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それぞれの午後

 ミカヅチ達との打ち合わせを終えたアルゴは、ハルカに話した通りギルドを訪れていた。最近ではあまりに頻繁すぎて定位置となってしまった感のある、無駄に豪奢な応接室のクッションの効いたソファにふてくされた表情で座っている。当然、彼の前にはギルドマスターのゼオニスがいた。いつになくにこやかな顔でアルゴの顔を眺めている。

「ったく。…嫌な情報を毎回毎回会う度に出してきやがって。…こうやって毎日のように顔突き合わせるのもうんざりしてくるぜ…」

 心底、嫌そうにアルゴが言った。

「俺は楽しいがな。特におまえの困る顔が見れるのは何物にも代え難い」

 冗談めかしてゼオニスが答える。彼がここに入るなり最初にアルゴに話して聞かせた情報は、あまり聞きたくはない類のものだった。少しふざけた調子なのはゼオニスなりに気を使っているのだろう。おそらく半分程度は…であるが。

「相変わらず性格わり~な」

「ギルドマスターなんていう仕事はな、ストレスが溜まるんだ。たまにはそれを解消してくれる人間が必要だとは思わないかね?」

「それには同情せんでもないが、生贄は是非とも俺以外にしてもらいたいね」

「そんな便利な人間はそうそういないさ。それはいいとして。お前の話は例の件だろう?」

 ゼオニスが話を本題に戻した。

「ああ。奴は了承してくれたのか?」

 アルゴはソファから身を乗り出して尋ねる。この返事によっては計画を大きく見直さねばならなかった。

「要望通り、明日には人間を寄越すそうだよ」

「有難い。これでなんとかなりそうだ。で、誰が来るんだ?ダッジかセルシアだと文句無しなんだが」

 ゼオニスの返答にアルゴは張っていた気を少し緩めると、重ねて尋ねた。人を選べる余裕は無いだろうとはいえ、知っている人間の方が連携も取りやすい。特に今回のような少人数での作戦では重要な事だった。

「それが、彼にしては珍しく名前を出さなかった。確約はしてくれたんだがね」

「何でも即決しちまう奴がか?」

「俺も意外だったよ。彼が長考する姿など、初めて見たかもしれん」

 ゼオニスとアルゴが知っている、この街最大のクラン:紺碧の剣ブルーソードのクランマスターであるジークハルトという人物は生真面目で何でも短時間で即決し、さらにそれが驚くほど的確であるというのが共通の認識だった。その彼が悩む姿などアルゴには想像できない。

「ブルーソードが担当しているのは北西のトーレスの森あたりだったよな。思った以上にヤバいのか?」

「報告は貰っているし、確かに想定以上に状況は良くない。だが、彼がそのような事で悩むとは思えんな」

「それもそうか、まあ、あの完璧野郎の考える事なんざ俺にはわからねえ。人をまわしてくれる確約が貰えたんならいいさ」

 アルゴは柔らかな背もたれに身を沈めると、自分を納得させるように呟いた。ゼオニスはアルゴの言葉を聞きながらも、何事かを思案している。

「彼の悩みどころは解らないが、恐らく遠くない将来、俺たちの懸念は現実のものとなるだろう。その事は調査の結果からも確実と言っていい…」

 自分に言い聞かせるようにゼオニスは予測を口にする。魔獣の異常繁殖から生じる大規模なスタンピード。その予兆はすでに偵察を行った各所で見られていた。

「ふう…それも聞かなきゃ良かったと言いたい気分だぜ。嫌な予感だけは当たりやがる…」

「準備はブレイズドラゴンが姿を見せなくなってからすぐに始めている。間に合うさ。いや、間に合わせて見せる」

 いつになく真面目な口調でゼオニスは決意を語る。余人にはあまり見せない、クロトの街のギルドマスターとしての気概と貫禄がそこからは溢れていた。さすがのアルゴもこればっかりは茶化す事など出来ない。ゼオニスの思わず漏れ出た本音に彼は笑みを深くする。

「そうだな。この先の小難しい対策はギルマスに任せるさ。俺は目の前の問題を全力で解決する事にするよ」

 自分の仕事を確実にこなす。単純だが、それこそが一番大事なのだとアルゴは考えていた。


「そういえば、彼女も討伐のメンバーに入ったそうじゃないか。これで彼女の本当の実力も確認できる訳だ」

 いつもの調子に戻ったゼオニスが興味深そうに話す。実際、目は確かだとされる彼にもハルカがどこまでの力を持つのか、正確には判断できなかった。実力者が持つ底知れなさを彼女からも感じる。

「どっから聞いたんだよ。…ったく。討伐対象がミノタウロスタイプの亜種じゃなければ俺も気楽にそう考えられたんだがな」

「フォックステイルの勇者達が全滅させられたとなると、亜種だと判断せざるを得ないか。確かに手ごわいが…勝てなくはないだろう?」

 ミノタウロスも亜種で体躯が大きいとなれば、かなりの脅威だ。だが一匹であれば戦術次第で十分に勝てる。今、アルゴが集めようとしているメンバーであれば問題は無いと思えた。

「だといいがな。ヤバいと思ったらケツ捲って逃げるさ」

 努めて軽く言う。自分でもわからない、漠然とした違和感がアルゴの裡にしこりのように存在していた。



 一方、ハルカはフォックステイルの二人と街の外へと出ていた。防壁の外側から数km程の範囲は農耕地などには利用されておらず、街の遊休地とされている。大きな岩が転がり、雑草木がはびこるそこは、ハンターたちの簡単な訓練の場として日常的に使用されていた。彼女たちもそれが目的でここまで来ている。

 シルバーロアまで一緒だったヴェチカとニアは途中で別行動となっていた。彼女は午後から薬師・ラーベの所で教えを受ける事になっていたためだ。みんなで昼食を取った後、工房へ向かうヴェチカに、ニアは当然といった様子で付いていっている。あまりに自然なその行動にハルカも疑問に思う暇も無かったが、よくよく考えるとサポートキャラが好き勝手にしている状況というのは問題だと言えた。しかし、その外見も手伝ってか、ハルカにとってすでにニアは自分の所有物だという感覚は無く、どちらかと言えば友人に近い。仮に気付けていたとしても、その行動を邪魔しようとは思わなかっただろう。

 もちろん、多少の小言を言うくらいはしたに違いないが。


 適当な場所を見つけたハルカはアサギリと並んで小ぶりな岩に腰かけた。ハルカは予めミカヅチに訓練を見て欲しいと頼まれていたので、彼が準備するのをぼんやりと眺める。

 ミカヅチはハルカ達から十分な距離を取ると、腰に下げたガントレットにその小さな手を通した。内側の固定具を操作して腕にがっちりと密着させる。マナを循環させると一瞬、装甲表面に光の文様が浮かび上がった。

 彼はそれを確認すると、目の前で手を握ったり開いたりしてみる。フォックステイルの掌に比して明らかに大きいその手は、当然グローブなどではない。魔石とマナによって駆動する義手の一種だ。そのままでは小さな物しか持てない彼等は、これを装着する事で普通サイズの武器の使用を可能としていた。

 一通りの動作手順をこなし、異常の無い事を確かめた彼は、その手で背負った剣の柄を握る。ガントレットと一揃いで創られた剣・天叢雲剣アマノムラクモノツルギはまるで意思を持つかのように、その動きに呼応して掛けられた鍵を解除した。鞘が割れ、刀身が顕になる。

 神器と言われるほどの神々しさは、その外見からは見て取れなかった。刀身はおおよそ1mちょっと、といった所か。両刃の直剣で鍔の細工は見事だが派手さは無い。人が使うには問題ないが、小さなフォックステイルが使うには長すぎと言えた。普通に振れば地面へと当たってしまうだろう。


 ミカヅチは両手で剣を構えると、まずは横へと薙いだ。そこから上へと振り。体を入れ替えると、またさらに横へと薙ぐ。流れるような一連の動きを見る限り、彼等の小さな体でいかに剣をうまく扱うかに特化した剣技のようだ。時折、中に挟まれる鋭い突きと、最後の上段からの振り下ろしが止めの役割なのか、他の動きに比べはるかに剣速が早い。手数とスピードの緩急で相手を翻弄し、隙を突いて倒すのが基本戦法だとわかる。

 ハルカの目から見ても、ミカヅチの剣技は十分熟練の域に達しているように見えた。下手なアドバイスは持ち味を殺してしまうだろう。

「特に言う事があるようには見えないな~彼、凄いんじゃないの」

 ハルカは隣のアサギリに話しかける。なまじ片言のフォックステイルの言葉で話すより、そのままの方が細かいニュアンスは伝わりやすいという事で、無理に彼等の言葉を使う事は止めていた。

『彼、天才と言われてます。でも、勇者の証・三尾の兆しない。彼、自信なくしてる』

「ん~そっか~。でも、私が言える事なんて大した事無いよ。それで彼に自信が戻るかな」

『他ならぬフレイヤの言葉。きっと届きます。私たち、街でハルカ様を見かけた時、運命、感じました。姫御子様の言葉、正しかった』

 恐ろしい程の信頼の高さを感じる。昔のプレイヤーが彼等とどういうふうに接したのか、ハルカには興味が湧いてきていた。

「その、アサギリちゃんは他のプレイヤーに会った事があるの?」

 ハルカは無意識にちゃんづけして呼んでいるが、自分では気付いていない。

『ありません。でも、話は色々、伝わってます。強くて、自由で、我等に無償の愛をくれた。と』

「あ~うん。…わからないでも、ない…かな」

 これだけ可愛い存在だ。特に女性プレイヤーは肩入れしまくったに違いない。

『我等、それまでは生きるの、必死でした。でもフレイヤのおかげで、喜び、できた。フレイヤ言ったそうです。この世界、楽しい事、いっぱいある。私もそう思います』

「…うん。そうだね」

 最初は1000年も経っていることに愕然としたが、今ではあまり気にならなくなっている。

 魔獣の脅威にさらされた厳しいこの世界。しかし、そこでも人々は笑って生活を送っていた。

 自分もその仲間になれたらいい。過去のプレイヤー達もそう思ったに違いなかった。

 ハルカは昔のプレイヤーがやったであろう事を想像しながら、たぶん同じような事をやってしまうのだろうな、と、ぼんやりと思っていた。

この世界ではエーテルとマナという言葉が同時に出てきますが、エーテルが原子だとすれば、マナは元素みたいなニュアンスだと思っていただけるといいかと。

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