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二尾の勇者と巫女

 フォックステイルはそもそも強力な魔獣が数多く跋扈するこの大陸では自衛もままならぬ程に弱く、絶滅も危惧される種族だった。それを900年ほど前に救ったのが、あるプレイヤーの一団だ。

 ひっそりと隠れて暮らしていた彼等とひょんなことから知り合い、友人となったプレイヤーは、少しずつ交流を深めていき、その中で彼等の持つ特殊な力に気が付いた。

 プレイヤーは彼等のエーテルとマナを感知する能力と器用な手先に目を付け、当時はネイサーと呼ばれていた者達と一緒に開発していた高度で複雑な魔石の加工方法を伝授した。

 魔石とはマナが結晶化した物質の事で、小さな物は地中や植物からも採れるが、純度が高く大きい物は生物からしか調達できない。これまでも採掘された魔石は灯りや調理用の単純な魔導具に使用されていたが、戦闘に使えるような物は存在しなかった。そこにフォックステイル達が加工した魔石を使った武具が現れる。

 ドワーフ達も協力して製作されたこの武具は魔獣に対して大きな力を発揮し、人族らの版図を拡げる事に貢献した。

 こうしてフォックステイル達は絶滅の危機から免れ、他種族との交流も見られるようになっていく。

 そして幾何かの時が過ぎ、彼等にとって次の大きな転機となったのは、自分達でも使える武器の誕生だった。

 人族らの領域が拡がるにつれ、より強い魔獣との闘いが余儀なくされていく。その中で必要とされたのは、やはり強力な武器だった。だが、自然界に存在する魔石では数を使わなければ大きな効果を発揮できない。それでは武具の取り回しに問題がでる事となる。今まで以上に、強い魔獣が体内に持つ純度の高い魔石が必要となった。

 フォックステイル達はその魔石を他種族から貰いうけるだけでなく、自分達でも調達する道を選び、そのための武具を開発した。

 彼等の小さく繊細な手ではまともな武器が持てない。そのため、これまでは魔獣から逃げるしか生き残る術は無かった。しかし、それを魔石の存在が変えた。

 武器を持てるようにするためにマナで動作する大きな手を備えたガントレット、自分達の身長ほどもある剣、それらを使って魔獣を斃す。そんな事が可能となった。

 そして、そういったフォックステイルの中でも、戦闘用のガントレットと剣を上手く扱えるものは勇者と呼ばれるようになり、同時期に魔導具製作で重要となる鏡の扱いに長けたものは巫女・カンナギと称されるようになった。

 これには多聞に関わったプレイヤーの趣味嗜好が反映されているのだが、当時、それを諫める者が存在しなかったのは幸運だったのか不幸だったのか…

 ともあれ、このような二度の大きな転機を経て、フォックステイル族は現在の姿となった。今では各都市の周囲に必ず一つは彼等の集落が存在しており、加工された魔石は都市にとって重要な戦略物資となっていた。


 ここもそういったフォックステイル達の集落の一つで、クロトの街にとってはほぼ唯一といっていい魔石の仕入れ先だった。

 森の中のぽっかりと開けた空間、そこには石を敷き詰めて造られた道が中央の広場を起点として周囲の森へと伸びていた。その左右には彼等のサイズに合わせた小ぶりの家屋が数戸ずつ固まって並んでいるのが見える。そして、その壁や屋根には凝った意匠が施され、美しく飾り立てられていた。人から見れば、さながら精巧なミニチュアのような街が、自然の中に溶け込み築かれている。物作りに関してはドワーフ達も負けてはいなかったが、フォックステイル達も彼等とは違う独自の物作り文化を育んでいた。


 ハルカとフォックステイル達の出会いから少し時間は遡る。

 広場に面した中でも一際手の込んだ美しい装飾がなされた建物に、四名のフォックステイルが集まっていた。祭壇のようにも見える大きな飾り窓の前に三名が立ち、一名はその前で膝をつき、頭を垂れている。

 彼等の今後について重要な事柄が、今、決定されようとしていた。

「傷はもう癒えましたか?」

 真ん中に立つ、簡素ながらも手の込んだ細工がなされた額飾りを付けた女性が、頭を下げて控える青年に声をかけた。

「はい。姫御子様」

 彼がさらに頭を下げると、それにつられるように彼の二つに分かれた尻尾が揺れる。彼等にとって尻尾は力の象徴だった。マナを自在に操れるようになるにつれ尾が増える。三尾となり、先達に認められると、そこで初めて勇者や巫女・カンナギと呼ばれるようになる。それがこの900年で作られた彼等の習わしだった。そういった意味では、彼はさしずめ若き勇者見習いといった立場となるだろう。

「あの戦いで三人の勇者が還らぬ者となりました。これは異例となりますが、本日この時を以てあなたを勇者とし、[御雷ミカヅチ]の名と神器[天叢雲剣アマノムラクモノツルギ]を授けます」

 思いもよらなかった言葉に彼は驚いて顔を上げた。

「で、ですが…」

「戸惑うのは分かります。しかし時間が残されていないのです。ここは最北の辺境…他の地の同胞からの助けを待っていては、社は破壊されてしまうでしょう。そうなってはこの地に生きる者達の犠牲がさらに増える事となってしまいます」

「僕には…まだそんな力はありません…」

 彼は俯き、それだけを口にした。悔しそうに歯を食いしばる。目指していた、名誉なはずの勇者の称号がとてつもなく重く感じた。


 ここよりさらにマナが濃い魔獣の領域奥深くに建築された社。そこには魔石を加工するためにも重要な役割を持つ[マナの祭壇]があった。二年前のブレイズドラゴンの消失により始まった魔獣の異常繁殖、それにより社の周辺はさらに危険な状況へと置かれた。だが、もともと魔獣の領域に造られる事の多い社は対策を十分に考えられている。社を守る結界と三人の勇者の活躍で、これまではどうにか社への安全なルートを確保できていた。

 しかし、それもひと月ほど前に現れた恐ろしく強い個体によって破綻する事になる。その魔獣はあろう事か社を含んだ広域を他の魔獣を排除し、自分の領域としてしまった。

 三人の勇者は果敢にも戦いを挑んだが、失敗。同行した五人の勇者見習いも少なからず手傷を負う事となった。

 その五人の中でも彼は一番若く、そして、それ故に一番軽傷で帰ってくることが出来たといえる。他の四人は未だ立ち上がる事も出来ずにいた。


 自分の不甲斐なさが腹立たしかった。

「僕は[天叢雲剣アマノムラクモノツルギ]を使いこなす自信がありません。僕のせいで神器を失う事になったら…」

 彼は正直に今の自分の心情を話す。神器とされる天叢雲剣は一つきりではない。だがプレイヤーから提供された部品を使っているためか、同じ能力を持つ神器を増やすことは出来なかった。現在、この集落にある天叢雲剣は二振り。先の戦いでも一振りは使用されたが、事切れる前の勇者に彼が託され、なんとか持ち帰って来ていた。

「あなたはすでに力を持っています。ただ、それに気が付いていないだけです。勇者[迦具土カグツチ]はそれを見込んであなたに天叢雲剣を託したのでしょう。…自信を持ちなさい」

「…そうでしょうか?」

 彼にはそれが真実だとは思えなかった。

「とはいえ、あの魔獣に一人で立ち向かうことは出来ません。約定にしたがいクロトの街で助力を求めるのです。彼等は力を貸してくれるでしょう」

「…わかりました。姫御子様のご指示に従います」

 自分が勇者となる事に納得した訳では無い。しかし、あの魔獣をそのままにはできなかった。彼の中の勇者を目指した時の気持ちはまだ折れてはいなかった。



「[朝霧アサギリ]あなたも彼に同行なさい」

 ミカヅチが退出した後、姫御子と呼ばれていた彼女は隣に立つ、やはり若いフォックステイルに声をかけた。

「おそれながら…結界の維持が必要になるとお考えですか?」

 アサギリと呼ばれた三尾の巫女が頭を垂れながら尋ねる。魔獣を倒せないなら、結界維持のためのマナ操作の時間さえ稼げれば、同胞の助けが来るまで社の破壊は防げるかもしれない。彼女はそう考えた。

「それも少しはありますが…マナではなく、エーテルの揺らぎを感じるのです。これは遥か昔にも感じた事があります」

 姫御子はそう言うと、目を瞑り少しの間黙り込んだ。

「クロトの街で思いもかけない出会いがあるかもしれません。そうなれば、あなたにとっても貴重な体験となるでしょう」

 彼女は再び目を瞑る。そして古き懐かしきエーテルの揺らぎに思いを馳せた。

何を書いて、何を書かないか、選択が難しい。自分だと読み飛ばしそう(苦笑)

割と重要な設定も出てきてるんで時間かかっちゃいましたが、変更の可能性もあります。

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