、それなりの調度が設えられた応接室へ二人が行くと、その人物・リーゼロッテは立ち上がってこちらを見た。

「ずいぶん待たせちまったみてえだな。まあ座ってくれ」

 言いながらアルゴとハルカは彼女の対面の椅子へと移動する。二人が座ると、彼女も再び椅子へと腰を下ろした。

「で、リーゼロッテ一人って事は、何か問題でも発生したのか?」

「いえ、何も。…フォックステイルの依頼には私が参加するようにと、命令を受けています」

 リーゼロッテの碧い双眸がアルゴを見つめる。

「…おまえが、か?」

 アルゴは驚いて次の言葉を出せないでいた。

「はい。この依頼はギルドでも重要視されています。ならば、私が参加するのが妥当だろうとのクランマスターの判断です」

「ありがたいが、そっちも色々抱えてんだろ?おまえが欠けて大丈夫なのか?」

 大きなクランともなれば、それに比例して優秀な頭が複数必要となる。そして、さらにそれを取りまとめる人間も。彼女はそれが出来る貴重で数少ない人材の一人だった。アルゴは単純に心配から、そう口にした。

「問題ありません。すでに指示は出してありますので。それに我がブルーソードはこの程度でどうこうなるような軟弱なクランではありません」

 アルゴもそこまで言われては、これ以上の言葉はブルーソードを侮辱する事となる。なにより、リーゼロッテはこの街でも有数のハンターだ。戦力の上方修正は歓迎するべき事柄だった。

「確かに余計なお世話だったな。助かるぜ。リーゼロッテ」

 その言葉を聞くと、リーゼロッテは軽く頷いて、今度は視線をハルカへと移した。

「あなたが今、噂になっている方でしょうか?」

「噂?」

 リーゼロッテの問いは、ハルカにとってまったく予想外のものだった。

「おまえはハンターの間じゃ、ちょっと話題になってきてんだよ。女の剣使いは珍しいしな」

 アルゴが横から口を出す。ハンターの中でも前衛職の女性は少なかった。加えて腕もそれなりとなると放ってはおかれない、各クランでも情報通と言われる者達は色々と調べ回っていた。

「私はブルーソードの[ナンバー・ワン]リーゼロッテと申します。お見知りおきを」

 リーゼロッテはハルカに向かって頭を下げる。座ったままでも優雅さを感じる、綺麗な礼だった。

「えぇ~っと…ハルカです。ナンバーワンって事はリーゼロッテさんがブルーソードの一番偉い人なんですか?」

 先程の会話とは少し食い違っている気がして、ハルカは尋ねた。

「いえ。我がクランでは副官をこう呼ぶのです。それから、私の事は[リゼ]とお呼びください」

 リーゼロッテの澄んだ瞳がハルカを射抜くように見つめる。

 ハルカとしてはその視線が微妙にやりにくい。なんとなく居心地の悪さを感じていた。

「わかりました。リゼさん」

 ハルカがそう返すと、リーゼロッテは少し微笑んでテーブルに置いてあった紅茶に口を付けた。その仕草がいちいち絵になる。少し見惚れていたハルカは、この綺麗な女性が次に口にした言葉に、大いに驚かされることになった。

ようやくフォックステイル編のキャラが出そろいました。

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