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紋章を持つ者達

「まぁ、そういった事で彼等はここに魔獣討伐の手助けを依頼しに来たって訳だ」

 身振り手振りを交えて、ひどく大雑把に事の成り行きを説明したアルゴは、そう言って話を締めた。

 なるほど、経緯はなんとなく分かった。しかしハルカにはなぜ自分の所までフォックステイルが尋ねてきたのか分からない。すでにシルバーロアに依頼をしていたというのなら、尚更だ。

「いきさつは理解したけど、なんで私に声がかかったの?」

「それは俺のほうが聞きたいぜ。この依頼は彼等の聖地に踏み込む事になるんで人選がやっかいなんだよ。それこそハルカが直接聞いてみな」

 アルゴの言う事ももっともだった。隣に大人しく座るフォックステイルの二人を見るが、特に何も言ってこない。ここで話すつもりは無いようだ。

「それもそうか、私の事は後でいいや。…それで、アルゴが悩んでるのって、その人選についてなの?」

 ハルカも数週間、この街で暮らしてみて実感したのがハンターを生業とした人の多さだった。彼女の主観だとギルド直属のガーディアン達も数に含めるとすると、街を歩く人々の四割くらいが魔獣討伐のために働いているように見える。実際はそこまで多くないと思うが、それでも人選に苦労するようには感じられなかった。

「腕の良さだけで選べりゃ苦労はしないんだが、さっきも言ったように討伐場所はフォックステイルの聖地だ。こいつは公には開示されてねぇ。そこまで行けるのはフォックステイルと友誼を結んだ奴だけなんだよ」

 そこまで言うと、アルゴはテーブルに置かれた水の入ったグラスを乱暴に掴んで中身を飲み干す。一息入れて、彼はさらに話を続けた。

「でだ、現在この街で[フォックステイルの紋章]を持ってるのは百人といったところだ。その中で今度の討伐に連れて行ける奴を絞り込むと十人ほどしかいねえ。そこからさらに今、体が空いてる奴はというと、…俺も含めて二人だな」

 あまりの少なさに、さすがにハルカも絶句する。

「…ええと、じゃあ、私を入れてようやく三人って事?」

「彼も十分戦力になる。四人だ」

 アルゴがフォックステイルの勇者[ミカヅチ]を指して言った。

「それは…ちょっと…」

 魔獣の数も強さもまだ詳しくは聞いていないが、アルゴの話しぶりからして厳しいのだろう。ゲーム時代のパーティー必須なボス戦をハルカは思い出した。

「まぁ、もう一人当てはある。そっちはギルマスに任せてあるがな。それで五人になれば勝機は十分見込めるようになる。いやぁ、ハルカがフォックステイルの[紋章]持ちで助かったぜ」

 アルゴが真面目な表情を崩して、少し笑顔を浮かべながらハルカにそう声をかけた。厳しさにそう違いはないが、少なくとも見通しが立った事に彼は安堵していた。

「申し訳ないんだけど、その…[紋章]ってどんなの?」

 ハルカは聞いてもまずそうだが、聞かずに放置も後々問題がおこりそうな雰囲気を持つ、その言葉の意味を尋ねた。

「ああ、記憶が無いんだっけか。まあ、フォックステイルとの友好の証みてぇなもんだ。胸のここらへんにあんだろ。ちょっと変わった模様みて~のが」

 そう言ってアルゴは自分の胸の心臓あたりを指さす。

「え~~っと…」

 ハルカは逡巡した。流石にあれから何度もお風呂に入っている。その時に興味も手伝って自分の体を色々調べてみたが、そんな模様は無かったと断言できる。

「それって、位置は胸限定?」

「ん?胸のあたりに施す事によってマナの循環効率が上がる効果があるらしいからな。そこ以外に入れてもらったって話は聞かねえが…まさか無えのか?」

「ん~~たぶん…」

 恐る恐るハルカは答える。後で分かるよりは何も知らない今の方が良いと漠然と感じていた。

『ハルカはフレイヤ。フレイヤはみなトモダチ。紋章いらない』

 それまで黙っていたフォックステイルのミカヅチが不意に喋った。人の言葉を話せはしないが聞き取りはいくらかできるらしい。

「あ~すまん。なんて言ったんだ?俺はフォックステイルの言葉はちょっと苦手でな…」

 アルゴはバツが悪そうにハルカに尋ねた。

「えっと、ハルカは特別な友達だから…紋章はいらない…みたいな?」

 なんとなくフレイヤという言葉は危なそうだったので、ハルカはそのあたりをぼやかして答えた。ミカヅチも空気を読んだのか、それ以上は口を挟まない。

「戒律に厳しいフォックステイルがそんなこと言うのは初めて聞くぜ。ハルカは本当に特別なのかもしれねえな…ま、ミカヅチ達が認めてんなら何の問題も無え。」

 アルゴは今一つ納得していないようだったが、他にも問題はあるらしく、その話はそこで切り上げられた。


「そういや前提を確認してなかったが、ハルカはこの依頼、受けてもいいと思ってるんだよな」

「そりゃ受けるしかないでしょ。こんな可愛い子たちに頼まれれば、ね」

 ハルカは横にちょこんと並んで座るフォックステイルの二人を見ながら笑顔を浮かべる。

「それに、勝算は十分あるんでしょ」

 そう言ってハルカは顔を正面に戻すとアルゴの瞳を見つめた。彼はは豪快な言葉とは裏腹に非常に綿密な計画を立てるタイプだと、これまでの事から判断できる。よほどの事が無い限り危ない橋は渡らないだろう。そういったみんなの命を預かる者としての矜持みたいなものを、これまでの彼の行動からハルカは感じとっていた。

「斃せるかはわからんが、おまえが参戦してくれるなら撤退の確率は四割から二割あたりまで減るだろうな」

「じゃあ決まりだね。私の力をそれだけ認めてくれてるんだもの。手助けはしたいわ」

『ありがとう。ハルカ。ワレラ助かる』

『ハルカ・様、お礼、申し上げます。伝承、正しい。この出会い、運命』

 ミカヅチとアサギリが改めてお礼の言葉を口にする。表情はわからないが、尻尾と長い耳の動きが喜びを表しているようにハルカには思えた。

「この街に来たばっかりで色々大変なハルカに頼むのは正直、気が引けるんだが…、彼等もおまえに引き受けてもらえて嬉しいようだ。こっちも助かる」

 アルゴはそう言うと、立ち上がってゴツイ右手を差し出してきた。一瞬キョトンとした表情を浮かべたものの、すぐにその意図を悟りハルカも立って右手を差し出す。

 力加減は当然しているのだろうが、それでもアルゴの手はギリギリとハルカの手を締めあげた。

「やっぱ、見かけよりは遥かに力があるな」

 人の悪い笑みを浮かべながらアルゴが言う。

「力が無いと剣は振れないからね」

 しっかりと握り返しながら、にこやかにハルカも答えた。

 力試しじみた握手が終わると、二人とも再び椅子に座り直す。

「さてと、あんまり時間がねえ。こっからの予定なんだが、メンツが揃い次第、一日かけて連携の確認をする。で、翌朝には出発だ。…たぶん三日後だな。帰ってくるのは三週後あたりだ。そのつもりでいてくれ」

 おもむろにアルゴが話を切り出す。

「という事は、明日にはもうメンバーが揃いそうなの?」

「まあな。一人はこれからギルマスに会って確認する。もう一人は明日、俺が直接依頼に行くんだが…、そっちはちょい面倒だな。会うのにちょっと力技が必要かもしれねえ」

「へ~、で、どんな人たちなの?」

 先程のアルゴの話しぶりからすると腕が立つハンターであろう事はわかる。ハルカにも俄然興味が湧いてきていた。

「ん?どんなって、一人は人間の剣士でもう一人は…」

 そこからアルゴは突然黙り込むと、思案顔で頭を上げ天井を見つめた。

「そうだな、明日はハルカも付き合ってくれねえか?ちょっと変わり者で、俺だと揉めて無駄に時間がかかるかもしれん」

 視線を元に戻すと、そうハルカに頼み込む。

「いいけど…私で役に立つの?」

「わからねえが、ま、俺よりはマシだ」

 頭を掻きながらアルゴは答える。よほど苦手なタイプの人物らしい。

「偏屈な人とか?」

 自分の師匠もそうだったが、腕の立つ武人には偏屈な人が多い。というのがハルカの実体験に基づく持論だった。

「偏屈というか、趣味の邪魔をされる事をひどく嫌うんだよ。フォックステイルの依頼だから断る事はねえだろうが、長時間、文句を垂れられると鬱陶しい」

「趣味人か~ちょっと面白そう。」

「なんにせよ、奴ほどの魔導士はそういない。こんな時ぐらい仕事してもらわねえとな」

「…魔導士。魔法使いなの?その人」

 ハルカの声が少し上擦る。

 -魔法- 話には聞いていたが、まだ見た事は無かった。果たしてゲームのように派手なエフェクトやら魔法陣やらが見れるのか、ハルカのテンションも上がってくる。この世界がさらにファンタジー色に染まっていくような気がした。

「ああ、エルフの魔導士だよ。本人は芸術家が本業だと言い張っているがな」

「エルフ…」

 さらに問題の人物がエルフだという事が明かされた。この街に着いてから人と獣人は結構見かけたし話もしたが、それ以外の種族には殆ど会っていない。初めて見る事になる魔法とエルフという種族に、ハルカの期待は否が応でも高まっていた。

補足:ハルカは以前戦ったブラッドレオの炎の弾丸の事は魔法だと思っていません。「なんか火吹いてきた」くらいの認識です。

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